果て
世界の終わりに佇む少年。まるで神様の手によって一掃されてしまったかのような荒れ果てた大地を、ただ静かに見つめていた。無気力の上に佇む少年。彼が積み重ねてきた思い出のせせらぎは、無意識的に流れを止めていた。記憶は流れている、激しい濁流となって。無の境地と対峙し、幼少期の記憶がふと脳裡によぎる。遠く広がる田園地帯、夜になると浮かび上がる遠くの街灯。少年は、どうしてその景色が彼自身を包み込んでいるのかを理解することができなかった。いや、そういう思考プロセスに至ることはなかった。
彼はただ、必死に生きようとした。しかし、今は無の境地にいる。人間は自己が破壊されつつも、心臓が鼓動を打つことを無理やり正当化する。彼は人生に意味を付与する余裕すら持ち合わせていなかった。気がつけば、視界の中心から放射状に白い光が広がり、やがて彼の体から数マイル、数分後には数光年先まで手を伸ばした。光は彼に思考させる余裕を与えない。思考は人間の尊厳、尊厳を見出し人間は生命を正当化している。自分の居場所を混沌に求め、他者と衝突する。他者は少年によって破壊されるか、他者によって少年自身が破壊される。自己が破壊されたら、他の他者の破壊を試み、破壊が成功したら自己に尊厳が生まれる。人は、他人の思考に衝撃をもたらすことにおいてもまた、存在意義を見出している。しかし、少年の思考は止まっている。時間が細分化され、そして細かくなった時間がさらに細かくなる。無限の中に少年はいた。しかし、彼はまだ人間でいられているようだ。他者により危害を加えられた状態になってはおらず、他者志向にもなっていない。人々は皆、どちらかに傾き人間を保ち、そして社会は前や後ろに進んでいく。
まつ毛が風に靡いた時、少年の心臓は一度鼓動を打った。彼の中にあったのは既成事実、哲学、方位磁針。心臓が動き、血液は体をめぐる。強力な磁石が体内を締め付け、彼に蔓延る粘着質な腫瘍は軋み出す。軋んだ腫瘍は、やがて自己破壊の連鎖を発生させ、少年の臓器が次々に機能し始めた。少年は、自己破壊を繰り返した。自己破壊を達成した少年を取り囲む光に次第に色がつき始め、彼の射程はさらに数十光年延長した。静かに崩れ落ちた彼の哲学は、赤い雫となり、無色透明な水でできた世界へポツリと落ち、水の粒子を這うように華やかに底へ、底へと広がっていったのだった。