聖痕
白く変わるくらいに 力のこもった組んだ手を解く
両掌に赤い痕が浮いていた
祈り続けていたからか
願いを繰り返していたからか
訴えた相手には 祈りでも願いでもなく
呪いにすら思えるかもしれん
強い思いを判断するのは誰だ
愛情のつもりが 心配りのつもりが
執着に映るとも限らない
この世界に据えられた席に座る
祈祷台を前に 浅い椅子に座り直し
心を伴う誰かを想像する
見えているようで 煙の如く失う
心を占めているようで 移ろって隙間だらけ
時を跨いでも忘れないのに
研ぎ澄ましたはずが 独り善がり
この世に据えられた席を離れて
自分の世界の窓へ歩く
開け放した両開きの向こうに
夜空の暗さを 散る花弁が飛ぶ
真下に広がる荒地に
落とし続けた嫌味の塊が石を成す
落とし続けた苦しみの計らいが
道を作って方々へ延びる
それを憂いと呼べるなら
瓦礫にも愛があると言えるだろう
罅は亀裂に至り
燻りは大火に変わる
吐き出した吐息は 毒の雫を垂れ
思う相手へ進み続けているなんて
清いだけのつもりじゃ
分かる訳もないよな
祈ってるつもりで
純粋なつもりで
力の限りを爪突き立てた手の平に
赤い聖痕
聖なる痕に見えたのは
誰の判断だ
美しく模った相手の残像を追う
掠れて壊れた幻に
聖なる証を縋る
狂気と純然の赤へ