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3もう我慢の限界です!


 翌日早速父の元に国王から呼び出しが来た。

 父は公爵でもあるが王宮でも仕事があった。父は国防長官だ。私も詳しい事はよく知らないが騎士隊の最高責任者でもあり、諜報機関の最高責任者でもあるらしい。

 私は父に書斎に呼び出された。

 部屋に入るなり足が震えた。これから何を聞かれるかわかっていたからだ。

 昨夜は父の帰りが遅くあの話をしなくてよかったのでほっとしたが…


 気難しい顔をした父が聞いた。

 「ソルティなにがあったのか?」

 「…は、はい、昨日アルフォン殿下からお話がありまして、お付き合いされていた女性が妊娠したので婚約を解消したいと言われました」

 父の顔がしかめっ面になる。

 「まったく、お前は何をしていた?殿下の欲などお前が処理するのが当然だろう!それでお前はなんと?」

 眼光鋭い瞳で睨まれて私の身体が強張って行く。なぜなら父は怒ると怒りに任せて暴力をふるうからだ。

 そうだった。あの男よりもっと厄介なのがいた。


 ★***★


 これまで幾たび殴られて来たか。

 母が生きている頃は父は王都で仕事をこなし母は領地で祖父母と一緒に離れて暮らしていた。

 社交シーズンになると母と兄ふたりと私は王都に滞在する。そんな生活だった。

 でも母が亡くなってから父は変わった。

 かなりのお酒を飲むようになり酔うと母を思い出して辛いのかイライラして八つ当たりするようになった。

 そして次第に仕事の事などいろいろな事を理由にお前が悪いと殴られるようになった。

 そんな事、私の責任でもないのに…


 私には8歳年上の兄プリオと7歳違いの兄ジョーイがいる。父はこの出来のいい兄たちを溺愛している。

 兄の前ではいい父親ぶりを見せたいらしく兄がいるときは私も殴られることはなかったのでそんな父の事を兄たちは知らない。

 上の兄は騎士隊に所属していて下の兄は結婚して奥さんのカイリーと領地の方で領地管理をしている。

 最初は祖父母が生きていたので慣れない兄たちは祖父母の助けを借りた。数年前祖父母が他界してからは夫婦で領地管理を行っている。


 そんな訳で我が家には父と私とで暮らしている。もちろん執事や侍女はいるが父に逆らう人はいなかった。

 婚約が決まってからは殴る場所も服で隠れる背中やお尻などになった。

 背中を殴られると当分息をするのも苦しくドレスを着るのが辛かった。

 お尻を殴られるのはもっと辛かった。学園で椅子に座ることさえ苦痛だったから…

 夜会が近いとき太ももを殴られた事があってあの時はほんとにどうしようかと思ったがアルフォンは一曲しか踊らないので助かった。


 侍女のリルは母が領地で世話をしていた教会の孤児院の出身だった。私は母について孤児院にもよく顔を出していてリルと仲良くなった。

 2歳年上のリルは頭がよく機転の利く女の子だったので母が領地の屋敷のメイドとして雇った。そして母が亡くなって王都に行く事になった時に私がどうしても一緒に行きたいと言ってリルは私の侍女となった。

 リルは最初は暴力の事に気づいていなかったが隠せるはずもなかった。

 そんな事情を知っていたので、リルが気づいてくれて父との間に入って助けられたことが何度もあった。そのせいでリルが殴られることも度々だったのに… 

 「お嬢様どうすることも出来ず申し訳ありません」

 リルはそう言いながら泣きながら手当してくれた。リルも殴られていると言うのに。

 だからリルにはすごく感謝しているし絶対の信頼をおいている。

 そして学園に通うようになると護衛騎士として王都の教会の孤児院出身だが騎士としてかなり腕の立つ男を雇った。

 名前はルドルフ。年はアルフォン殿下と一緒の23歳だ。髪は漆黒色で長い髪は後ろで束ねている。瞳は蒼翠色。あのアルフォン殿下と同じ色。

 そしてかなり端整な顔立ちの人だったが、いつも気難しい顔をしている人で必要最低限の言葉しか発しない人だった。

 そして真面目だった。

 ルドルフは私の護衛騎士としていつも私のそばで私を守る仕事を完璧にこなしてくれている。

 もちろん屋敷を出てから帰るまでが彼の仕事なので、父の暴力の事など知るはずもないだろう。

 それに父の仕事の手伝いもしているらしい。きっと諜報活動などにも長けているんだろうと思う。


 ★***★

 

 「わ、私の一存ではどうにもできませんと…ですがお父様この結婚はもう無理ではないでしょうか?」

 私ははっきり言ってアルフォンと結婚したくない。修道院に行ってもいいし働いてもいいとさえ思っているのだ。

 実はメアリーのお姉さんが王都アルモントでレストランを開業していて私はその店で働きたくて仕方がないのだ。

 メアリーが楽しそうに仕事の話をするのでうずうずしていた。

 最近王都では貴族がお店を出すのが流行っていて、あちこちにレストランや服飾や小物などを扱う店が出来ている。

 だが、父は王族になるものが仕事などと言って働くことを認めてくれるはずもない。

 またそれを言う勇気も私にはなかったが…


 「何を言っている。お前はアルフォン殿下の婚約者なんだぞ。お前が婚約を解消しないと言えば済む話だ。女が妊娠。国王はどうする?何人王妃がいると思っている?そんな事はどうにでもなること。お前はアルフォン殿下と結婚させる」

 「そんな…いやです。私はあんな…あんな人と結婚するのはいやです!」

 「ならばお前はこの家から出て行け!ふん。そんな事出来るはずもない癖に…ソルティお前は私の言う事を聞いていればいい。彼と結婚すれば王族になれるんだ。これほどの名誉がどこにある。いいから話はおわりだ!いいから支度をしろ。王宮に行く」

 父はそう言うと部屋から出て行こうとした。

 いままでの自分だったら殴られなかっただけで良かったと思っただろう。

 でも、この時私の中で何かが切れた。

 私は…つい反論した。

 「そんな…いやです。私はアルフォン殿下と結婚しません。だからここを出て行きます。お父様がそうおっしゃったのです。私は自由にさせてもらいます」

 「何を生意気な。お前はこうしなければわからんのか!!」

 父が私の頬を打った。思いっきり張り倒され床に身体が打ち付けられる。

 びりびり痺れた頬に手を当てる暇もなく私は言った。

 「どんなに殴られても嫌なものはいやです。さあ、殴ればいいでしょう?好きなだけ!よければ死ぬまで殴ればいいじゃないですか!あんな奴と結婚するくらいなら死んだほうましです。さあ、思う存分!」

 父が私を見下ろして拳を震わせる。

 「お前という奴は…どこまで…クッソ!」

 父は殴りたかったのだろうが、今の感情のままに殴れば本当に殺してしまうかもしれないとでも思ったのか、くるりと身体をひるがえして部屋から出て行った。


 ほっと息をつく。

 思えば私のどこにそんな力があったのだろう。

 ずっとこらえて来た糸がプッツンと切れたみたいに。

 私は初めて自分の気持ちに正直になれた気がした。

 そしてやっと肺に酸素が入って来た気がした。

 やっと自由になれる気がした。





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