第一話 ヒーロー・ダイ・トゥワイス
「…ねぇ…なんで…あなたが…死んでるの…? あなたが死んじゃだめじゃないですか…ねえ……起きてよぉ…」
───
「ついに届いたか…中古詰め合わせのゲームが…」
2014年
中古ゲームってのは良いものだ。まず第一に安い。俺は特別家庭環境に問題があったわけではなかったが、あまり最新のゲームは購入してもらえなかった。高いしな基本。まあ、実際は買ってもらえてはいたんだけど、ソフト自体が高かったりで遊びが広がらないからそもそもあまり求めなかったのもあったな。
その点中古ゲームは特別人気だったり出荷が絞られているゲーム以外は大抵とびきり安くなる。内容としてはピンからキリまであるがネットで吟味して買えばコスパは破格だ。実際、古いには古いが現在のゲームにも引けを取らない作品はいくらでもある。
ただ、これはあくまで前提条件でしか無い。俺が好むのは「使用されたセーブデータ」だ。少しカッコつけて語らせてもらうと、俺はゲームのセーブデータってのはある種の並行世界みたいなもんだと考えている。
このソフトを手に取った人は自分の名前、もしくはロールプレイしたいキャラの名前を入れ、仲間と出会い、戦い、クリアしたか、もしくは諦めたかでプレイを終了した。
これらセーブデータは彼らプレイヤーの世界を構築し記録したものであり、それは守るべき歴史であり聖域であった。
しかし何かしらの理由でそれを手放し、そしてそれが今俺の手の中にある、ということだ。
これを覗き込んでみたり、少しの変化を加えてみることにはある種の背徳感が得られる。自分のパーソナルな世界線を他人に明け渡す様なものだからな、プライバシーもあったものでは無い行為ではあることは自覚している。だからこそ、価値がある。
俺は配達された段ボールを開きながらこの様な自己解釈を続けていた。
発端はオークションサイトで中古ゲームソフトの詰め合わせを偶然見かけたことだった。自分は普段は欲しいゲームしか欲しくないので、単品購入が基本である。しかしこの出品物にはこの様なコメントが記されていた。「息子の私物です。中には見かけたことのないゲーム機本体も入っています。ぜひ、大切にしてあげてください。」
「オイオイオイオイ、独り立ちした息子の私物勝手に売っぱらってんのかあ?それに見たことのない本体だと?今の時代インターネットでもいくらでも情報があるだろうが」
「写真からしてソフトのラインナップは…こんなものか。といってもその不明ゲームとやらは見当たらないじゃないか」
なんて当時はひとりごちた。ただまあ考えてみれば自作のゲーム機であったり、改造を加えたものであったり、非公式のアタッチメントであったりするかもしれない。なににせよ俺はすぐにそれを落札し購入した。幸いオークションは開始したばかりであった。しかも安いんだわ500円だぜ500円。
それにどうしてもその不明なゲームが気になった。どうせなら研究してツイッターにでも上げてやるか。
そして1週間後、そいつは届いて今に至る。ようやく開封して中身のチェックだ。ふん、写真にあるぶんはちゃんとあるじゃないか。
しばらくゲームの状態を吟味した後、俺は例の不明ゲームと思わしき化粧箱に手をかける。何か別のものが入っていた紙箱の中にそれは入っていた。
「フロッピーディスクと…こいつは…スーパータミコン用のアタッチメントか?」
スーパータミコンは一世を風靡したターミナルコンピュータの次世代機として開発されたものだ。当時は同人ゲームや違法コピーしたゲームをフロッピーディスクで起動するためのアタッチメントが多くあったと知ってはいたが、実在するんだな…こういう系統のブツは…。例のアタッチメントはフロッピーディスクの差し込み口と「スータミ」用ソフトと同じく機能する様に作られた端子が下部に付いていた。
まあなんてことはないサードパーティ製アイテムだったってわけだな…本当によく調べたってわからないブツだってあるジャンルだ。写真を撮ってなかったのはまあオッチョコチョイか。
フロッピーディスクにはテプラで記入したシールが貼り付けられていた。
「ヒーロー・ダイ・トゥワイス」
勇者は二度死ぬ、ってか?これがその謎ゲーのタイトルか。
意味深さを醸し出すそのタイトルに心を躍らせて俺は棚からスーパータミコンを取り出し、テレビに接続し、例のアタッチメントを取り付けた。その際、アタッチメントには型番の様な刻印が刻まれていた。
「WTA-002 ソウルアブダクター」
この文字列を見た瞬間、背筋が凍った。ソウル…アブダクター?魂の誘拐者だと?こいつが俺らの魂を持っていっちまうってか。別に非科学的な現象を信じ切ってるわけではないが、この文字列はあまり脅迫的であった。
「いや…どうせ当時の同人サークルのノリのネーミングだろ…」こうして口に出して言うことで恐怖を和らげようとしたが、この時の俺はいやにこのアタッチメントの材質に使用感が少なく、つい最近に製造され、一応は使用された程度の使用感だった事を無視しようとしていた。好奇心が勝ったのもあるだろう。
ついに俺はフロッピーディスクを本体に差し込み、電源を入れてしまった。
そしてゲームは起動した。
画面にはタイトルロゴは存在せず、ドットで描かれた「つつぎから」「さいしょから」の項目が縦に並んだテキストボックスのみが表示された。もちろんBGMなど流れない。
フフフ…ハハハ…こうやって引き笑いをして誤魔化した俺だったが正直相当怖い。都市伝説にありがちな闇のレトロゲーそのものだからなあ!(大抵なにかしらで呪ってくるやつね)。なんだよ、じゃあ俺の大好きな「つづきから」を押してやろうじゃあないか。
俺はAボタンを押し、選択する。
「本当によろしいですか?」
は?まあいいよそんなの
再度「はい」を選択する。
「本当に?よろしいですか?」
いやなんだよ、そのメッセージはよ。なんでそんな脅迫的なんだよお前は。お前は毎回起動するたびにこんなこと聞いてくんのかよクソが!やっぱそういうジョーク半分の作品なんだろ!
肩透かしじみていて、しかも不合理なそれに対し、正直声を上げてビビりそうだったがまだ好奇心が勝っている。
怒りと好奇心と恐怖心が入り混じったその震える指で再度、Aボタンを押す。
フロッピーだからか長い事ローディングしている。なんか喉乾いたな…水とってこよ。
そうして席を立ったあと、俺が戻ったのは20分後だった。
なんだかんだやっておきたい家事がそのままだったので処理をしてきて、ようやくゲームにありつこうとしたところまだ起動していなかった。
バカか?というかフロッピーディスクの容量にこんなにローディングするほどデータって詰め込めるのか?少し現実味が薄れてきた気分になってくる。
そうした苛立ちも束の間、ローディングは終わりゲームは開始した。
その光景に俺は困り果ててしまった。
突然真っ赤に染まった視界が表示され、続いて画面に「YOU DIED」と表示される中、その表示の裏にはプレイヤー目線に向かって語りかける女の子がいた。
「…ねぇ…なんで…あなたが…死んでるの…? あなたが死んじゃだめじゃない…ねえ……起きてよぉ…」
?????? あまりに突飛な現象にもはや呆れ果ててしまった。なんなんだ、これは?どうすれば良いのだ?。
しかもその女の子、いや後ろに透けて見える風景そのものがあまりにリアルでとてもフロッピーディスクとスータミで再現できる様なものではない。
・・・
まるで、異世界の画面をそのまま中継している様な状態ではないか。
呆気に取られている中画面にはもう一つの項目が現れた。
「コンティニューしますか?」「はい・いいえ」
おれは「ソウルアブダクター」の文字列を思い出し、身震いする。ヘッ…ヘッ何かの冗談だろ。この様に三下じみた笑いで心をとりなす。
しかし、俺はその画面の向こうの世界のストーリーがどのように続いているのか、なぜ女の子は泣いているのか。
もし、俺がこのゲームをプレイし始めてしまったらその聖域たる並行世界はどうなっているのか……どうしても探りたくなってしまった。
俺は引き攣りながらも口角は上がっていた。
恐る恐る、よほど震えながら「はい」にカーソルを合わせ、Aボタンで選択する。
「はあああああ!?」俺は突然体の違和感を覚え、叩き出される様に叫びながら起き上がる。あれっ俺そもそも寝てたか?と状況整理を行おうとした瞬間、何かに抱きつかれた。
「生きて…生きていたんですね…本当に…本当に心配したんですよ!そんな死んだふりなんかして!」
それは先ほど俺に語りかけていた女の子であったと気づくのはもう少し後だった。
あ いやっ 誰?
咄嗟に吐き出した言葉により、瞬間的に周りの空気が凍りつくのを感じた。
あれっ これさっきのゲーム画面に映っていた世界そのものなのでは…よく周りを見渡すと、ハッキリとは解釈出来ないがあまり現実的でない風景が広がっており、また顔を泣き腫らした女の子が他に数人佇んでおり、俺の言葉により顔を引き攣らせていた。美少女だった。
「…嘘でしょ…まだわたしたちを揶揄おうって言うんですか!?〇〇さん!」
いや…そんなつもりは…無い、と言いかけた途端俺の意識は遠のき、倒れ込んだ。呼ばれた名前も聞き取れなかったが、少なくとも俺の名前では無かった。
あーあ、セーブデータ漁りの罪が祟ってバチが当たったのかな…バカみてえな神もいたもんだな…
こうして俺の意識は遠のいていった。
次に目が覚めた時、それは病室であった。
まあまあ殴り書きなんでそのうち続き書きたいです