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京夜日記  作者: 京夜
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第五話 「治らない病気」


 変われなかった経験も書いてみたいと思います。

 前回にちらっと触れましたが、私は「字が書けません」。

「書痙」という病気なのですが、おそらく聞いたこともないと思います。

 字を書く時だけ指に力が入りすぎてしまい、うまく書けなくなる病気です。


 その病気になったのは大学生の頃でした。


 病気になる前から字が汚かった私は、少しでも字が綺麗になるようにと、その頃ペン習字を習っていました。


 ある日突然、


「あれ、字ってどうやって書くのだっけ」


 と、字を書くことができなくなりました。

 ペンの握り方のせいかなと、変えても駄目。

 お手本をなぞろうとしても、文字が震えたり、引っかかったりして書けません。

 いったい何が起きたのか、その時はまったく解らずに混乱しました。


 誰に聞いても「知らない」「解らない」と言われるし、インターネットで検索しても「綺麗な字の書き方」しか出てきません。

 どうやら、人差し指に過度の力が入ってしまうのが原因のようで、特に下から上に上がる線が書けないことが解りました。

 しかし人差し指を浮かして、中指や薬指を使って書いたりしたのですが、駄目でした。

 それからしばらくは、震える右手を左手で抑え込むように支えて、何とか書いていました。


 勉強は読むだけで何とかこなし、テストは両手で書き、お願いできるところは友達に書いてもらったりしていました。

 嫌な顔をせず、理解して助けてくれた友達には、今も感謝しています。


 病名はある時、偶然に解りました。

 読んでいた心理学の本に、たまたま「書痙」が書いてあったのです。

 ほぼ同じ症状が出ていて、「あっ、これだ!」と何度も読み返しました。

 それから書痙について調べつくしたのですが、どれを読んでも原因は不明、治療法もないと書いてあります。

 安定剤を飲んだり、筋肉を壊す注射をして緊張を取り除いたりする方法が書いてありましたが、字を書く以外はお箸も右手で問題なくできます。

 安定剤も眠くなるばかりでほとんど効果がなく、止めてしまいました。

 カウンセリングにかかってみたり、催眠療法まで試してみましたが、駄目でした。

 5年ぐらい病気と格闘しましたが、やりつくしたと思ったある日、私は治らないことを受け入れました。

 その頃には何とか左手で、変わった握り方をしたら字が書けることが解りましたので、遅くて汚いながらも、左手で書くことに慣れる方が近道だと判断しました。

 今でも左手で書いています。


 この話をすると皆さん、


「大変だね」


「辛いよね」


 と言ってくださいます。


「そんなことないよ、今は左手で書けるから。ありがとう。」


 と答えていますが、前回書いたように、右手で白紙のノートに書きたいだけ書いている夢を見たりするあたり、やはり意識の深いところでは残念だと、今でも諦めきれていないのだと思います。


 ただ、これは悔しさでも何でもなく、本当にこの病気になって良かった、という思いもあるのです。


 誰でも出来ることが、どれだけ望んでも、努力をしても叶わないこともある、ということを心の底から理解しました。

 この時から、「何故できないの。頑張ればできるよ」と言ったことは無いと思います。


 それと、他の人には理解されない病気がある、ということも理解しました。

 箸は上手に使えるのに、なぜ字だけがうまく書けないのか。

 脳梗塞になったわけでもないのに、練習してもできるようにならないのか。

 私も理解できません。

 

 でも、そんな病気もあるのだ。


 そして、その苦しみや大変さ、あるいは気づきは、その人にしか解らないものがある。

「解るよ」なんて、簡単には言えなくなりました。


 この二つは私にとって、とても大切な気づきでした。

 今の自分を形作る、大切なピースとなっています。


 私にとって「書痙」という病気は、そんな存在なのです。


 治らない病気を抱えている方。

 あるいは変えられない環境から抜け出せない方。


 治るよ、とも、変えられるよ、とも言えませんが、


 この文書が、何かあなたの役に立てば幸いです。


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