第55話 きっとオトナにも必要なオモチャ
――――そうしているうちに、ヨウヘイとペコ、マユは自然とアリノが腹ごしらえをしているレストランの前まで来ていた。
「――あら。2人ともわざわざアリノを迎えに? とっくに用事を終えて帰ったんだと思ったでありんす。なんか、疲れた顔している。」
――ヨウヘイとペコの疲労は言わずもがな、新装開店したスーパーと言う名の戦場である程度の戦果(食材や日用品を安く買う)を挙げる為に戦ってきたからだ。手に手に買い物袋がパンパンになるほど買った商品を詰め込んでいる。
「――い、いやあ……そうしたいのは山々なんだけどよお……。」
「急な買い出しになったんデ、ついチカラが入り過ぎて沢山スーパーで買いまくっちゃったデース……とても2人で店まで持って帰れまセーン。マユさん、帰り、車に乗せて欲しいデース……。」
――状況を聞いて、やれやれ、と額に手を当てて溜め息のマユ。
「――仕方ないでありんすねえ。もうちょっと後先考えて、ペース配分をして買い物はするもんでありんしょう。さっきゲームを運んでくれてなんでありんすが、車で来ていて正解でありんした。」
――そうマユが言葉を返してヨウヘイとペコが申し訳なさそうに苦笑いをしていると、レストランの扉が開いた。アリノとも合流した。
「――――む。何だお前たち。わざわざ俺を待ってたのか? お前たちも昼飯か?」
――しっかりと身のある腹ごしらえをしたのだろう。俄かにアリノから肉や油や芋類のような美味そうな匂いがプンとした。
「――いや、そういうわけじゃあねえんだけど……。」
「……わっちもあのまま解散かと思うたでありんすが、スーパーでつい買い過ぎてもう喫茶店まで持ち帰る体力が無いんでありんすって。悪いけど、さっきの駐車場のわっちの車まで、2人の荷物運びを手伝ってあげて。」
「……なんだ、そんなことか。まあいいだろう、俺ももう今日は非番だ。付き合ってやる。取り敢えず、その重そうな袋2つでいいか?」
「すまねえ、アリノ。」
「助かりマス~。」
アリノも呆れながらも、荷物を分けて持ってくれ、4人で先ほどのマユの車を停めていたところまで戻っていった。
「…………それにしても、ここは…………。」
「――ん? どした、マユ?」
「――いや…………何と言うか、上手く理屈で説明出来ないんでありんすが……今日1日だけで妙に印象に残る人に出会ったなあって…………。」
「――何だそりゃ? 不審者にでもなんかされたんか? 悪者ならヒーローの――――おっと……。」
「――そ、そんなんじゃあありんせん、馬鹿。ただ――――」
思わず、ヒーローの素性について言いかけるヨウヘイだったが、マユとアリノからの目配せで咄嗟に口を噤む。幸い、ペコは何のことやら、といった顔をしたままだ。
「……とにかく、妙に印象に残る人たちでありんした。ゲームショップのオオズメさんも、書店員の姉さんも、アニメグッズ店から出て来た変な姉さんも…………。」
――マユは、さっきまで出会った人たちの顔を思い出していた。
レトロゲームショップ店員のオオズメ。陰気な書店員の女性。アニメグッズ店から出て来たエキセントリックなオタク女子。
ただの往来の通行人に過ぎないはずの彼、彼女たちだが、マユは妙な予感や縁を感じていた。
何とはなしに、また出会うような気が――――
「――アニメグッズ店もあんのかー! こりゃあ、また休みに来るのが楽しみだぜ!!」
「日ノ本の漫画、アニメのクオリティは世界的に群を抜いてマース!! イターリアでも大人気デスヨー!!」
――それなりに疲れているヨウヘイとペコだが、日ノ本ブランドの漫画アニメゲームをはじめとしたオタク文化というものは今や世界に羽ばたいている。また別の日になるだろうが、ヨウヘイとペコもまたこの総合商業施設・JUMBO JUNKを隅々まで堪能したいと思ったのだった。
「――――っと。そうだ。2人ともどうせ車で喫茶店まで来るんだ。寄って寛いでいったらどうだ? 今の時間帯なら多分混んではねえぜ?」
荷物を運びながら、常連となってくれたマユとアリノを店へと手招くヨウヘイ。
「――いいな。俺もあの店のコーヒーが恋しくなってたところだ。レストランのものはインスタントっぽくてあまり口に合わなかった。」
「――わっちも。少しひと息つきたくなったでありんす。夕方以降ももうひと頑張りするから…………その前に英気を養うでありんす。」
2人とも快くヨウヘイの誘いに乗った。
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「――――で。ハッスルして買い出し行ってくれた上に、自前でゲーム買って来て、その上常連さん連れて来てくれたんか。なんつーか……若えなあ、お前ら……。」
――カジタは『いつにも増して頼もしく働いてくれることだ』と感心しながらも、ヨウヘイ達の若さゆえと思われる行動力、体力気力を羨ましく思った。
「――うーん。やっぱりこれでありんす。休憩中のコーヒーは。」
「――まったくだ。マスター、さらに腕を上げたんじゃあないか?」
いつも通り寛ぎながら、カジタに訊くアリノ。
「そりゃあ、店主である以上若えの2人に負けてらんねえからな。俺のコーヒーも改善点を日々探ってる最中よ。それにしても――――」
――カジタは、自分はあまり慣れないが、若き店員2人が買って来たゲーム類を見て、ひと息唸った。
「――この店でもゲームコーナーでも作りゃあ、若い世代も店に来るかねえ。検討すっか……取り敢えず、ヨウヘイとペコにはボーナスやんねえとな。はは――――」
「――それは良いでありんすねえ。ウチの会社でもたまにゲーム大会開こうかと思うんでありんすよ。ウケるでありんすかねえ…………。」
――単なる趣味も、寛ぎのひと時に加えればさらに潤うかも、と規模は違えど経営者2人は鑑みるのだった――――