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第5話 正義奮起率

 ――――ヒビキ=マユは、怪我などはしていないようだが、親玉の邪気が縄状に具現化したもので全身を縛り上げられていた。





「――そう。それ以上近付けばこの女の生命はなぁぁ~い。もっとも…………この女1人殺そうが、またその辺にいる人間を人質に取るだけだがなあああああ――――けけけけけ!!」





 マユは、縛り上げられる苦痛に耐えながらも、必死で振り解こうともがく。





「――くっ……この…………外道…………ッ!!」





 身を捩って邪気の縄を解こうとするが、とても抜け出せそうにない――――魔物の親玉はその悍ましい異形の腕から伸びる爪牙を、マユの首筋に突き立てている。如何にリッチマンが強く、速くても、マユを犠牲にせずに倒せる可能性はかなり低いだろう――






「………………。」





 ――リッチマンは、ひとたび沈黙した。






 だが、これは怖れをなして絶望した沈黙ではない。






 それを証明するように――――俄かに、リッチマンの全身から金色の炎のような力強いオーラが立ち昇る――――





「――――何の罪もねえ人間を人質にし……街を破壊しやがって――――ッッ!!」






 リッチマンはマスク越しに怒りの眼光を光らせ、親玉に指をさして叫んだ。






「貴様の罪業カルマッ!! 俺には救い難しッ!! 塵ひとつ残らず断罪してやるぜ!!」





 そして、ヒーロースーツの中に隠したジャスティス・ストレージに問う。






「どうだ、ストレージ!! 人質を傷付けずに奴を滅殺するのに必要な金額はッ!?」






 ジャスティス・ストレージも機械的な音声ながら、リッチマンの魂に呼応して発する。






「――ビビビビビ……正義奮起率96%まで上昇。残り活動時間を2分にまで縮めた上で――――30000円! 30000円で実現可能ッ!!」






 ストレージのその言葉に、一瞬だけリッチマンはぴくり、と身を竦ませた。





「――うぐっ……結構痛いな……さっきおっちゃんに貰ったばっかなのに――――だが! 人の生命には代えられねえっ!! 全然安いッ!! 安いもんだあああああーーーっ!!」





 そして、迷いを断ち切り、静かに、だが迅速にリッチマンは財布からカジタにお情けで貰った10000円紙幣3枚をジャスティス・ストレージに投入した――――





「ビビビ……課金を完了。速やかにアップグレードします――――」






「――うおおおおおおおおおおーーーッッッ!!」





 ――瞬間。リッチマンは全身からこれまでと比較にならぬほどの漲るエネルギーが全身を充たし、なお一層眩い閃光が走った。己の魂そのものの、雄々しい叫び声と共に――――





「――ぐがあッ!! な、な、何ィーッ!?」





 ――次の瞬間。蒼い残像を浮かばせながら途方もない速さでリッチマンは親玉に突進し――――マユを抱きかかえて親玉の後方まで一気に飛んだ!!





「――あ……あんた――」





 マユも、一瞬何が起こったのか解らなかった。気が付けばリッチマンに抱きかかえられ、怪人のいない彼の後方に座っていたのだ。





 リッチマンはなおも轟然と強烈に立ち昇るオーラで全身をスパークさせながら、親玉に引導を渡すべく呟いた。






「――貴様に今日を生きる資格はねエ。俺の必殺技――――撃滅不死鳥炎舞ゴールドクルセイドで塵も残さず消滅させてやるぜ――――!!」





 ――親玉もまた子分の怪人たち同様逆上し、雄叫ぶ。






「――な、何を言いやがるかてええめええ!! 野郎共、こいつは骨も残すなああああああッッッ!!」





 そう気炎を吐くと同時に、再び夥しい数の豚顔面の怪人たちが湧き出て、親玉と共に襲い掛かってくる。





 だが、眼前の悪を滅する意志を固めたリッチマンに、恐れは微塵も無かった――――






「――徹底的に滅する…………はあああああああああああ…………ッッッ!!」






 リッチマンは漲るエネルギーをひと際強く溜めたのち、高く飛び上がった。





「――気高き俺の中の不死鳥よ! 奴らを浄化してやるんだ――――!!」






 瞬間。リッチマンの光のオーラが十文字を描くように展開され、強烈な光熱を伴って怪人たち目掛け、突進した!! それはさながら裁きを下す十字架のようでもあり、生殺与奪の不死鳥の羽搏きのようであった――





「――KIYAAAAAAAAAAAA……ッ!!」





 断末魔の奇声を上げながら、豚顔面の怪人たちはまるで太陽にでもぶつかられたような激しい光熱で見る間に蒸発したように消滅していった。






「――うぎゃああああ!! こ、こいつ……一体――――グガアアア、馬鹿なああああああーーーッ!?」





 親玉もリッチマンの大技・撃滅不死鳥炎舞ゴールドクルセイドを受け、怪人たち同様、四肢から順に光熱で消滅し――――やがて悲鳴を上げて焼殺され、跡形も残らなかった。






 ――遂に、街に急に現れた怪人たちと親玉を完全に倒した。地に降り立ち、最後とばかりにひと声リッチマンは叫ぶ。





「――滅殺……完了ッ!!」





 ――――悪の魔の手から、ひとまず街は救われた――――






「――大丈夫か? 立てるか?」





 リッチマンは力の圧を鎮め、後ろで呆然としているマユへ手を差し伸べた。





「……え? え、ええ…………ありがとうございんした……」





 ――マユは気が付けば、魔物の親玉が消滅したことで、自分の身体を縛り上げていた邪気の縄も消え失せていることに気付き、リッチマンの手を取りゆっくり立ち上がった。





「――礼には及ばねえ。大した怪我も無さそうで良かったぜ。だが、この辺りは奴らが暴れたせいで滅茶苦茶だ。さあ、すぐ気を付けて安全なところへ――」





 ――そこまで言いかけたところで――――





「ビビビ……活動時間終了。速やかに変身を解きます――」





「――あ? ええっ!?」

「――えっ……あ、あんたは……」





 ――アップグレードしてから2分間は過ぎた。一瞬全身が光ったかと思えば、リッチマンは――――否。リッチマンの変身が解けたヨウヘイが姿を現してしまった。





「……こ、これは~……そのぉ~…………な、なあ? アハハハハ…………。」





 ヨウヘイは正体がばれたことを何とか誤魔化そうとするが、目の前でハッキリと変身解除を見られた以上、取り繕う言葉すら浮かばない。




「………………。」





 一方のヒビキ=マユは、ヨウヘイの全身をジロリ、と睨んでいた。それも、不審者を見ると言うよりは何か含みのある目付きだ。





「……詳しいことは、さっきの喫茶店で聞くわ…………。」





 ――ヨウヘイにはマユの言うこと以外に、選択肢も浮かばなかった――――

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