第47話 コドモのオモチャの延長か否か
――――今、喫茶RICH&POORは休憩時間だ。そこでヨウヘイとペコが横にならんで腰掛け、店のTV画面を注視している。少し離れた別の椅子から、カジタが自分で淹れたコーヒーの湯気を立ち昇らせながら飲み、TVと若者2人を見ている。
だが、そのTV画面は気になる番組がやっているわけではない。外部入力画面で――――
「――オワァッ!! まーたそれデスカー!! せっかくモ〇スターボールぶつけたのニーっ!!」
「――ふはははは!! こいつのエネルギー吸収技を見くびってたようだなあああああ!!」
――手元には激しく弄くり回されるコントローラー。TVに端子とケーブルを繋いで興じているのは、もう大半の人が御存知の――――
「――まったく。こいつはまあまあ古いハードみてえだが、若者はふた昔前からこうなっちまうのが当たり前なんかねえ。背もでっかくなったってのに、ビデオゲームたあなぁ…………。」
――そう。現代となってはメインカルチャーの一端と言っても過言ではない、ビデオゲームにヨウヘイとペコは夢中になっていた。カジタの年代からすると一応カジタの子供時代にもあることはあったのだが、カジタ自身は然程興味のない代物だった。
少し昔に発売された、某有名ゲームメーカーが誇る対戦アクションの駆け引きを2人は素直に楽しんでいた。
元々ペコの私物な上に、ヨウヘイは子供時代にビデオゲームを入手出来るほど裕福ではなかった為ほぼ初心者のはずなのだが、これもリッチマンとして悪と戦ってきた経験や反応速度が多少生身でも影響があるのだろうか。或いは操作センスか。初心者とは思えぬほど機敏にスムーズに操作し、ペコの操作するプレイアブルキャラクターに一撃、また一撃と攻撃を加えていく。
「――アアン!! また負けたァーッ!! ヨウヘイさん、ホントに初心者デースカー!? めちゃくちゃセンスが良いデース!!」
「――ハッハーッ!! おめえに対し俺にも勝てるモンがあったとはなァーッ!! 次は別の格ゲーで勝負すっかぁ!?」
「チクショー!! 望むとこデース!! OH MY F××K!!」
――熱くなってきた2人だが、カジタが掛け時計を眺めて声を掛ける。
「――おめえら、その辺にしとけーい。もう休憩時間終わっちまうぞお。さっさと片付けて準備をしろーい!」
「――おっ、マジか。しゃーねえ……また相手してやるよ、ペコ♪」
「――うぬぬぬぬ……元々ボクのゲームデース!! パードレがわざわざ日ノ本でも遊べるように変換器まで送ってくれたから遊べるんデス。調子乗ってるといつか吠え面かきますヨ!?」
「いーからさっさと準備しろォ、この餓鬼どもぉ!」
――ゲームで熱くなって諍い合い、年寄りが叱る。さながら親戚同士が遊びに興じて祖父がしかりつける様相である。人間的な日常の原風景ではあるが、ヨウヘイもペコも良い意味で童心に帰っていた。
――慌ててゲーム機類を片付け、前掛けを着て店の準備をする。
「……そういやあ…………」
「……何デス?」
準備を進めつつ、ふと思い出したヨウヘイ。ペコが問う。
「この辺に結構昔からあるゲームショップがあるんだよな……確かレトロゲームも充実してたはず。今度行ってみっかなあ~。」
「ソフト買うデース? 楽しみ~!! ……アッ、でも……ヨーロッパ→日ノ本への変換器はありマスけど……日ノ本→ヨーロッパへの変換器なんてあるカナ~……いっそ、中古でも日ノ本製のハードを買うのはどうデース?」
「おっ! いっそそれもアリだな~。む、でも……今の相場だとゲーム機幾らぐらいすんだろ。金足りっかな~……この前手に入った15万……使い切っちまうかな~……。」
「――こら、何ボケーっとしてやがる。もう客が来ちまうぞ、ヨウヘイ!!」
「う、すんませーん、マスター……。」
――ふと放念し、どやされるヨウヘイ。
彼は子供の頃からゲームにはそこそこ関心はあった。自分が好きな特撮ヒーローもののゲーム化も欲しかったし、ゲームの世界にも沢山の英雄像があるので憧れはあったのだ。
だが、繰り返しになるが赤貧のどん底の暮らしをしてきたヨウヘイにはゲームは買えず、次第に子供ながらゲームを趣味にすることは諦めてしまっていた。
それゆえ、ゲームに関して最新のハードの機能やスペックはどうとか、周辺機器はどうとか、そもそも新品も中古も幾らぐらいの価格が相場なのかとか情報に全く詳しくなかった。
実際は、余分に使えるお金が15万もあれば、ゲーミングパソコンでも買うのでなければ充分過ぎるぐらいなのだが、果たしてヨウヘイは実際にレトロゲームショップに行ってどう吟味するのだろうか――――