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第44話 奇妙な縁(えにし)

「――――モテモテなのも大変だなー。お疲れーっす、ヒビキ=マユ所長!!」




「――――ヨウヘイ、喧しい……ハア~ッ…………魂抜けたかと思った…………まだ真っ昼間でありんすよ。」





 ――――真っ昼間の食堂で女性職員たちにくんずほぐれつ、揉みくちゃにされたマユは、それこそ魂が抜けたように疲れ切っているが、女性ホルモンやら何やら刺激されたのか、髪も肌もツヤツヤになってしまった。





 ようやくテーブルにヨウヘイ、アリノらと共に着き、いつになく賑やかとなった食堂でトンカツ定食を食べ始めている。




 ヨウヘイとマユの頬張るトンカツ定食はなかなかのボリュームだが、アリノが食券で買った特盛スタミナ定食はさらに山盛りのボリュームだった。大皿に肉の山がひと柱出来ている。





「……むう。ここの肉は揚げ物もどれも美味いな。ところで、ケチなようだが……こういう場合、食費は俺たちの自腹か?」





 ひと際空腹だったアリノ。大きな唐揚げを口にしながらマユに尋ねる。





「まあ……普通ならそうでありんすね。ただ、ここで働いてくれた日……特に、あの異空間を探索してくれた日なんかは食費は報酬から天引きするつもりでありんす。だからまあ、実質会社持ちみてえなもんでありんすよ。





「そうか。それは有難いな。俺も大概、本職の大工をやってると自炊した料理を摂るのも手間で難しくてな……ここの食堂みたいにボリュームもあって栄養バランスも良さそうな飯はとても重宝する。たとえここでの探索絡みじゃあなくても普段から立ち寄りたいぐらいだ。」






「それはどうも。むぐむぐ……このトンカツ、今日も衣が美味しい…………ただ、出入りするのにC型職員証は要りんすから、注意して欲しい。」






「――おーっと! 美味い飯やらコーヒーやら味わいたかったら俺らの店も選択肢から外さないでくれよ。あれから結構腕を上げたんだぜ、俺もペコもな!! 最近はイタリアンばっかでなく、マスターの家庭料理も練習してるしな。」





「もちろんだ。」

「贔屓にさせてもらいんすよ。」





 ヨウヘイの喫茶店のアピールに、アリノもマユも同時に頷いた。店の雰囲気やコーヒー、そして創作料理などの評判は変わらずだ。






 それなりに空腹だった3人。周りの談笑する声を聴きながらも、暫し黙々と食べた。






 ――やがて食が進んだところで、マユが言い出した。






「……この後、またオペレーションルームに行って戦果や、報酬の計算になりんすが…………それとは別にひとつ目的が増えたかもしりんせん。」





「……目的が増えた? 何だよ?」





 ヨウヘイがかぶりを振ると、先程までリラックスしていたマユだが、俄かに真剣な顔立ちになって続ける。






「――確かに、ただただあの異空間をわっちらで探索していくことは大事でありんす。でも、それにはもっと戦力が要る。上手く理屈では説明出来ないでありんすが…………リッチマンに続き、ネイキッドフレイム、そしてアクアセイバーと…………まるでヒーローの存在が伝播するように次々と集まっているでありんす。もしかしたら……あの異空間とヒーローとは、わっちらが思っているよりもっと深い繋がりがあるのかも。探索をただ続けるより、今後もっと仲間を――――ヒーローを捜すことも大事かもしりんせん。」





 ――何となく、と言う感じのマユの勘だが、確かにほんの少し前までこの異空間での悪の退治と探索へはただの1人も『ヒーロー』などというそれこそ悪に対する正義の英雄などは現れる兆候すらなかったのに、リッチマンことヨウヘイがマユと出会ってから次々とヒーローが結集してきている…………気がする。





 悪が蔓延る謎の異空間と、出自も力の源も判然としないヒーローとの対決。





 何か不思議な関係、因縁とでも言うべきものが存在しているのかも――――それらを理論立てて解き明かすには情報が不足しているものの、奇妙な予感を意識すると……何か心がざわめくことを感じる3人だった。





「――――なーに、仲間も増えるってんなら、これから先もっと充実した探索になるんじゃあねえか? バリバリによ!! 俺たちヒーローがあのわけわかんねえ空間を通じて引かれあってるってんなら、上等じゃあねえか。」






「――ヨウヘイ……随分楽観的なことでありんすね。先に何が待っているかわからねえのよ? どんな人と出会うかも。」






 ヨウヘイの楽観視にやや呆れるマユだが、ヨウヘイは気にせず皿に盛られた最後のトンカツをモリモリと頬張る。






「――俺ぁな。正直、心細かったんだよ。」






「……心細かった? ぬしが…………?」





 ヨウヘイは一見快活な笑みを浮かべたままだが、突然話し出す内容の意外さに思わずマユは問う。






「――たった独りでヒーローやっててよ。家計は火の車。いつヒーロー辞めちまうか、それとも最期までヒーローやってくたばるか、と思うとよ。所詮俺や、親父の独りよがりのままこの活動が終わっちまうのかと思ってた。『ヒーローは孤独で、孤高である者』……と、自分に発破をかけたつもりだったけど、やっぱり孤独は俺には向いてなかったんだよ。」





 ――一見子供じみた事ばかり言うヨウヘイは、珍しく憂愁のようなものを語り始めた――――

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