第41話 氷の戦士・アクアセイバー
――――マユ、否。マユことアクアセイバーが加わると形勢は一気に逆転した。
三ツ首の魔犬が火炎を吐いてきても、冷気のコートで全くダメージなし。火傷ひとつ負わない。
鋭い牙で喰らい付いてきても、一瞬速くアクアセイバーは噛みつかれる箇所を一瞬で氷塊を纏わせてガードするので、ダメージはむしろ牙を欠けさせている魔犬の方だった。
傷薬が底をついている、本来なら窮した状況だが、リッチマンとネイキッドフレイムがダメージを負ってもすかさずアクアセイバーは癒しの力で傷を治した。
「――速くて動きがとらえきれん、ねえ。なら……こういうのはどうだぇ。」
アクアセイバーは脇差を縦に、自分の身体に対して平行に構え、顔の近くで精神を集中した。
「――凍れッ!!」
――瞬間。アクアセイバーからオーラが立ち昇り、脇差が光ったと同時に、三ツ首の魔犬は途端に脚が動かなくなった。
アクアセイバーの掛け声から察しの通り、魔犬の足元を強烈な冷気で氷漬けにしたのだ。地面に接合され、身動きを取れなくするそれはさながら以前の階層で冷気を吐く一ツ目巨人がリッチマンにしたことの意趣返しのようだった。
「――おおっ!! すげえぜ、これでこいつは倒せる!!」
「――さあ……3人で総攻撃。相手の命が消え去るまでボコボコにしんす。」
「――了解だ。」
3人が、顔を見合わせて一度頷き、そして身動きを封じ、火炎も無効化した状態の魔犬に一斉に突貫した!!
リッチマンは課金で発生させた氷の剣、アクアセイバーはそのまま脇差で斬りつけ、ネイキッドフレイムは斧で強烈に叩き斬る――――
「ドリャアアアアッ!!」
「せいっ!」
「ふんッ!!」
灼熱煉獄の階層に、暫し3人の雄叫びと、魔犬の断末魔が響き渡っていたが――――
「――クォオオオオオ…………!!」
――やがて魔犬は首が3つとも力尽き、さながら猛犬の最期のひと鳴きを上げたのち、黒い塵と消えた――――
「――ふう…………どうやらとどめたようでありんすね……」
――アクアセイバーがそう呟き、もうこの門番も斃し切り、問題はないことを確認した。
「――やったぜーっ!! マジでヤバいとこだったぜ……。」
「…………それは、まあ結果オーライでいいんだが…………マユ。お前、こんなところに来て大丈夫なのか……? 仮にもあの会社の所長で、対悪性怪物殲滅班の司令官だろう。」
――今やヒーロー時はアクアセイバーと名乗ったマユ。踵を返して2人に向き直り、話す。
「――この格好をして共に闘っている時はアクアセイバーでいいわぇ。研究所と対悪性怪物殲滅班の司令官なら……わっちよりもっと優秀な人間がいる。それがサクライ。確かに、わっちが危険な思いをしてここに来ることはサクライも皆も良い顔はしないでありんす……けれども、わっち自身までヒーローとなれて戦えるのなら話は別でありんす。少しでも戦力は多いに越したことはない。
――そこで、アクアセイバーはにこやかに微笑んだ。その顔つきからは、対悪性怪物殲滅班の長として悪を滅せんとする思い詰めたものは感じない。どこか吹っ切れたようにも見える。
「……そっか。あんたも自らの意思で闘うってんなら、俺は何も言わねえよ。実際、ヤバいとこを助けられたしな。」
――少し前までの蟠りを抱え、思い詰めた様子から進歩したと見えるアクアセイバーことヒビキ=マユ。彼女も司令官の立場から一旦離れ、リッチマンたちと共に肩を並べて戦う戦友となったのか。
「……ともあれ、さっきまでの敵との戦いで随分消耗したわぇ。もう物資も不足しているし…………門番が守っていたあの扉の向こうは、また今度にするでありんす。帰りんす。」
そう言って、アクアセイバーは脇差を鞘に納めた。
「そうだな。結構進んだしな…………てか、あんた氷とか水とか使える能力っぽいよな? もうちょい早く加勢してくれれば、こんなクソ暑いとこ進むの楽だったんだけどな~。」
――そうリッチマンがぼやいたところで、通信系に反応があった。
「――――リッチマン。ネイキッドフレイム。それに所長……いや、アクアセイバー。仰る通り次に攻略をするのはまた準備を調えてからにしましょう! 早く『リターン』で帰って来てくださーい。」
――先程まで深刻な面持ちでマユをアクアセイバーとして見送ったサクライ。声色は良い意味で気が抜けている。彼は彼で少し吹っ切れたのだろうか。
「OKOK。マーキングユニットを設置……っと。」
忘れずにマーキングユニットを設置、展開していつでもショートカットが出来るようにしたのち、リッチマンは改めて叫ぶ。
「――よし、そんじゃあ引き揚げだ――――リターン!!」
リターンを念じ、一瞬にして3人は異次元空間から研究所の転送装置まで跳躍。帰還した――――




