第40話 冷厳なるヒーロー
――――マユは転送装置の前で、懐から脇差を取り出した。以前、最初にカジタの店に来た時も持っていた、謎めいた短刀だ。
「――――まさか、これが単なる武器ではなく……ヒーローへと変身する為の道具でありんした、なんて、気付くのに手間がかかりんした。早速、役に立ってもらいんすよ。」
マユは脇差の刀身を少しだけ鞘から抜き、刃に映り込んでいる自分の顔を見るようにして、念じた――――
「――――わっちの願いに応えて、『雪水嵐』――――」
――瞬間、マユは全身から青白い光を放ち、一瞬にしてヒーローに変身した。
スピーカー越しに対悪性怪物殲滅班の面々の驚く声が鳴り響く。
サクライが問いかける。
「――所長……!! その姿は……本当にヒーローの力を得たのですね。事前に言ってくれればもう少し準備は――――。」
「――今は一刻を争うでありんす。力が湧いて来る…………それも、リッチマンとネイキッドフレイムを助けるのに相応しい力が――――早く、2人のもとへ転送して。」
そこで少し躊躇ってしまうサクライ。
「――これまでのリッチマンとネイキッドフレイムを見れば、ヒーロー化に何らかの代償を払っているはず。所長。本当によろしいのですか…………?」
「――くどい。さっさと転送して。なに、代償と言ってもリッチマンとネイキッドフレイムよりよっぽど軽いものでありんす。時間がない。早く。」
「…………了解。転送装置起動!! 座標は現在モニターしているリッチマンとネイキッドフレイムの前へ!!」
――サクライは不安を抱えながらも、オペレーターたちに指令を下し、マユをすぐさま2人のもとへ転送した――――
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「――く、くそっ…………!! このままじゃあ、やべえ…………ッ!!」
「――やむ負えんな……ここは退くか。」
――リッチマンとネイキッドフレイムは目の前の三ツ首の魔犬を前に、消耗戦を強いられ、傷を癒す薬剤戦術ももう後が無いところまで来ていた。
「――悔しいが、しゃあねえ!! リター――」
――撤退を判断し、『リターン』を念じかけるリッチマンだったが――――
「――少し待ってください。今、助けのヒーローがそこへ行きます!!」
――突然、通信系を介して聴こえる、サクライの声。
「――あんた、サクライさん!? マユは――――まさか。」
――そう言いかけた瞬間――――突如場に突風が巻き起こった。
その突風は強い冷気を帯びており、活火山の深部を思わせるエリア一帯を一瞬にして温度を下げ、凍てつかせた。
三ツ首の魔犬も警戒し、一旦飛び跳ねて距離を取った。
――長い金髪をたなびかせて雪風の中から現れたのは――――
「――おめえ……マユ!! マユじゃあねえかっ!!」
――脇差を構え、突如現れたマユは、全身に青い全身タイツのような装いで、髪は一部、簪で留まっている。そして氷雪のような冷たく鋭い目で魔犬を睨み付ける。
まるで日ノ本古来のくノ一を思わせるような、ボディラインも露わになったセクシーな出で立ちだが、今は当然そんなことを気にしている余裕はない。
「――2人とも、これを――――」
――マユが何やら念じると、リッチマンとネイキッドフレイムの身体に冷気の層を纏わされた。この灼熱煉獄の熱さを微塵も感じない。冷気のコートだ。
「――2人とも、深手を負ってよく我慢したでありんす――――潤しの水よ!!」
再びマユが念じると、今度は清らかな光を伴った水が発生し、全身に傷を負ったリッチマンとネイキッドフレイムの身体が癒えていく。
……どうやら、突如ヒーローとして加勢に来たマユは、冷気と水、そしてそれから成る回復を操る能力を持っているようだ。
――ならば、炎を繰り出してくる敵には特効の能力と言えよう――
「――――どうやら、この敵にはうってつけの能力でありんすね。わっちのこの力は――――2人とも行きんすよ。氷水のヒーロー・アクアセイバー…………参る。」
――マユが加わり、ヒーローは3人となった――――