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第39話 指令に相応しき

「――――ぐっ…………こ、こいつら――――ッ!!」




「――離れやがれッ!! はああああッ!!」





 ――――灼熱煉獄地帯の奥を護っている敵は、地獄の番犬・ケルベロスを思わせる、頭部が3つ連なっている魔犬を思わせる獰猛な獣だった。





 首が3つある化け物は連携攻撃もまるで穴がなく、今しがたもネイキッドフレイムが強烈な牙で腕に喰らい付かれ、顎の力を以て食い千切られそうになったところを間一髪、リッチマンが即席で課金し繰り出した氷のオーラを放つ剣で斬りかかり距離を取れた。





「――ネイキッドフレイム!! 傷薬をッ!!」





「――バイタルチャージ!! ……くっ……すまん、助かる――――」





 すぐにバイタルチャージによる再生治癒に加えて、物資係のシライが持たせてくれた開発して間もない強力な傷薬を用いて傷を癒すネイキッドフレイム。






 ここまで余力を残しつつ進んできたつもりの2人だったが、実に手強い。強敵である。






 この獣も機敏な動きと強烈な爪牙の力に加えて、他の化け物同様灼熱の火炎を吐いて来る。





 ネイキッドフレイムが前に出ていれば炎の力を集中して盾を張って何とか凌げるが、防ぎ切れずリッチマンに当たることもあった。その際も咄嗟に課金の力で氷のオーラを纏った盾を顕現したが――――付け焼刃の力は充分に制御しているとは言い難く、何度もダメージを喰らった。





 敵は、最初の階層で遭遇したような巨人ほどの身体の硬さはなさそうだが、動作がとにかく機敏。ほとんど攻撃が当たらず、何とか当てても致命傷には程遠いようだった。





 ……獣は3つの首で、勝ち誇ったように遠吠えをする。






 ――――これは勝てない。俄かにリッチマンとネイキッドフレイムの2人に『敗北』の二文字が脳裏をよぎった。






 副指令官として司令を補佐していたサクライも、マユに向け窮した様子で叫ぶ。





「――所長。もはやこれまで。今の彼らと我々にはここが限界です…………まだ力量不足でした。英断を! 彼らに帰還の指示を!!」





「……くっ…………!!」





 ――マユは悔しさのあまり、強く歯を食いしばった。決断は彼女がしなければならない。






 ――――だが。






「――――? 所長…………?」





 ――急に、マユの背中から、焦りや不安、恐怖や憤怒といった負の情念が掻き消え、冷たく落ち着いた雰囲気を放ち始めた。






「――――そうでありんすね。ここが限界…………このままでは負ける。けれど――――」






 ――――その場にいたオペレーター一同も「まさか」といった風情で思わずマユの方を見る。






「――それはヒーローがもう1人いれば、話は違ってくるでありんす。サクライ――――。」





「――なっ、まさか、ヒビキ所長ッ!?」





 ――サクライの方へ振り返るマユの表情は、飽くまで氷水のように冷静で、涼やかだった。






「――――これより司令を交代。サクライに任せるでありんす。わっちは――――リッチマンとネイキッドフレイムを助けに行く。」






 ――――組織の長が自ら危険な敵地へ戦いに行くと言う。当然そんなことはすぐに受け入れられる部下たちではない。





「――そんな!! いけません!! 貴女の身にもしものことがあったら、我々は……HIBIKI先端工学研究所と対悪性怪物殲滅班スレイヤーズギルドはどうなるとお考え――――」





「――――ではぁ、逆に訊きんす。サクライ。本当は全て解っているのでありんしょう?」






「――――!!」





 立場を弁えるべきであるはずのマユに逆に窘められるサクライ。






「――――わっちは確かに……ここの所長として働いているつもりでありんすが……本当は司令官としての能力も、会社の副社長としての能力も、その心胆や覚悟のほども…………わっちを軽々と上回っているという事実を。本当はわっち以上に、組織の長として優秀に、適格に働けるという事実を――――。」







 ――オペレーターたちは、息を呑んで固まった。会話を聞いていた別室で控える対悪性怪物殲滅班の面々もだ。





 サクライは一瞬、言葉に詰まるが、申し開こうとする。





「……っそれは…………そうかもしれませんが!! 悪を滅するのは私たちを含め、貴女の悲願!! 貴女を少なくとも今失うわけには――――」






「それは方便でありんす。悪を滅するという志さえあれば…………本当は誰がこれを執行したっていい。サクライ。ぬしは…………わっちが組織の長として、最も重要なポジションで活躍し続けること、その恩恵をわっちがいつか受けること。それにこだわっているだけでありんす。早い話が、親心のようなモノでわっちを危険から遠ざけたいと願っていた。まっこと過保護な兄貴分でありんすね――――。」





「――――っ。」





 ――図星。サクライは二の句が告げられない。彼は、下手をすると会社内の全員が、マユだけは安全に平穏に事を為して欲しいと老婆心のようなもので守ろうとし過ぎていた。普段の彼女の無茶を見ればそれも無理からぬことではあるのだが…………。





「――――大丈夫、サクライ。わっちがいなくてもぬしは充分過ぎるほどにやってのけられる。それに――――このわっちが無策で飛び出すことはもうせん。この苦難を突破する手立てはありんす――。」





「!! 所長……それでは……!!」






「――言ったでありんしょう? 『ヒーローがもう1人』、と。あの研究がようやく実用段階までこぎつけたでありんす。すぐに行けばリッチマンとネイキッドフレイムは助かる――――さあ。頼むでありんすよ。」






 ――――サクライは暫しの葛藤の後、迷いを振り切って頷いた。






「――――上出来。ではぁ、『新司令』、お願いしんすよ。」






 ――そう言い残して、マユは転送装置へと続くリフトに乗り、降りて行った――――

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