第24話 力と異次元へのいざない
「――――俺は元々、ドイツ生まれでドイツに住んでてな。田舎の村で静かに暮らしてたんだが――――ある日、怪人どもが来て村を焼き尽くした。」
――静かに、簡潔に語るアリノだったが、ほんのひと息で語った内容は実に痛烈なものがあった。
彼も、目的はやはり怪人への、『悪』への復讐なのだろうか。
「――――俺は、確かに連中を憎んだ。だが…………憎んでばかりいても、天涯孤独になった俺の身は何も変わらない。だから、俺は日ノ本に来て土木作業員をしている。まあ、大工だな。俺は炎が恐い。炎が恐いから…………俺の望みは、まず怪人の連中に放火されてもびくともしないような、耐火工事を施した建物を世界中に建てることだ。まずはそれが出来れば満足ぐらいに思っていたんだが――――」
「――そこである日、ヒーローになる力を得た、というわけでありんすね? それは、どこから…………?」
「俺みてえに、ヒーローになるのに何か特殊な道具でも要るのか?」
マユとヨウヘイは、各々の疑問を問う。
「…………それが……ハッキリとは思い出せないんだ。日ノ本に来てしばらくした時に…………いつの間にか、突然……焼き討ちに遭った故郷の村の惨状や炎の熱さ。俺自身の『ああ、奴らを許せない』という燃えるような気持ちを念じると――――俺は炎のヒーロー『ネイキッド・フレイム』に変身して戦えるようになったんだ。」
「……念じるだけで? ふむ…………ヨウヘイのリッチマンに変身する為のジャスティス・ストレージとはまた違う原理のようでありんすね…………。」
――アリノは、寡黙であまり表情の無い無頼漢のようだが、さすがに自分の受けた仕打ちを思い返せば、それこそその瞳に激しい怒りの炎が見える。声色も心なしか尖っている。
「…………得た力が、俺が散々嫌がっている『炎』というのも皮肉なものだがな…………俺は未だに炎の恐さを克服出来てない。溶接工事の時に出る小さな火花ひとつでも、心を殺すぐらいの覚悟でないと足が震えて出来ないんだ。」
「……おめえ…………よくそれでも大工やってるよな。すっげえ精神力だぜ。心から尊敬するよ…………。
――未だに炎が恐い。それでも自分の悲願の為に心を殺して仕事をしている。
元々寡黙な男なのかと最初は思ったが、マユもヨウヘイもそれだけ壮絶な過去の惨劇をその身に刻みつつも進み続け、心を殺してまで大工仕事の職人になった、という経緯が、彼から人間的な明るい精神性をところどころ失ってしまったのでは、と察した。
「――でも、その様子だとあの『悪』が巣食っている異次元空間には前々から出入りしていたようでありんすね? どうやって、どこから出入りしたんでありんすか…………?」
――そこでアリノは俯き…………何か要領を得ない様子で少し黙り込んだ。
「――――それも、いまいちハッキリとは思い出せん…………ネイキッド・フレイムの力を得た時から…………奴らと戦いたい、と強く願うと、街の路地裏だったり、茂みの中だったり……目立たない場所に……何か、あの異次元空間へ行ける『穴』みたいなものが見えるんだ…………そこを出入りしている。」
――技術の粋を凝らして有志と共に艱難辛苦の末に転送装置を作り出したマユは、心から驚いた。
「――そんな、ヒーローの力を心に念じて願うだけで…………!? ますます信じられないでありんすぇ。奴らの根城への座標軸特定や力場の発生だけでもかなり難しかったのに…………。」
「――俺もリッチマンとして戦っては来たが、ずっと街を荒らし回る怪人どもを倒す程度だったぜ……いくら念じても、そんな異次元への穴なんて見たことねえけどなあ…………。」
――どちらが先だったか定かではないが、リッチマンとしてヒーローをやっていたヨウヘイは、『穴』など見たことも無いし、第一念じただけでヒーローに変身など出来ない。
「――ふうむ…………ヒーローとは言っても、多種多様なタイプが存在するんでありんしょうか……リッチマンの場合は『穴』とやらが発生しない? ……そもそもヨウヘイ。ぬしは『悪の根城を叩きたい』と強く願ったことがあった?」
「――――えっ? いや……確かに目の前に敵が出た時は闘志が燃え上がりはするけど……『悪の根城に行きたい』とまでは強く願ったことねえなあ。第一、俺奴らが何処から湧いて来るとか気にしたこと無かったし。」
「…………ヒーローの種類。属性も関わって来るでありんしょうが…………その『悪に対する認識の違い』も関係ありそう。これはますます研究材料として調べるものが多くなったでありんす。」
「――俺が知ってるのはこれくらいだ…………察するに、お前たちも『悪』と戦う為に動いているんだろう――――俺も参加していいか? 本業の大工仕事が優先にはなるが…………。」
「それはもちろん。」
「歓迎するぜ!!」
新たな戦力と、ヒーローにまつわる研究の材料。アリノの申し出に、マユもヨウヘイも同時に歓迎した――――