第19話 歓喜のリッチマン
「――――ドリャアッ!! せいっ!!」
――敵地に侵入して最初の敵、豚顔面の怪人たちは、街に出現したものと大差はなく、かなりの余裕を持って呆気なく倒せた。
マユは自分の席からモニターを眺め、他のオペレーターたちから共有される情報を鑑みる。現在のリッチマンの戦闘力と精神状態、敵の戦闘力や能力などの仔細。彼我戦力差――
「――ふむ。やはりこなたの程度の深度ではまったく問題になりんせんでありんすね 。安心しんした…………ん? リッチマン。今倒した怪人の身体をよく見ておくんなまし。何かある……」
――怪人たちは倒され、絶命すればただの塵のようになって跡形も無く消滅する。しかし、中には何か自身の存在以外に持っている敵もいるようだ。
「こりゃあ…………お金だぜ! えーっと……12500円もある…………。」
オペレーターの1人が即座に分析し、結果を出す。
「――間違いなく、我々人間の社会で流通している日ノ本の貨幣です。怪人が持っていたにしては大した汚損もありません。」
「――ふーむ…………。」
モニター越しのお金を見て、マユはひと息唸り、仮説を立ててみる。
「――――連中に『お金』を用いて商いや取引をする概念があるのか…………人間社会に出現した時に人間から奪って来たのか…………それとも何らかの物理現象が働いてこの異次元空間内でお金が生成されているのか――――このお金、指紋など人間が持っていた形跡は?」
再びオペレーターがリッチマンが拾ったお金を分析する。
「――――指紋や人間が持っていた確たる証拠は認められません。とはいえ、この異次元空間で自然発生しているという確たる証拠もまだ存在しません。」
「――現時点ではこの拾得物はデータ不足でありんすか…………まあ、いいでありんしょう。何処かの誰かの物かも解らないお金をそのまんまにしてもしょうがない――――リッチマン。これからはこの異次元空間で拾ったお金はぬしの物にして結構。警察に届けても混乱するばかりでありんしょう。生活費に充てるなり、変身費用の足しにするなり、好きにどうぞ。」
「――おおっ!? マジか!! やったぜ!! よーっしゃ、ここの怪物たち倒しまくってやるぜ!!」
――リッチマンにとっては思わぬ収穫。怪人たちの中には金目の物を持っている者がいて、それはそのまま彼の利益となる。まるでマッチポンプだ。リッチマンは予想だにしなかった役得に心湧きたち、なおのこと闘志を燃え上がらせた――――
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――そのままリッチマンと、彼をナビゲートする対悪性怪物殲滅班の面々と共に探索を進めていった。
全ての怪人がそうなのかは不明だが、出会う怪人たちは皆、リッチマンを見かけるなり1も2も無く襲い掛かって来るので、リッチマンは躊躇いなく敵を打ち倒していった。
さらに、悪を滅する副産物的に現金が手に入る。どんどんと増える所持金に、リッチマンは半ば有頂天であった。
「――ははっ! すっげえなー!! 今までも街で暴れてる怪人を倒した時も少しは金が拾えることがあったけど、こいつは大漁だぜーっ!! ヒーロー諦めないで良かったぁーっ!!」
――お金に目が眩みかけていると見えるリッチマンに、すかさずマユは通信で声を掛ける。
「――ちょっと、敵を倒してお金を得るのは良いとして……もっと真面目にやって!! 油断大敵でありんす! どれだけの人の真剣な想いをかけてると思ってありんすの!?」
――マユに叱られ、リッチマンは背筋を正す。
「――っと。済まねえ済まねえ…………今まで生きてきて、こんなに儲けたことなんか無かったからよお……気が緩みそうになったぜ。慎重に行くぜ。」
「――――まったく…………。」
席を立って前のめりにリッチマンを叱ったマユは、不機嫌そうに座り直す。
だが、意外にも他の班員たちの反応は柔らかだった。怒られて背筋を正すリッチマンを見て、皆クスクスと笑う。
「――まあ、これぐらいはいいじゃあないですか、所長。彼も貧乏して来たんだし。無理からぬ反応ですよ。」
「――そうそう。幸い、このエリアにはもうそれほど強力な敵の反応は見られな――――あら?」
――オペレーターのウーノとサーノがリラックスしながらモニターしていたが、やがて異変に気付いた。
「――反応あり。そこからさらに100mほど下った先に、何やら違うエリアへの出入り口を確認! その直前に立っているのは――――」
――リッチマンも進むうちに、やがて異様な気配に気付いた。
「――――むっ…………な、何だ、この今までと比較にならねえ、馬鹿でかい邪気は――――!?」
――オペレーターたちも座標を確認すると…………これまでとひと味違う、強力な怪物が待ち構えているようだった。さながら門番か――――