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第10話 解析

「――――ビビビ……課金完了。現在正義奮起率22%。敵対勢力……なし。訓練と判断。速やかにベーシックモードへ変身します――――」




 ――そうジャスティス・ストレージから音声が発せられると、変身時特有の眩い光が放たれ、ヨウヘイの全身を包んだ――――





「――おっ。本当に敵がいなくても変身は出来るんだな。あんまり力は湧いてきてねえみたいだけど……」





「変身を確認……と。」





 マユは別室の…………区画の奥にあるひらけた空間にあるスーパーコンピューターを稼働させ、確認した事象を記録し、キーボードで様々なコマンドを入力してデータを処理していく。





 続けてマイクから声を発し、検査室のリッチマン(訓練モード)へとスピーカー越しに指示する。





「では、拳を振るったり蹴りを繰り出したり、何かアクションをしてみてくんなまし。部屋を壊さないように素振りで、ね。」





「OK……」





 敵と相対している時の緊張感が無く、妙な感覚だったが、リッチマンはいつも通りファイティングポーズで構え、意識を集中して正拳突きを繰り出してみた。





「――ハアッ!!」





 ――続けて回し蹴りも。




「――ドリャアッ!!」





 ――すぐさま周囲のセンサー類が情報をマユが操作するコンピューターへと送る。膨大な情報量だが、マユは落ち着いた様子で画面から目を離さずにカタカタと打鍵タイプし、ひとつひとつ情報から推察される結果を纏め上げていく。






 ――ほんの1時間程度だろうか。他にも様々なテストをしてデータを採取しつつ、ひと通り情報が揃った辺りで口元に手を当てて考え込んだ。






 幾らか考え込んで、傍らのノートなどにマインドマップやチャート形式、図解などで思考を書きこんで纏めたのち、深々と頷く。






「――――幾つか解りんした。その力……リッチマンの力は課金額そのものよりは、ぬし自身の義憤の精神の強さ……特に敵と遭遇して臨戦態勢という状況において発揮される。正義奮起率僅か22%で、課金額はぬしがさっき魔物を倒した時と同じという状態で、『訓練用』というのに……ぬしの生身の状態より6倍は身体能力が高まっている…………実際の戦力に関しては、ここで幾ら頭を捻っても解らなさそうぇ。」





「……ってことは、つまり……?」





 リッチマンもスピーカー越しにマユと会話する。





「本来の戦力は、悪との実戦で見てみないと、ほぼ未知数のままですぇ。」





「――やっぱりィーッ!?」





 ――リッチマンとしての力を実際に振るってきたヨウヘイ自身にも完全には解らなかったヒーローの力とジャスティス・ストレージのメカニズム。ヨウヘイ自身もマユほどではないにせよ、自分の能力を知りたかったのだが、答えは悪との戦地に赴かないと解らないという結果にやや嘆く。





「――ただ、変身開始から解除までにダメージが治癒するメカニズムは解りんした。どうやら課金額とぬしの正義奮起率という義憤の精神との相乗効果で……変身後にあらかじめ充分に治癒する力が一時的にジャスティス・ストレージに蓄えられ……変身を解く時にぬしの身体にフィードバック。回復するという寸法のようでありんす。加えて、変身状態にも意識を集中すれば、ある程度、自己修復再生バイタルチャージすることも出来るようでありんすぇ。」





 ――能力の仔細や限界は全くの未知数と言っていいが、基本はヨウヘイ自身の義憤の心。正義奮起率×課金額によって、あの街中を荒らし回った悪党を屠ったほどの超人的な無尽とも言えるパワーが生み出されるようだ。





「……ふう…………OK。今日はここまでにしんす。変身を解いて部屋から出てきて。」





 マユは集中して頭を使った疲れから少し溜め息を吐きながらも、一旦治験の終了を告げた――――





 >>





「――お疲れ様でありんした。最初の治験の協力としての報酬。取り敢えず現金手渡しで失礼しんす。」





「――ヒューッ!! 待ってたぜ~♪」





 マユは、銀行などで手に入るような手頃な封筒に10000円札を6枚。60000円を最初の治験の報酬としてヨウヘイに渡した。たったさっきまで無一文だったヨウヘイにとっては歓喜であり、安心する瞬間であった。





「――そうだ。ぬしと連絡先を交換しなくてはぇ。携帯端末、使えんすか?」





「おう、もちろん。」





 これから継続的にヒーローとしての力の研究と、悪を成敗していく協力関係。ヨウヘイとマユはお互いの携帯端末のメッセージアプリでアカウントを交換した。何時でも連絡がつく。





 メッセージアプリを起動しながら、マユは告げる。





「今回は現金手渡しでありんしたが、次回以降は早くぬしに報酬を払えるように、『インスタント・センド・マネー』も使いんすからぇ。」





「……インスタント・センド・マネー? 何だ、それ?」





 マユは少し驚いてヨウヘイの顔を見上げたのち、また溜め息を吐いた。





「ぬし、そんなことも知りんせんの……インスタント・センド・マネーはわっちらの研究所で開発した現金送金システム。電子化したお金を、例えばこのメッセージアプリで送って、送り先の手元で現金化出来る。特許や賞も取ったシステムでありんすぇ。」





「――はえ~っ…………電子マネーを? 直接現金に? すっげえな~。世の中進んでんだなあ。」





 ――あまりニュースの類いも見る習慣が無いヨウヘイ。HIBIKI先進工学研究所が開発した実質現金輸送の技術に呆けた声を出す。






「……何ジジ臭いこと言ってるんでありんすか。同い年の癖に。」





「――えっ!? おめえ、やっぱ俺と同じ25歳なの!?」





 マユは、思わず顔を少し背ける。





「……口が滑りんした。さっきの身体検査でぬしの歳を聞いたから…………とにかく、都合がついたら、悪の根城へと行ってもらいんすよ。今日はここまでで。」





「……このまま一気に敵の根城とやらに攻め込まなくていいのかよ?」





 ――マユは少し俯き、憂鬱そうに呟く。





「……わっちだって、早く悪は根絶やしにしたい…………でも、それには充分な準備が必要でありんす。それが調うまでは、無策で深追いは禁物でありんすから。それと――――」






「……それと?」





 ヨウヘイが聞き返すと、マユはふっ、と笑みを浮かべて部屋の外へと歩き去りながら言う。





「――あの喫茶店。贔屓にさせてもらうって言いんしたからぇ。ぬしの淹れるコーヒー。楽しみにしていんすよ。」





「――えっ。お、おう…………これからよろしくな、ヒビキ。」





「マユ、でいいでありんすぇ。はい。これからよろしくお願いしんす……」





(――やっべ……コーヒーの淹れ方、もっと練習しとこうかな~……)





 コーヒーは気に入られたものの、それはカジタの淹れるものなので、当然ヨウヘイの持つ技術ではない。思わぬ取引先と常連客の獲得に、ヨウヘイは焦りながらも、反面心が躍った――――

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