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2◆二人の王子

朝食を終え、婚約者であるアイザックに呼ばれセイラはいそいそと談話室にやってきた。後ろにはしっかりファレルが控えている。


「昨夜はよく眠れたか」

「はい、とても良いお部屋をご用意してくださりありがとうございます」


黒い髪に浅黒い肌、セイラは彼のことを「全体的に黒っぽい人だな」と思っている。顔は凛々しく、イケメンの部類だと思う。ファレルと並べばさぞお似合いだろう。


「私の続き部屋へは…」

「それは結婚してからではございませんの!?ええ、いくら婚約者と言ってもそれは早いですわ!」


セイラは立ち上がってアイザックの言葉に被せて言う。いつでも入って来られる夫婦の続き部屋など、本当の婚約者でもないのに行ってたまるものか。入れ替わっただけでセイラのことなど放ったらかしなファレルなど当てにならない。自分の身は自分で守らねば。現に後ろに控えるファレルは平然と黙ったままだ。


「いや、そうだ。そう言うつもりでいた…結婚式のあとから使ってくれと…」

「あ、あら、そうでしたの…」


セイラは思わず立ち上がっていたがストンと椅子に座り、誤魔化すように紅茶を口にする。


「やあ、君がアイザックの花嫁になる人か」


突然扉の方から声がした。談話室にノックもなく入って来たのは銀髪に白い肌の「全体的に白っぽい人」だ。昨日の挨拶の時には見かけなかったが、一体誰なのだろう。誰かわからないが挨拶しないわけにはいかないので、セイラは微笑んでまた席から立ち上がり淑女の礼をした。


「初めまして、昨日はお目に掛かれなかった方ですね。シヴォレー第二王女のファレルでございます」


公爵令嬢だけありセイラも礼儀作法は叩き込まれているので、ちょっとやそっとでボロが出ることはないだろうと、内心はびくびくしながらも王女を名乗る。


「ふーん…」


白っぽい人はセイラと、セイラの後方を交互に見る。一体なんだというのだろうか。


「姿絵の印象とは少し違うようだね」


姿絵!?


セイラはぐりんと勢いよく背後を見ると、シヴォレー王家から送って来たファレルのどでかい姿絵が飾ってあった。女神のような微笑みも、ビンビンの王家オーラも見事に描かれている。シヴォレーの宮廷画家の技術は素晴らしい。

辛うじてセイラは体型と髪と目の色が同じなだけで、よく描けた本人の姿絵を前にファレルを名乗るのもなんと滑稽であろうか。

滑稽ではあるのだが、ここでうろたえている場合ではない。本物のファレルはというと助け船を出す気はなく、お澄まし顔で佇むだけだ。


「…印象が、違っております?」

「え?」

「よく描けた姿絵ですの…本人よりも」

「い、いや…」

「絵と私、どう違っております?」


セイラは「全体的に白っぽい人」を真っ直ぐに見つめ返し質問をする。

ここで髪と目の色以外全部違うと言われてもセイラは「肖像画が本物より美しく描かれてしまった」で押し通す気だ。なぜならセイラにはこの場をしらばっくれるしか選択肢がない。


「いや、あの…」

「はい?」


全体的に白っぽい彼は大人しそうな姫からの妙な圧に飲まれている。そしてしばらく言いよどんだ後、言った。


「…実物の方がお美しいと思って」

「まあ」


美の女神と言わんばかりの絵の女性と比べてよく言ったものだとセイラは思う。しかしここは「姿絵に描かれているその人だ」と言わせることが目的であるのでこれで良い。


「イシュマ、挨拶もせずにどういうつもりだ」


黒っぽい人であるアイザックが白っぽい人に少し怒気をはらんだ声で言うと、イシュマと呼ばれた白っぽい人は改めて礼をする。


「昨日は不在にして挨拶が遅れてしまった。初めましてファレル王女、僕は第三王子のイシュマだ」


黒っぽい方が第二王子で王太子のアイザック、白っぽい方が第三王子のイシュマ。第一王子は若くして身罷れたと聞いている。こうまで姿が違うのであれば母親違いは間違いなさそうだ。セイラは二人の王子について情報整理をするのをタスクに加える。


「フン、血筋でいけば本来僕の方が後継ぎとして相応しい。王太子として君の夫になるのは僕だったかもしれないね」


そう言ってイシュマはセイラの手を取ってその甲に口づけを落とそうと…したところで「まあ、そうでしたの!」とセイラがその手を引いて、わざとらしく口元に手を当てて驚いてみせた。間一髪である。


「イシュマ、私の婚約者に馴れ馴れしい。戯言はその辺にしろ」

「そうピリピリするなよ、ただの挨拶だ」


危険を回避したとほっと胸を撫でおろすセイラの後ろで、ファレルは表情を変えずに二人の王子を見比べる。


(一体なんの茶番かしら?)


ファレルの方は二人についてのデータは頭に入っている。二人の王子の歳は同じで、一か月だけアイザックが先に生まれており、どちらも側室の子だ。正妃は息子を失った時に、他に産んだ二人の娘と一緒に遠くの地にある王領へ引っ込んでいる。

アイザックの母親は王が気に入った地方豪族の娘、イシュマの母親は由緒正しい「悠久の国・アリドネア」のランドラー公爵家の娘である。イシュマの言う「血筋でいけば」というのはそういうことだ。

第一王子の死は事故とされているが、殺されたのではないかというのはシヴォレーの諜報員から上がって来た言葉だ。


しかしこうもわざとらしくシヴォレーから来たばかりの王女の前で不仲を演じるのはどういうことだろう。ファレルは二人の王子の関係を改めて洗う必要があると薄く笑った。

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