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18◆王女の意向

サザクードと魚人うおびととの裏取引を明日へと控えた夜、ファレルとセイラは言い争っていた。


「ファレル様!こればかりは許す訳にはいきませんわ!なぜ、どうして、ファレル様が王子たちの捕り物に同行するのですか!」

「この計画を立てたのは私よ?現場にいないでどうすると言うの。それに私は今シヴォレーの王女の侍女という立場だからアリドネア側の気遣いで余計な護衛が増えることもないわ」

「そんな危険な真似をさせられるものですか!ジーンは何て言っておりますの!?」

「私の意向で構わないそうよ」

「な…!」


セイラは口を大きく開き閉じることができない。何だって裏取引の現場を押さえるなんていう荒事が行われる場所へ王女が行かねばならないのだ。今の侍女という立場なら王子たちも同行を許すかもしれない。しかし王女を守る立場のセイラからしたら冗談じゃないのだ。


「だから、セイラは城で朗報を待っていてちょうだい」

「それでもし万が一があったらどうするのですか!」

「もし私が死んだら、シヴォレーの筆頭公爵家の令嬢がアリドネアに嫁入りすることになるわ」


ファレルの発言にセイラは眉間の皺を増やす。シヴォレーの筆頭公爵家の令嬢とはもちろんセイラである。


「そもそも、行儀見習いをやる時期なんてとっくに過ぎてる公爵家の令嬢がいつまでも私に仕えている必要はないわ。もし嫁入りってことになってもいいタイミングだったと思いなさいな」

「待ってください!」

「あなた、アイザック王太子との関係は悪くないんでしょう?」


ファレルの言葉に、セイラはアイザックに伝えられた言葉を思い出す。


『俺はファレル、あなたを愛している』


ファレル、と呼んではいるが、あれはセイラのことだ。


「私がただの捕り物如きで死ぬことはないけど、万が一を想定していないわけじゃないわ。アリドネアの地で私が死んだとしたらそれはアリドネア側の大きな過失、それを使ってお兄様が優位に事を運ぶでしょう。私と入れ替わっていたことに関してはお兄様からアリドネアに説明をして、自分と血を分けた公爵令嬢であるセイラを嫁入りさせるわ」


もう決まったこと、この話はもうお終い。そんな風にファレルは言う。

セイラがずっとファレルに付いていたのはファレルが望んだからである。もちろんセイラが城を去ることを望めば引き留めることはしなかったであろうが、そうしないことにかこつけていつまでも手放さなかったのはファレルだ。


万が一を考えていてもファレルは死ぬ気などはさらさらない。やっと自分の活躍の時が来たと思っているくらいである。だけどもし何かがあった時は、セイラに言った通りにするのがシヴォレーにも、セイラにも良いかと思っている。アイザックであればセイラを大切にするのは明白である。色んなことを考えて、一番いい方法を選んでいるのだろう、それはセイラにも解る。


セイラは一つため息を吐いて「わかりました」と返事をする。セイラとて王女に向かってこれ以上の反論はできない。そうしてファレルはジーンと共に最後の詰めに作戦会議をすると部屋を出て行き、セイラが一人部屋に取り残された。


ここでセイラが無理矢理付いて行ったところで何の役にも立たない。ファレルは剣術や護身術を幼い頃から身に着けているが、セイラのスキルは荒事に役に立つものは何もない。大人しく待っているしかないのである。


「大丈夫だとは思うけど…」


セイラの言葉がポツリと部屋に響く。捕り物に同行するだけでファレルが戦うわけではない…多分。無事に戻ってくるはずなのでセイラが嫁入りという話も無い話だ。


アイザックと結婚と聞いた時に、セイラは何とも心に引っ掛かるものがあった。それはアイザックが嫌ということではない。国同士の結婚に個人の気持ちが優先されるわけが無いのは理解している。

ファレルの目にはアイザックがセイラを気に入ったように見えるのかもしれないが、あれはあくまで「王女の振りをしているセイラ」なのだ。セイラであって、セイラではない、というのが本人の認識だ。

国が示す方向は解らないが、事が終わればまずはアイザックに謝ってからだとセイラは思っている。シヴォレーとアリドネアの腹の探り合いとか、王女からの命令とかはさておき、騙して心を弄んでしまったのは自分だ。

アイザックが出会った最初に愛さないと言ったのは、先の解らない自分が何かを約束することはできないと思っていたから。だけどその運命を軌道修正しようと目覚めた彼はとても真っ直ぐに自分へ思いを告げた。真摯な人だとセイラは思う。ただでさえ王宮で肩身が狭かったようなのに、こんなのは踏んだり蹴ったりではないか。


まずは謝って、自分は王女ではなく侍女のセイラだと明かしてからこれからどうするかを考えようと思っていたのに。

そう思ってセイラはため息を吐く。まあ、あれこれ思った所でセイラの意向など汲まれるはずはないのだ。ファレルは王女、兄のライオネルは王太子。そしてアイザックとイシュマはアリドネアの王子だ。セイラは公爵令嬢とは言え、政治に関与している重役でもなければ王女の相談役でもない、ただのお世話係である。今はファレルの意向に沿って捕り物が終わるのを待つしかない。


待つしかできない、というのもなかなかしんどいものである。

ちょっとしばらく執筆期間に入ります。

次は終わりまで書き終わったら投稿を始めます。

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