ドワーフ少女、城での日々を満喫している
アッシュがダークエルフの城にやって来てから、しばらくの月日が経った。
アッシュは徐々に城に馴染み、幼さ故の可愛さで城で働く侍女たちを虜にした。
そしてもちろん、ダークエルフの姫君でありアッシュの主であるオプスキュリテも。
オプスキュリテはどこまでも優しい。
本来、守られるべき姫様のはずなのだが、頼り甲斐があり過ぎて逆に彼女がアッシュのお守りをしているように周囲――オプスキュリテの父、そして兄たち――は思っている。
城内を並んで歩く二人の姿はどう見ても仲の良い姉妹か、年の離れた親友のそれだった。
微笑ましい一方、オプスキュリテはただ気軽に話せる相手が欲しかっただけなのでは、と考えてしまうのは仕方のないことだと言える。
しかしアッシュはそんなことは知るはずもなく、姫様をお護りしようと毎日意気込んでいたのだけれど。
アッシュはあてがわれた部屋で寝起きし、それ以外の時間はオプスキュリテ姫に常に付き従っている。
両刃の斧は突然の襲撃に備えてピカピカに磨かれているが、襲撃があったことはまだ一度もない。それはもちろん喜ばしいことなのだけれど、少し物足りなく感じていたりもしていた。
だから、アッシュは今までより一層レベルの高いトレーニングを始めることにした。
――全てはリテ姫様を守るため。そう思えば、どんなことも苦ではない。
トレーニングは基本自主練だ。
丸太のように太い腕にさらに筋力をつけ、さらに強くなれるよう励み続ける。その様子を遠くから眺めるオプスキュリテは、楽しそうにしていた。
そしてちょうどアッシュが疲れて来た頃、彼女は言うのだ。
「アッシュちゃん、そろそろお散歩に行きましょうか」
「はい、リテ姫様!」
オプスキュリテは意外にスパルタである。
だが、上級者のトレーニングというのは体に鞭打つくらいがちょうどいいのだ。そしてオプスキュリテとの散歩は、楽しみながら適度に体を動かせる絶好の機会なのである。
散歩と言ってもただののらりくらりと歩くわけではない。
何せ城の周りは一面の砂漠、その中で出くわす肉食の動物たちと戦いながら進まなければならないのだ。
それも動物を無闇に殺さないようにとオプスキュリテから言いつけられているから加減が難しい。
斧で相手をぶった斬るだけではなく制圧するいい練習になった。
「最近、また斧の腕が上がったのじゃない? アッシュちゃんはすごいわね。私も見習わなくちゃ」
「褒めてくださって嬉しいです、リテ姫様! でもあたしもまだまだです。もっと強くならなくちゃ、リテ姫様の護衛は務まりません」
「心強いわ」
そんな風に言い合いながら城に帰り、あとはオプスキュリテと一緒にお菓子を食べたり、ご馳走をいただいたりして過ごす。
アッシュにとってそれは、とても充実した、夢のように楽しい日々だった。
だからきっと、油断していたのだ。――まさかオプスキュリテではなく自分が狙われる事態になろうとは、思いもしていなかったのである。