ドワーフ少女、ダークエルフの姫君にご褒美をもらう
「お父様がごめんなさいね。無事で良かったわ。……アッシュちゃん、よくやったわね。ありがとう、偉かったわよ」
「ありがとうございますリテ姫様! リテ姫様のお役に立ててあたし、嬉しいです」
「アッシュちゃんって強いのね。驚いたわ」
「だってあたしはリテ姫様の護衛ですから!」
戦いの緊張が緩み、平和が戻って来た庭園にて。
オプスキュリテに頭をぽんぽんと撫でられ、アッシュはキャッキャと喜んでいた。
アッシュは戦いの時は一流の戦士であるが、そうでない時はごく普通の少女なのである。
オプスキュリテは彼女の子供らしい反応を見ながら、嬉しそうに目を細めた。
「そうそう、話の途中だったわね」
「……話ってなんでしたっけ?」
「お花よ。長生きのお花」
「あっ、そうでした。咄嗟に食べちゃいましたけど」
「実はあれ、生で食べてもいいのだけれどそれでは効果が薄いのよ。
そうだわ、お詫びの意味も兼ねて、アッシュちゃんにご褒美をあげましょう。このお花を混ぜたお菓子なんて美味しそうだと思わない?」
「お菓子!? わーい!」
「ふふっ。アッシュちゃんは本当にかわいいわね。じゃあ早速料理長に作ってもらいに行きましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アッシュの目の前には、光り輝くスイーツが一面に並べられていた。
クッキー、ケーキ、その他色々……。丸一日かけても食べ尽くせないのではないかと思うほど豪勢なそれは、全てアッシュのものだと言うのだから夢のようだった。
甘く痺れるような良い香り。ダークエルフの城の料理人たちが腕によりをかけて作っただけあって一流品には違いなかった。
「こんなにいいんですか?」
「どうぞ、たっぷり食べて」
「はーい!」
答えるなり、アッシュはすぐにがっつき始めた。
口の中に広がるとろける甘味。それを堪能し尽くしながら、彼女は先ほどから気になっていたことをオプスキュリテに問いかけた。
「ダークエルフ族って強いんですか? さっきのあの人たちもダークエルフ族なら、護衛がいらない気がするけど」
アッシュだからこそ勝てたというだけで、並大抵の強さでは到底敵わないレベルの戦力を襲撃者――もといダークエルフの騎士たちは持っていた。
なのに護衛を雇う意味がわからない。それほどの戦力を必要としているのだろうか?
「実は、ダークエルフ族って結構敵が多いのよ。オークとか人間とかね。
だからいざという時のために、戦ってくれる人は多い方がいいらしいわ。私はそこまで必要ないと思うのだけれど、お父様は過保護だから」
「へぇー。大変なんですね。
なら、あたし頑張ります。いつ誰と戦ってもいいように、これからもどんどん強くなっていきますねっ」
「期待しているわね」
「はいっ! ……って、あれ?」
改めてオプスキュリテを守るため強くなる決心をして、大きく頷いたのと、それはほぼ同時だった。
あれほどあったスイーツが見当たらないのである。机の上にも下にも、どこにも。
首を傾げる彼女だったが考えられる可能性は一つだけだった。つまり、全部食べてしまったのである。
戦いをすると腹が減る。どうやら思っていた以上に空腹だったようで、驚異の速さで食べ尽くしてしまったらしい。もう少し味わいたかったと思ったものの、アッシュは幸せな満腹感でいっぱいで、すぐに物足りなさなどどこかへ消えてしまっていた。
「ご褒美、楽しんでいただけたかしら?」
「もちろんですー! お城ってすごいなぁ。いいなぁ。ほんと楽しいことだらけで幸せです!」
「そう、良かったわ。私もアッシュちゃんのおかげで味気ない毎日が楽しくなりそうよ」
ふふ、と楽しげに笑うオプスキュリテ。
アッシュも釣られて笑いながら、これからの城での生活に胸をときめかせるのだった。