ドワーフ少女、王様に会う
「遠いところから来たばかりで疲れているとは思うのだけれど、なるだけ早くあなたをお父様に紹介しなければならないわ。アッシュちゃん、私と一緒に来てくれる?」
「はい、リテ姫様!!」
オプスキュリテと出会ってからしばらく後、アッシュは彼女の案内でダークエルフの王の元へ向かうことになった。
アッシュ自身は気づいていないがこれは密入城である。本来、オプスキュリテより前に王が彼女と会い、アッシュを見定めるはずだったのだが、こうなっては迅速に王に会わせるしかないと判断したのだった。
そんな彼女の気を知らないアッシュは、こんなに美しい女の父ならばさぞかし美男なのだろうと想像を膨らませている。何せドワーフは醜い男ばかりだったので、美男とはどんなものかと興味があったのである。
アッシュは浮かれて駆け足気味にオプスキュリテの後を追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王の自室にて待っていたのは、オプスキュリテと同じ輝かしい銀髪に褐色の肌の美貌の男性だった。
エルフに類する種族は歳を取らないというが、ダークエルフの王も類に漏れず若々しい。
二十歳と言われても誰も疑わないだろう。表情は凛々しく、王の威厳が感じられた。
しかしそんな王であっても、アッシュの姿を見るなり少しばかり目を見開いて動揺していた。
当然だ。まだ幼女と言ってもいいような小さなドワーフが巨大な斧を軽々と担いで現れたのだから。
「……なんだ、その娘は?」
「私の護衛になるアッシュよ。少し早く来過ぎてしまったみたいなのだけれど、可愛いお嬢さんだったからお通ししたの」
オプスキュリテはアッシュの体を抱き寄せると、笑顔で続ける。
「かなり将来有望な子なの。城壁をよじ登って私の部屋へ入って来られた者なんて、初めて見たもの。ねえ認めてくれるでしょう、お父様?」
アッシュが後で聞かされたところによると、オプスキュリテは自分の部屋に忍び込んで来たアッシュの度胸に感心したのだとか。
彼女こそ私の護衛に相応しい――そう言ってのけたオプスキュリテだったが、ダークエルフの王は当然ながらそう簡単に受け入れられなかった。
「城壁をよじ登っただと? それは泥棒と同じではないか。もしやその斧で窓を破壊したとは言うまいな?」
ぎろり、と真っ赤な瞳で睨まれ、アッシュは思わずぶるりと震えた。筋肉馬鹿で考えなしな彼女でも、さすがに王の威圧感に気圧されてしまったのである。
「ご、ごめんなさい王様。そのもしやです」
「大丈夫よアッシュちゃん。お父様、彼女のことをそんなに怒らないであげてちょうだい。細かいことはこれから教えてあげればいいわ。彼女の力があれば、もし私が敵に捕まっても助け出してくれると思うの。お願いよ」
「お前が敵に捕まることなどないだろうが。まったく……」
そうは言いながらも、ダークエルフの王は諦めた――というより、娘の『お願い』の一言に負けてしまったようだった。
「わかった。そのドワーフの娘の力はこれから見定めるとする。
アッシュとやら。お前を我が娘オプスキュリテの護衛に任命しよう。体を張ってオプスキュリテを守り抜け」
「いいんですか? ありがとうございますっ。リテ姫様の護衛になれて嬉しいです!」
先ほどまで小動物のように震えていたのが嘘のように、焦茶の瞳を輝かせたアッシュが両刃の斧を天高く掲げ、飛び跳ねて喜ぶ。
それを隣で見ていたオプスキュリテは「これから楽しくなりそうだわ」と言ってくすくすと笑っていた。




