初登板!
『グッドルーザーズ、ピッチャーはユウキ』
名前がコールされても反応のない球場って新鮮だな。
成績は全然ダメでも、一応高校時代からの遺産で人気はあったから、登場すると結構歓声を貰えたりしていたから。
一応テスト生が投げると告知はされていたみたいだけど、ヒデ君の言っていたようによくあることなのか、そっちの反応も全然。まあ、大方期待外れの選手ばかりなんだろうな。
「ユウキさん、とにかくストレートで押していきましょう」
「了解」
うん、なんだか新鮮な言葉。
晩年は純粋なストレートなんてほとんど投げずに、ツーシームやカットボールで逃げていることも多かった、ストレート勝負なんて大学――下手をすれば高校以来かも。
忘れていた力勝負の感覚、不思議と気分が昂ってくる。どうせ打たれる、そう開き直れているおかげもあるのかな。
とにかく、思い切って投げよう。
「えいっ」
よし、いい感じで指にかかった。これは結構いい感じ。
『す、ストライク!』
よし、初球は見逃してくれたな。
「な、なんだ!?」
あれ、バッターが動揺しているな。
もしかして遅すぎるから? 失礼な奴。
「おいおい」
「なんだあれ」
球場もざわついてきたし。
ただの130キロ程度のストレート、やっぱり駄目――
「た、タイム!」
なんかヒデ君も駆け寄ってきたし。もしかしてあれ? もう少し球速が出ると思っていたとか?
「は、はやすぎますよ!」
「へっ?」
何言ってるの、この子。
「ビックリしました! 練習より全然速いじゃないですか!」
あー、そういうことか。もっと遅いと思っていたけど、想定外と。
この子、大げさに人を持ち上げるのが好きだなー。
「いい感じですし、とにかくストレート一本で勝負しましょう!」
こんなストレート一本で、抑えられるわけないだろ、と言いたいけど。
一応テスト生の立場だし、素直に従うしかないか。
「……」
ほら、ふざけている間に相手もかなり真剣な表情になっちゃったし。
何とか打ち損じを信じて投げるしかないか。
『ストライク! バッターアウト!』
あれ?
『バッターアウト!』
あれあれ?
『バッターアウト! チェンジ!』
あれあれあれ?
なんか知らないけど、抑えられてしまった。
「くっそ、なんだあれ!」
「打てねえよあんな球!」
なんか相手ベンチ、ガチでキレているし。
「おいおい」
「とんでもない投手が出て来たんじゃ」
スタンド、ざわついたままだし。
ドッキリにしては、ずいぶんとリアリティが……。
「すごい、すごいじゃないか!」
スモールボスにもめっちゃ肩を叩かれる、利き腕を叩くなバカ、じゃなくて。
「は、はあ」
出来過ぎというか、自分でもびっくりというか。
「ボス! どこで見つけてきたんですか! こんな速い球を投げる投手!」
「はっはっはっ、それは企業秘密だよ」
速くないよ、さっきからおかしいよみんな。
「ユウキさん、ストレートだけじゃないっすよ。俺が捕れないだけで、スライダーやフォークって謎の変化球も持っているんです!」
平凡な変化球だよ、変に盛らないでよ、ヒデ君。
「いやいや、冗談はよせって。それはごく限られた投手しか投げられない希少な変化球じゃないか」
なにこれ、ドッキリ?
引退した僕をからかうための企画か何か?
一体何なんだ、この世界は。