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入団テスト!?

 とりあえず立ち上がってみたけど、状況を整理しようにも理解不能。

 立派な、プロ野球チームが使用するような球場だけど、全く見覚えがない。二軍も含めて全国各地へ行っているのに。

 もしかして、これは異世界転生的なあれ? いやいや、ラノベの読みすぎ、だと思いたいけど。

「夢以外だとそれくらいしか、説明がつかないんだよな、これ」

 だとすれば状況は最悪だ。服装はユニフォーム、持ち物も手に付けたグローブとポケット内のハンカチだけ。誰もいない謎グラウンド上、所在地すら不明となると、僕はここからどうすれば……。

「おい!」

 げっ、なんか無駄に格好いいおじさんに見つかった。

「おまえ、何をしてるんだ?」

 明らかに敵意を持って近づいてくる。そりゃそうだ、僕はどう考えても不法侵入者。

「え、えっと、僕は」

 説明、できそうにもない、状況を説明しても、絶対信じてもらえないし。

「ん? そのグローブ、もしかして投手か?」

「え、ええ、一応」

 おや? なんか食いついてくれた。

「もしかしてあれか、飛び込みで入団テストを志願しに来た、的な?」

 いや、違う。

 しかしせっかく勘違いしてくれているんだ、ここは乗っかっておくべきだろうか。

「はい、実はそうなんです」

 チーム名も知らないけど。

「ほう、なかなか面白い奴じゃないか」

 面白いかな? 怪しいだけだと思うけど。

「まあちょうどいい、テストしてやるよ」

 あ、あれ、話が変な方向に。

「ぶっちゃけ普段なら門前払いだがな。ちょうど今日先発予定の投手にトラブルがあって代役を探していたんだ」

「……もしかして、僕が代わりに先発で投げるんですか?」

「察しがいいねー、そういうこと」

 まてまて、こんなに簡単に話が進んでいいのか。

「知ってるとは思うが、俺は監督のスモールボス。お前の名前は?」

「ゆ、ユウキです」

 スモールボスって、まさか本名じゃないよな?

「ユウキね、話は通しておくからロッカー行って準備をしておいてくれ。試合開始は13時、あと数時間しかないからな」

 そう言って去っていくスモールボス。

「……とりあえず、準備するか」

 訳の分からない状況であることには変わりないけど。

 いきなり逮捕、とかならなかっただけ良かったと考えるしかないなこりゃ……。





「ユウキです、よろしくお願いします」

「へーい、よろしくです」

 トントン拍子に事が進み、気づけば試合前のブルペンに入った僕。

「ユウキさん、結構年いってますよね。何歳なんすか?」

「あー、33」

「あはは、その年齢で実績もないのにテストを受けに来る度胸、パないっすね」

 今日バッテリーを組む彼はヒデ君、23歳の控え捕手らしい。

 忌憚のない物言いというか、はっきり言って結構失礼なタイプらしい。

「まあ大船に乗った気持ちでいてくださいよ。俺、いつもテスト生担当で、実際に合格に導いた事もあるんで」

「テスト生って、結構来るの?」

「増えたのは最近になってからですね。しょっちゅう拾ってくるんですよ、あの去年就任した変人監督は」

 チームの若手選手から変人呼ばわりされる監督、大丈夫なんだろうか。


 まあいいや、とりあえず状況を整理しよう。

 ここはプロ野球チームのグッドルーザーズ(なんて名前だ)のホームスタジアムで、今の季節は春、オープン戦の時期らしい。

 今日は試合当日だが、チーム内で感染症が流行ってしまい、投手が足りなくなって困っていたところに偶然テスト生(僕)が現れて先発をすることになった、という感じ。

 控え中心のメンバー、いきなりの実戦登板。結果より内容を見て合否を決める、とか言っていた。

 またプロの舞台で投げられる、それは嬉しいけど。グッドルーザーズなんてチーム、現実世界には確実になかったし、夢にも出てきそうにない名前だから。やっぱりここは異世界、なのかなぁ。


「ユウキさん、球種は何がありますか?」

「えっと、まあいくつかあるけど」

「とりあえず投げてみてくださいよ、バシッと捕ってみせますから!」

 なんとも頼もしいというか。まあ僕の球なんて、プロの捕手なら気合い入れて捕るまでもないだろうし、失望させないといいけど。

「それじゃあいくよー」

「うっす!」

 初球、ストレートは自信ないし。

 とりあえず昔の決め球、スライダーを。

「よっと」

 ん、悪くない感じ。

「わ、っと」


『ポロッ』


「えっ」

 普通にストライクゾーンにいったのに、ヒデ君まさかの落球。

「すんません! もう一球いいですか!」

「わかった、同じ球いくね!」

 ストレートだと思っていたのかな、悪いことをしたかも。

 とりあえず、同じ球を!


『ポロッ』


 おい、ちょっと待て。またパスボール。

「ユウキさん!」

 ん、何か寄ってきた。

「今の球、俺には捕れないっす」

「はっ?」

 いやいや、ただのスライダーだよ。あんまり言いたくないけど、ごく平凡な。

「いやー、見たこともない変化球で凄いんすけど、いきなり使うのは難しいんで、さーせん」

 おいおい、大丈夫かよこのチーム。

 まともに変化球も捕れないどころか、スライダーを見たこともない球とか言い出すし。



 結局、その後も他の変化球を試してみたものの、ヒデ君はほとんど捕球できずに。

 実践で使えるのは、ストレートとチェンジアップだけというまさかの事態に。

 なんかヒデ君はその2球種を絶賛してくれたけど、絶対ただのお世辞だし。現役時代はネットでオジギングファストとか馬鹿にされたストレートで抑えられるわけない。

「はあ」

 異世界に飛ばされてまでバッピのようにボコボコにされるとか最悪、憂鬱だ……。

「ユウキさん! そろそろ試合が始まりますよ!」

 ああくそ、もう自棄だ。

 とにかくやるしかない、これでも元国民的スターだった男の意地を見せてやる!


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