始まりの引退試合
『北海道所属ユウキ投手、本日引退試合』
今朝、新聞の片隅に載せられた、僕の引退をファンへ伝える記事。
「大騒ぎされた入団時とは大違いだよな、本当に」
それを眺めながら、自虐的な呟き。
僕の名前はユウキ、元甲子園、大学野球のスター選手。
自分で言うのもあれだけど、僕は国民的なヒーロー扱いをされていた時期もあった。
ライバルとの死闘の末に、最後まで一人で投げ抜いて勝ち取った甲子園優勝。
プロ入りを選ばず、大学野球の舞台で仲間たちと掴んだ栄光。
だけど、プロに入る頃にはそれまでの酷使の代償から僕の腕はボロボロになっていて。
最も輝いていた時のようなボールは投げられず、それでもプロ入り後、最初の二年間はそれなりの結果は残したけど。
そこから腕以外の箇所にも限界が訪れて、どんどん落ちていくパフォーマンス。
投球術を磨いた、様々な球種も覚えた、まともに動かない身体と向き合いながら、できる限りの努力を積み重ねた。
だけど、致命的に球速が足りず、怪我が原因で投げることも難しいとなっては。ついに今年、長年面倒を見てくれた球団から、もうプロでは無理だと放り出された。
「ユウキ、次の回いくぞ」
「はい」
今日は引退試合、球団が用意してくれた、プロ野球選手として最後に立つ場所。
『ユウキー』
『今までありがとうー!』
僕がマウンドに立つと、大歓声が巻き起こる。
みんなが僕を歓迎してくれているのに。辞めないで、そんな声は全然聴こえない。
僕は足掻きすぎてしまった、もう選手としての可能性がないことは、みんな分かっている。
まあいいや、余計な事は考えない。せっかくの引退試合だ。
相手のバッターは、同期のスター選手。僕とは違ってバリバリの現役スター選手だ。
プロに入ってからはまともに抑えられた記憶もないけど、僕に与えられた登板機会はコイツ一人。
悔いのないように、今投げられる全力のボールで向かっていこう。
引退登板だし、初球くらい見逃してくれるはず。とりあえず初球は全力のストレートでストライクを。
『カキーン!』
「はっ?」
なんて考えていたら、鋭い打球が僕に向かってくる。
おい、どうして完全に消化試合の引退試合なのに、マジで打ち返して――
「い、いてて……」
痛いなちくしょう!
とんでもない勢いのボールが当たった割に、意識はある。顔面に痛みが残っただけで無事みたいだけど、せっかくの引退試合はもう終了。
まったく、あいつなりに全力勝負をすることで気をつかったのかもしれないけどさ、後で文句の一つでも言って……。
「あ、あれ?」
どこだ、ここ。
見知ったホーム球場のマウンドの上、じゃない。
もしかしてライナーを受けて、気を失って。
いやいや、だとしたら病院か医務室辺りにいるはずなのに。
周囲を見渡す、野球のグラウンドであることは確かだけど、全く知らない場所。
「なんだ、これ」
僕はいったい、どうしてしまったんだろう。