自分の武器
「おい、聞いたかよ。異界の勇者の中でも【聖剣召喚】のスキルを持った勇者が所属する筆頭勇者パーティーが始まりの迷宮最速攻略だってよ」
「聞いたよ。俺たちだってブロンズランクなんだから攻略ぐらいな…」
「バカ野郎、迷宮への侵入許可が降りるだけで攻略なんて全然だろうが」
「そうだよな。それをこの世界に来て二、三週間そこらで攻略とは勇者様はそんなにすごいもんなのかね」
「何でも、異界の勇者達の中でも強力なスキルとステータスだった勇者だけを集めたパーティーらしいからな。最初から迷宮の魔物ぐらいなら倒せちまうんじゃねえか?王立学園の入学も決まってるみたいだしな」
「こりゃ、あの魔王にも届くかもな」
「まだわからねえが。ブロンズの俺達が召集されるような状況になる前に倒してほしいな。がはは」
クラスメイトたちはドンドン先に進んでいるみたいだ。
それに比べ未だにスライムも倒せず、薬草採取をする日々の自分、冒険者が向いてなかったのかもしれないな。
落ち込んだ気分がが上がらないまま、宿へ戻った。
◇◇◇
夕食を食べ終え、体を水で拭いてベッドに転がり込んだ。
天井を眺めながら、これからのことについて考えていた。
冒険者になって1週間が経つが薬草採取の依頼を受けているだけだ。スライムの討伐依頼という依頼として出す必要のない討伐依頼の流れを知るためだけの依頼が達成できていない。
ステータスが極端だったことには驚いたけど、それでも何か方法があるんじゃないかと信じてやって来た。でも、もうアイデアが思い浮かばなくなってきているのを感じていた。
普通の方法では、出来ないことが分かっていた。
だから、自分が思い付く限りの方法を試してきたけど、ここまで通じないとは、想定が甘かったのかもしれないが、少し悲しい。
まだ、試せることがあるのはそうだが。
同じ日に冒険者登録をした人は一人としてウッズランクに留まっている人はいないし、クラスメイト達はブロンズランクの人が手こずるような迷宮を攻略している。
冒険者になった理由の一つとして、クラスメイト達が戦っているのに自分だけ安全圏にいるのは忍びないと思っていたことがあったが、むしろ足手まといになってしまうし、この世界の住人の人よりも守られるような存在だと感じている。
冒険者を辞めた先のこと、考えてみてもやはりステータスの問題で厳しいと感じてしまう。
肉体労働ようなことはほとんどできない。
頭脳労働をするにしてもこの世界の知識が明らかに足りていない。
どうやって考えても思考が詰まってしまうような、全体がぼやっとして何処に行っても壁で阻まれるような感覚はどこかであったような…
…あの林間合宿の前の日の帰り道で考えていたことをまた思い出すとは思わなかった。
何か一つのことを極めたらいい………か。
天野君なら【聖剣召喚】を極めたらいいし、他のクラスメイトそれぞれそういうスキルがついていたはずだ。
でも、自分は? 「ステータス」
【シャー芯】
このスキルをどうやって使えば良いのだろうか。
ただの書く道具、いや道具にもなれない。
天野君のように【聖剣召喚】みたいなスキルだったら分かりやすかったのか知れないね。
それさえ極めたら道が開けていくような、そんな道標みたいなものがあればいいのに、とどうしようもない思考になってしまっていた。
ちょっとやってみようかな。ベッドから起き上がった。
かなりやけくそだけど、聖剣が出てくるかもしれないし。あははっ
我ながら、無理があると苦笑しながら、聖剣をイメージして…
【シャー芯生成】
やっぱり、普通のシャー芯が出てき、た?
……少しの変化だけども、今まで生成した何百本も見てきたシャー芯よりも少し長いような。自分の中で不思議な感覚を感じ取っていた。
何もイメージせずにもう一本作ってみるか。
【シャー芯生成】
比べてみると…
少し長い。長くなっているシャー芯が。
………え?もしかしてシャー芯の長さってイメージで変えることができる?ピコンッ
付属スキルが追加されました。
【シャー芯】:【長さ調整:レベル1】
不意にステータスの画面から音がなり、スキルについて伝えてきた。
付属スキル?
って聖剣イメージしたらシャー芯が伸びた?
自分の疑問に答えるようなスキルの追加?
長さ調整って何だろうか。スキルにもレベルがあるのか。
疑問が次々に湧いて尽きなかったが、まずステータス画面確認することにした。
付属スキル・・・メインスキルに対して強化や変形など、必ず付随しなければ発動できないスキル。スキル使用者の心や肉体の変化により、発現する。
心や肉体の変化…イメージでシャー芯の長さを変えることができるかもって気づいたから、、なのか?
スキルの内容についても確認してみる。
【長さ調整:レベル1】・・・スキル【シャー芯】を発動する際に長さを30cmまで変更することができる。変更可能な長さはスキルレベルによって変動する。
ってことは今なら30cmのシャー芯を百本以上、生成することができるってことか。
ふーん。なるほどね。
もう一度ベッドに倒れ込んだ。
あははははははっ
気づいたら、笑っていた。
なんだ、さっきまで悩んでいたのが嘘みたいだ。
自分にも有ったのか、道標が。
【シャー芯】
これだ。自分の武器は。これなら行ける。
そんな自信が湧いてきていた。
早く戦えるようなスキルにしたい、ステータスが低くても利用できる方法を考えないと、それから他のスキルもこのスキルを軸に戦闘に活かしていけるかも、、、
ふふ、笑いが止まらない。
こんなに一瞬で世界がひらけていくことがあるとは。
ドンッ 「うるせえぞ!」
「あっすいません。」
くふふ。
明日に早くならないだろうか。早く自分の理論を試したい。
明日への興奮と期待でなかなか眠れない、この世界に来て初めての夜だった。
◇◇◇
次の日、王都の外壁付近にいるスライムの目の前に来ていた。
この1週間でスライムについて少なからず分かったことがある。
それは、局所的な圧力に弱いことだ。
砂や槍など力が加わる部分が少ないほど、攻撃が通っていた。
つまり、シャー芯が刺さる。はずだ。
自分なりの考えで、昨晩考えた自分にしかできないスライムの討伐方法。
【シャー芯生成】【シャー芯生成】、、、
生成した百本以上のシャー芯を束ねて持つ。
束ねても、3cmの太さにも満たないが、今はそれがいい。
自分の体で一番大きな押し出す力を考えたとき自然とこの体制になった。足の裏をスライムへ向けて、束ねたシャー芯の標準を核へと合わせる。
そして、自分のできる限りの力で踏み抜いた。
スライムの体の中をシャー芯が通り抜けていく。スライムの体が壁の様になって貫けなかった体内を折れてしまうものがあっても進む。
中心にいつも見えていた、触れず遠く遠くに感じていた核に届いた。
ベキッ
核が割れて落ちる。
ピコンッ
レベルが上昇しました。
「っよし」
王都の外壁で、この世界のほとんどに理解されない喜びを噛み締めた。
この世界に来て初の魔物討伐、初の自分の理論が通用した瞬間だった。中から溢れ出る感情を止めようともせず、ガッツポーズしていた。
レベルが上がったことによるものなのか、戦闘による生物的な本能なのか、自分の理論を証明できたことによる喜びなのかはわからないが、興奮と幸福感を同時に感じていた。
すぐさまレベルが上がったステータスを確認した。
………………………えーっと。見間違いを疑い目を擦る。
「魔力が100上がっているのは異常だけれども、良いとして……他のステータスは2と言うことでしょうか」
気づいたら、ステータス画面に話しかけていた。
ピコンッ 「ステータス表記に間違いはありません」
「そうですか…。ありがとうございます」
「失礼します」
ふぅ。スライムには当分お世話になりそうだな。
城壁を越えてくる雲を眺めながら、あんな風に緩く余裕を持ちたいと思いつつ、お財布事情は芳しくない。
早くアイアンランクの採取依頼を受注するために、ギルドに向かった。
◇◇◇
「見たかよ。さっきのやつ、スライム倒して変なポーズしたと思ったらなんか老けた顔して戻ってったぞ」
「噂の"スライムフレンズ"じゃねえか?友達倒して叫ぶのは違う気もするがな。スラ」
「おい」
「あ?」 話していた二人が振り替える、が顔の色が消えていく。
「すいません。殺さないでください。お詫びでもなんでもします。」
「マリーさんすいません。こいつの命だけで、勘弁してください」「はあ!お前、仲間を売っ、」
「おい!!!」 「「はい!」」
「あたしが聞きてえのは、そんな話じゃねえよ。その"スライムフレンズ"って奴について詳しく教えろ」
鬼が微笑んでいた。