スライム
スライムとは最弱の魔物である。
これは、7日間冒険者として過ごしてきてわかったことだ。
というか、魔物として一応見られているという感じ。
液状の体の中心に核があるという特徴があり、液状の体は物体を溶かす性質を持っている魔物だが、ほとんど掃除道具のような扱いを受けている。
冒険から帰ってきた冒険者は、錆にならないように返り血などをスライムで落としてから都市に入るし、宿の生ゴミの処理にもスライムが使われていた。
そんなスライムが倒せない。
スライムの攻撃は基本的にはタックルしかしてこない。
ステータス1の自分が当たってしまったときは、死ぬかと思ったけど、元の世界で小学生ぐらいの子がタックルしてこられたような感覚だった。
ステータス1の自分でこの感覚ならステータスが平均5はあるこの世界の人には、ちょっと触られたぐらいにしか感じないんだろうな。
宿屋のおばちゃんにこの話をして腕相撲で負けたときは、少し悲しかった。
◇◇◇
この7日間、もちろん何もしなかった訳じゃない。
宿に初めて泊まった次の日、まずは冒険者ギルドの薬草採取の依頼を受注して、薬草の見た目や自生している場所などの説明を受けた。
そして、スムーズに依頼を達成し、ウッズランクから昇格するための、もうひとつの依頼であるスライムの討伐依頼をその日のうちに受注し、すぐに王都の外壁のそばにいるスライムのところへ移動した。
外壁に着くと依頼を受けたウッズランクの冒険者達が多くいた。剣や拳、はたまた魔法を使って一撃でスライム倒して戻っていく。
そんな様子を傍目に薬草の採取用ナイフでスライムをつついてみる。ぷにぷにしてそのまま刺さるかと思ったけれども、刃が奥に進まない。
見た目は柔らかそうですぐにでも刺さりそうなのに、壁があるみたいに刺さらない。
これはステータスのせいなのかスライムの体質なのかわからないけど、取り敢えず攻撃を通す手段を見つけないといけない。
そこから、終わらない戦いが始まった。
まずは、採取用のナイフで攻撃が通らなかったため、別の攻撃手段を試してみることにした。
その辺に落ちていた太めの枝で思いっきり叩いてみた。
ベチャッと音がしてへこんだがすぐに戻ってしまった。
めげずにフルスイングをその日は続けたが、目立った外傷を残せないまま終わった。
次の日には、投擲を試してみることにした。
地面に落ちている石や砂を投げつける。
砂などはスライムの体内に入れることができたが、すぐに溶かされてしまった。
石に至っては体内に入れることすら出来なかった。
次の日には、今までは出来るだけウッズランクの間にはお金をかけたくないと思っていたため、行かなかった武器屋に足を運んだ。
他のウッズランクだった人たちが一撃でスライムを屠っていた、剣や槍などを選ぼうとしてみるが重すぎて持ち上げることが出来なかった。
短剣は他の冒険者が大剣を振るう速度よりも遅くはあったが振るえたため購入を考えていることを店主に伝えてみると
「兄ちゃん、悪いことは言わねえ。武器ってのは、相手を殺す道具だ。それに自分が殺されちゃわけねえよ」
と言われてしまって何も購入はできなかった。仕方なくその日は、薬草の採取依頼を受注し終わりを向かえた。
次の日には、押し潰すために雑貨屋で板を買い押し潰す作戦を建てた。
アメリカンフットボールのタッチダウンのように何度も押し潰そうとしたが、すぐに横に抜けられてしまった。
穴を掘りそこで潰そうとしたが土を溶かし核を移動させて逃げられてしまった。
ここまで来ると少し噂になってしまっていた。
スライムと戯れることが趣味なのでは?いや、あれは生態を実験しているのでは?など、最弱の魔物を誰も本気で倒せないとは思っていないので、怪しい新人冒険者が外壁で毎日変な催し物していると噂になっていた。
次の日、もう自分ができる攻撃手段がほとんどないことに焦っていながらも外壁につくと見物客が来ていた。
ランクのタグを見たところブロンズランクの冒険者パーティーだった。何でも噂が気になり、依頼に行く前に見に来たらしい。
特に面白いことは起きないことと事情を説明すると
「じゃあ、その採取用のナイフを持った状態で俺が後ろから手を添えて切ったら君にも経験値が入るんじゃないの?」
経験値とはこの世界でレベルアップするために必要な数値のことであって、これは魔物を倒した際に蓄積されてレベルごとの一定の数値を上回るとレベルが上がるという仕組みらしい。
まだ、自分が一度も倒せていないため本当にそうかは分からない。
しかし、経験値は自分が倒さなくても入るものなのだろうか。
「経験値は自分が倒してなくても入るものなんですか?」
「そうだな。自分達もパーティーで活動しているけど、パーティーメンバー全員で魔物を倒したときにも、貢献に対応してそれぞれに経験値が入る。だから、スライムを俺がで倒してもほとんど経験値にならないが、俺が後ろから手を添えればスライムフレンズが倒したという形になってレベルが上げられるかもしれない」
スライムフレンズという呼び名が気になったが
「なるほど、ぜひお願いしたいです。」
この世界に来てウッズランクの冒険者の知り合いもいないため、他の人に頼ることが出来なかったが、可能性があるなら試しておきたい。
「了解、じゃあ依頼もあるから早速やっちゃおうか」
外壁付近にいたスライムに近付き採取用のナイフを持った。
ブロンズランクの冒険者の方が後ろから手を添えてくれる。
「3、2、1で行こうか。3、2、1……」
添えられていた手から力がかかり、目の前スライムが両断された。
「どう?経験値は?」
「あ、はい。すぐ確認します。」
ステータスと唱えて経験値の欄を見ようとするがなぜかさっきから腕が熱い。何だ?
確認すると肘が逆に曲がっている。
確認して顔の血の気が引いていくのを感じた。パーティーメンバーの人も同様になっていた。
すぐに、ヒーラーの方に治してもらったが、なぜこんなことになっているのか話し合って見ると、魔物を攻撃する際にはステータス補正がかかり、ステータスの差が大き過ぎたせいで自分の腕が着いてこれなかったのではないかという事だった。
ヒーラーの方にお礼を言い、パーティーの方から猛烈な謝罪を受けたがその場をあとにした。
自分は他の人から助けを受けるためにも早くレベルを上げたいと思うが、どうすればいいだろうか。取り敢えず、思い付くことを全部やってみよう。
生き埋めにしてみたり、穴を掘りその上から石を投げてみたりしたがこれといった成果はなく終わった。
次の日、生活資金の計算をしたところ、明らかに支出が上回りこのままでは王宮の方からもらったお金を併せても1ヶ月持たないことが分かった。
早くアイアンランクになって報酬金の高い依頼を受けたいが、この日もこれといった成果はなかった。
次の日、落ちている木の枝をナイフで削って槍のようにしてスライムに刺した。すると、削った部分は体内に刺さっていた。
しかし、核に到達する前に溶かされてしまう。何度も試したが、木の棒ではこれが限界だった。
次の日には………が今か。
今日は、有効そうな手段が思い付かなかったため、薬草の採取の依頼の達成報告をギルドでしていた。
すると、クラスメイト達の噂が聞こえてきた。