冒険者登録と宿
「冒険者登録についてやり方は分かりますか?」
「こういう感じのこと初めてで、全然わからないです」
ギルドのカウンターみたいな場所に案内されて登録の手続きを行っていた。
「それではですね、こちらの用紙にお名前と住所または宿泊中の宿をお書きください」
「はい、分かりました。」
指示をされた項目に記入をしていく。
ちなみに、文字や言語には不自由がない。
これは、この世界に転移をさせた女神様が体を作り替えたらしい。目に写るのは異世界の言語だけど、自然に日本語のように読み解くことができる。喋るときも日本語を喋っているつもりでも口からはこの世界の言語が喋れるようになっていた。
逆に日本語を喋ろうとしても、それは意外と普通に喋ることができた。
名前だけど、この世界には貴族というのも居るみたいだから無難に"シンジ"にしておこう。
「すいません。宿についてのことなんですけど、今日王都に来たばかりで決められていなくてオススメな宿などはありますか?」
本当は王都には居たけど、王宮に居たことを言ってもいいのか分からなかったのでそういうことにしておいた。
「そうですね…登録したばかりの方なら少し通りを外れた場所にある"黒鳥の巣"などがオススメですね」
「ありがとうございます。この登録用紙には宿をとってから記入した方がいいですか?」
「いえ、まだ決まっていないということでしたら後日ギルドにいらした時に報告していただければ結構ですよ。亡くなられた時、報告に行くために居場所を知っておきたいというだけですので」
「あ...ああ、そうなんですね」
いきなりの話で少し驚いたけど、よくよく考えたら今自分は大分死が身近にある業界にいるんだな。
「はい、書けました」
「ありがとうございます。そうしたらですね、すぐに冒険者タグをお作りしますので少々お待ちください」
「分かりました」
待ち時間になったのでカウンターから離れて辺りを見回すと意外にも冒険者登録をしている人が多くみられた。また、新品の装備を着ている冒険者が多いなぜなんだろうか?
そんなことを考えていると名前を呼ばれた。
「はい、それではシンジさんこれが冒険者タグです」
それは、元の世界でアメリカの軍人の方がつけているドッグタグに似たようなものだった。
「これを見せれば依頼を受けられるんですか?」
「そうですね。依頼も受けられますし、町に入る場合などの身分証にもなります」
「これは木でできてるんですけど、他の方がつけている鉄などの違いは何ですか?」
「それはですね。冒険者ランクというものがありましてランクごとに異なります。まず、シンジさんと同じランクであるウッズ、次にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンとなっています。それぞれのランクごとに受けられる依頼もことなります。もちろん、上のランクに行くほど報酬金は多くなりますが、この冒険者ランクは身の丈に合わない無謀な挑戦をして亡くなる冒険者を減らすためにとられた制度です」
確かにいくら報酬金が高いからって、登録したばかりの人が受けて亡くなっていたらいつまでも達成されないし、将来有望な冒険者が減っていたら本末転倒な気もする。
「ウッズランクは依頼を達成できる能力があるかどうかの把握するために設けられたものです。ですので、薬草採取やスライム討伐など基本的には依頼を受注して達成する流れを体験するようなことをしていただければ、すぐにアイアンランクに昇格できますよ」
「なるほど…分かりました。あと、もうひとつ気になっていたんですが今から登録する人や新人のような人が多いのはどうしてですか?」
「あら、てっきりそれ目的で登録されたのだと思っていたのですが違うんですか?」
何かしら新人大会みたいな催しがあるのだろうか。
「ええと...なんでしょう?」
「ほんとに知らないみたいですね...今この時期はですね王立学園の入学時期と一致しています。そこで、新人スカウトのために大手クランが集まって来ている状況なんです。そのスカウトの目に留まろうと多くの新人冒険者さんも集まり、冒険者登録をされる方が増えているんです。これから1ヶ月はこの状態でしょうね」
そういう事情があったのか、まあでもあんまり関係ないかな。
「クラン入団の試験なども実施されますけど、申し込んではいかがですか?」
「いえ、まずは地に足つけて着実にやっていきたいと思います。じゃあ、ありがとうございました」
いつかはクランとかにも所属したりしたいけど、まずお金を稼いで生活できるようにしないとまだスキルの使い道も見つけられてないし。
「そうでしたか。クランに所属されなくても、王都周辺は魔物を騎士団の方や在中している冒険者の方が間引いてくれているので新規冒険者さんにもオススメの拠点なので安心してください」
「それはいいことを聞きました。ありがとうございます」
「はい、あなたのこれからの冒険に幸多からんことを」
こうして初めての冒険者ギルドを後にした…
あっ、そういえばあの壁がふっとんだことについて聞くの忘れてた。あの二人も居なくなってる。
でもギルドの人も気にしてないみたいだしいつものことなのかな?とあまりにも深く考えてもあまりいいことは無さそうなので考えないことにした。
◆◆◆
冒険者ギルドの一室
筋骨隆々の中年の男とギルドの受付嬢が話している。
「来たか、追放された勇者というのは」
「はい、夕方ごろに冒険者登録をされて依頼は受注されずに案内した宿に向かわれました」
「そうか、しかし王宮も酷なことを、今のこの世界で戦闘に巻き込まれない場所などどこにもない。女神様が転移させた勇者を巻き込ませないためにせめても温情のつもりだったのだろうが、右も左もわからない者にどうしろと言うのだ……宿はどこに?」
「黒鳥の巣です」
「なるほど、あいつらか、いい判断だ」
「ありがとうございます。マスター」
◆◆◆
7日後、俺は黒鳥の巣のカウンター席で朝食を食べながら頭を抱えていた。
「ス、、スライムが倒せない」
まだ、ウッズランクで燻っている。