追放と冒険者ギルド
「それでは、スキルを使用してください。お願いします」
「【シャー芯生成】」
係員の方が、何かをメモしていく。
「ありがとうございます。最初にスキルを使用していただいてから1週間が経ちましたが何か変化はありませんか?」
「特にないです」
「分かりました。では、これでスキルに関する調査は終わりました。調査結果から協議をしあなたの処遇が決まると思います。担当のものが伝えにいくと思いますので、数日お待ちください」
「分かりました。1週間ありがとうございました」
この1週間スキルについて特に変化はなくシャー芯を100本作る毎日を送っていた。
しかし、スキルの調査だけでなく王国の歴史や世界の情勢についてなどの授業みたいなもの、最低限の索敵の方法や隠れる場所についてなどの生き残るための技術を身に付けるための訓練なども行われた。
【超回復】の恩恵もあってか魔力のステータスは上昇したけど、異界の勇者として迎え入れられることはないだろうなあ。訓練のときのみんな見てると自衛隊の訓練に一般人が入り込んだ気分になるから。
幸い、このルミナ王国は他国に比べて治安もよく生活水準も高いらしいけどやっぱり一人で生きていくのは不安が残る。
でも果報は寝て待てって言うし、待つしかないね。
夕食の時間になって、あと数日ということを優太朗と話した。
「そうかあ、シンジもあと数日か。もう次期勇者って呼ばれてるの天野君は王国騎士団長から剣術の指南を受けてるって話だしみんなと別れる日も近いのかもな。シンジは王宮を出たらどうするんだ?」
「俺はとりあえずは、冒険者って言うのになろうと思う。冒険者になれるように支援されてるからなれるならなっとこうかなって、それにみんなが最前線で戦うかもしれないのに一人だけ安全圏でのんびりしてるのも忍びないしね」
話を聞いていた優太朗は少し笑って
「まあ、シンジなら異界の勇者に選ばれなくても何食わぬ顔してその場にいそうだけど」
「戦場に?それは、流石に無理でしょ。能力が高くないと戦場に行かせてすらもらえないらしいし」
「今回ばっかりはそうかもな...じゃあ、お先ごちそうさまでした」
優太朗は笑いながら去って行った。
冒険者になっても生活が難しいようならどうしようかと不安がよぎったけど考えるのをやめた。
それはその時に何とかしようとりあえず目の前のことをやってみないと始まらないからね。
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訓練を受けながら数日を過ごした。
与えられた部屋で報せを待っているとノックが鳴った。
「失礼します。黒木様、異界の勇者認定についての協議結果についてお知らせに参りました」
ついに来たかでも不思議と緊張はしていない。
結果が予想できるからかな。
「協議の結果、シンジ様は異界の勇者と認められないという結論が出たため、今からお渡しするものを持って王宮から退去していただきます」
異世界生活1週間と数日、追放を宣言される。
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雲一つない空、素晴らしい天気ですね。
この追い出された時、空の広さを知るっていうね皮肉なことだよ。
「がはは、転移してすぐ追い出されるって言うのも中々あることじゃないけど頑張れよ兄ちゃん」
門の警護をしている兵士のおじさんに背中を押された。
やけに明るい方が門番をしているんだな。もっと王宮の門番って硬いイメージがあったんだけど意外に明るいなあ。
「冒険者ギルドって大通りをまっすぐ行ったら分かるって言われたんですけどあってますか?」
話しやすそうだったので聞いてしまった。
「おう、そうだな一番大きな酒場みたいなのが見えたらそれが冒険者ギルドだ」
「あーそうなんですね。ありがとうございます。頑張ります」
手を降りながらその場を後にする。
達者でな!兄ちゃんって後ろから聞こえてきて泣きそうになったけど、大通りで泣くわけにもいかずこらえながら新しい世界に向けて歩を進めていった。
大通りを歩いていくとやっぱり王都なだけあって人が多い。そこには、異世界に来たときにみえた人たちだけでなくいろんな人種の人があるいていた。
この王国は、移民に寛容な国なのかな?
服装を見てもそれぞれの角や尻尾などの特徴にあった服を着ているし、違う種族の人を見ても誰も気にする素振りをみせない。
種族だけじゃなく、大剣を担いでいたり、全身を鎧で包んでいても誰も気にしていない。騎士の方以外には冒険者によく見られる格好って習ったけど、王都には多いのか?冒険者ギルドはもうそろ…
ドガアアアアアアアアアアアアアアンンッッッッッ
「おい、ヴァージス。てめぇのクランメンバーと飲み比べをして勝ったあたしが、何で金を払わないといけないんだ?あぁ!」
「うちのクランメンバーがもつはずだったけど、お前がうちのメンバーを飲み潰して次の依頼に行けなくなったからだろ。飲んでもいいが潰すまで飲むのはやめてくれ、マリー」
一瞬、何が起きたかわからなかったけど、大通りの建物の壁が弾けてそこから人が出てきた。
美人で勝ち気なお姉さんって感じだけど、酔ってぶちギレている人の拳が乱れ飛び、顔の半分までも鎧で包んで身長と同じぐらいある大盾を持った男性が防いでいる。その男性は自分の倍ぐらいの身長があった。
整理するために考えてみたけど、意味がわからない。
えっていうか今も酔ってるし、飲み代で殴り掛かるって怖すぎる。後から走ってきた事務員みたいな人が通行止めしてますけど何でそんなに冷静なんですか。
自分通行止めの中に入っちゃってるんですけど、目の前にいるんですけど。
「だから、あたしが飲み代も依頼の違約金も払うって?話になんねぇな!」
相変わらずぶちギレていらっしゃる。
あの方の拳が盾に当たる度に、王都の石畳が割れてるんですよね。
王宮の外に出て1日目で死ぬんですかね。怖すぎる。【冷静】発動してくれ。
そんな光景を見ていると、後ろから事務員みたいな方が声をかけてきた。
「これ以上被害を広げないで!ギルドマスターに殺されるわ! ―――――――――ごめんなさい、観光客の方ですか?すいません今から少しの間だけなんですけど、ここを通行止めにさせていただいていまして引き返していただけませんか?」
「それはもちろん大丈夫なんですけど、今冒険者ギルドって所に向かっていましてその道だけ教えてもらえませんか?」
「冒険者ギルドって、あまり見ない方ですけど登録ですか?」
あまり見ない方?
「ええそうですけど…」
「分かりました。ですが今は少し危ないので手を繋いでください」
「あぁ…はい」
事務員みたいな方と拳が乱れ飛ぶその横を通過しながら壁に空いた穴の中に入っていった。
「ようこそ冒険者ギルドへ!!」
これがはじめて冒険者ギルドに入った瞬間だった。