異世界でシャー芯を授かる
目を開けると窓から差し込む光と石造りの天井が見えた。
田舎の病院なのかなと思って周囲を見渡すと、自分の服は植物の葉を編んだ薄い布のようなもので出来ており、ベッドは木に布が敷いてあるだけだ。
病院のベッドにしては簡素だなと思った。
窓の外を見ると、羽の生えた人が飛んでいた。
大きな蜥蜴のような生き物が馬車を引っ張っている。
石畳の道路でその脇には、テレビでみたヨーロッパのような町並みが広がっていた。
「起きたか、シンジ」
振り替えると優太朗がいた。
「なんなのこれは?」
たまらず聞いた。
すると、優太朗はニヤリと笑って
「ここは異世界だよ」
「は?」
明らかに元の世界ではあり得ない光景が広がっていたが、改めてはっきりと言われてしまうと納得できない自分がいる。
「まあ、これから城の人から説明があるんじゃないかな。話が終わったら一回、一緒に話そう」
手をヒラヒラと振って部屋を出ていってしまった。
何が起きているのか分からないでいると、
鎧を着た人に声をかけられた。
「お目覚めになられましたか、異界の勇者様。お目覚めになったばかりで大変恐縮なのですが私共についてきていただけませんか?」
「え?ああ、はい大丈夫ですよ」
こんな扱いは受けたことがないので戸惑ってしまった。
ついていくと大きな扉の前に着いた。
「異界の勇者、最後の一人である黒木心治様をお連れしました」
「入りなさい」
凛としていてそれでいて力強い声がした。
扉を開けると、ティアラを付けドレスを着たスレンダーな女性と神官のような格好をした男性がいた。
「初めまして、異界の勇者様。」
「私は、この国の第二王女ラターニャです。こちらは、教会から派遣していただいた鑑定スキル持ちの神官です。」
「は、はぁ」
お、王女?膝をついたりした方がいいんだろうか?でも作法が分からない。
あたふたしていると、そんな様子を見た王女様がフフッと笑って
「そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。まだ、この世界についてのお話しすらしてないですから」
「ありがとうございます?」
気をつかってくれたのか、取り敢えず二人の前に置かれた椅子に座る。
そして、一番気になって入ることを聞いた。
「ここはどこなんですか?」
「ここは、あなたたちで言う異世界マグナードです」
「異世界?」
「そうです。死に瀕したあなたたちを運命の女神リシス様が転移させました」
わからない単語が多くてよくわからなかったけど、神様が救ってくれて異世界にいるみたいな感じかな?
「そうなんですか。まだ、あまり理解できていませんがなんとなく分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、それは何よりです」
笑顔で返してくれているがそのなかに気品を感じる。
テレビで皇后様を見たことがあるけどそれとはまた違った雰囲気だなあ。
「もうひとつだけ、気になったことがあるんですが質問してもいいですか?」
「もちろん、お好きなだけどうぞ」
「その神様に頼めばもとの世界へ帰れるんですか?」
「それは出来ません。いえ、出来たとしてもあちらの世界のあなたはほとんど死んでいるので戻ったとしてもすぐに死んでしまいます」
「そうですか…」
まさか、死後に世界があるとは思わなかったけど、やっぱり日本で今どうなってるのか気になるな。
でも、できないってはっきり分かってるなら今のところしょうがないか。
「お辛いことを伝えてしまった後で申し訳ないのですが、ここへお呼びした本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「あっ自分で聞いたのに気を使わせてしまってすいません。大丈夫です」
「この世界では生き抜いていく力として、この世界にはステータスというものが存在します。ステータスというのは、勇者様が身につけたスキルやレベルアップなどによって人間の限界を越えた力を引き出すものです」
「人間を越えた力ですか?」
「そうです」
「なぜ、そんな力が身に付いているんですか?」
「この世界には魔物という強力な生物いえ、モンスターがいます。その力に抗えず死を待つしかなかった人類にリシス様が加護をつけてくださいました。それがステータスとスキルです。ステータスは、具体的に言いますとその方の状態や世界に及ぼす影響力を示しています。スキルは、ステータスに依存または、依存しない特殊な能力のことです」
「なるほど」
起きたときゲームみたいな世界だなと思ったけど結構神様が身近な存在に感じる世界なのかな。
「異界の勇者様のステータスは一般的な成人男性の5倍から10倍ありスキルも100年に一人の確率のスキルが備わっていることが多いので、期待していただいて大丈夫ですよ」
ほんとにゲームみたいな世界なんだな面白そうだけど、他の皆は見たってことかな?
「他のクラスの人たちのステータスがそうだったってことですか?」
「そうです。'拳闘士'や'上級騎士'などのスキルあとは賢者様と同じスキル'叡知の大図書'を授かった方もいました。
特に1000年前の勇者様が遣っていたとされるスキル'聖剣召喚'を持っていた天野様はステータスの値も軒並み高い値でした」
天野君か…いつも物事の中心にいるような人だったけどこっちでも凄いんだね。
自分はそんなに高くなくてもいいから、生きていきやすいようなものがいいな。
「そんなことが。ではこれから何をするんでしょうか?」
「「ステータス」と唱えると自分の目の前にステータスが表示されます。その後、神官さんにスキルの詳細を確認していただきます。」
結構簡単にできるんだね。でも、やったことがないからちょっと恥ずかしいけど
「分かりました。じゃあ… ステータス 」
自分の目の前に薄いガラスのような板が出現した。
体力、筋力、魔力など様々な項目があり、
でもこれは…
「これは…凄いんでしょうか?」
「すいません…私もこのような値は初めて診たもので、極端ですね」
魔力の値は100でそれ以外の値は1と記されていた。
「初期魔力が100であると言うのは、賢者様でも40程でしたので人類最高値です。ですが、それ以外の筋力や体力などは、どれだけ病弱でも3は必ずあるはずです」
うーん、と考え込み眉間にシワを寄せている王女様
「それが黒木様が最後に起床なさった理由でもあるんでしょうが、もっと気になる部分があります。
深刻そうな顔をして王女様が告げた
適正魔力が無いことです。」
「適正魔力が無いとなにか不味いんでしょうか?」
「適正魔力がないと魔法師としての活躍の場はとても限られます」
「ってことはこの魔力は宝の持ち腐れってことですか?」
「いいえ、稀にスキルで使用できる場合があります。ただし、属性魔法、魔法スキルはほとんど覚えられませんし、仲間への魔力供給もすることが出来ません」
「そうですか...。それではスキル?の欄をみてもらってもよろしいでしょうか。」
「はい、魔力を使用できるスキルが宿っていることを期待しましょう」
スキルの欄に視線を進めた。
三つのスキルが記されていた。
【冷静】、【超回復】、【シャー芯】
これは、いいスキルなんだろうか?
「【冷静】、【超回復】、このスキルは診たことがあるスキルですが、最後のものは診たことがないです。神官さん鑑定をお願いします」
「はい、ではいきます……鑑定」
そこからは神官さんが鑑定結果を紙に書いてくれて渡してくれた。
「女神様からの御言葉も添えられていましたので、一緒に載せておきました」
「ありがとうございます」
冷静・・・いつでも冷静でいられる
死の直前まで冷静だったあなたにぴったりのスキルを授けました。
超回復・・・魔力を使いきるとひどい疲労感やめまいといった症状が出るが少し魔力が上昇して戻る
辛くても必ずあなたの力になるスキルを授けました。適正魔力がなくても頑張ってください。
シャー芯・・・魔力1を消費してシャー芯を1本生成できる
あなたの世界の物ですね。使い方はよくわかりませんが、生かすも殺すも貴方次第です。
ん?なんか励ましの御言葉ばかりで、一番気になるスキルの使い方は、分からない。あと、ちょっと適当な感じがするけどまあいいか。
でも、魔力を使えるスキルがあってよかったぁ。
嫌な予感がしたが何とかやっていけるかもしれない。
「黒木様、この【シャー芯】というスキルを使って頂けませんか?」