7話 交流合宿前日
主人公百合涼音ちゃんの一人称を「私」に“うち“とルビを振る形に致します。
「今日は合宿前日じゃけぇ体調整える為にお昼までじゃろ?」
「うん。あんまり行きたくないけど…」
「すずちゃんそう言う行事いい思い出無いもんねぇ。」
朝焼けが終わった太陽の光が電気の付いていない少し薄暗いリビングを照らす中、明日から2日間行われる交流合宿について母さんと話していた。
目の前の机上に置かれた朝ごはんの匂いが鼻腔を擽り(くすぐり)朝の空腹に響く。
今日の朝ごはんは梅のお茶漬けと甘めの卵焼きと昨日の残りの肉じゃがだ。
「班は友紀ちゃんと朱利ちゃんと一緒??」
「出席番号順だから一緒なんじゃけど…森井とも一緒になったけぇなんとも憂鬱。」
出来たての熱々梅茶漬けを冷まして頬張り、味を堪能した。話の内容が内容なので、苦い思い出のある人との班行動は苦しいものがある。
梅茶漬けが苦味を錯覚した舌にほんのり甘酸っぱさを与える。
「その様子じゃと班行動多めなんじゃ?」
「うん。軽く登山するんじゃけど登る時が班行動気味じゃけーなぁ。まぁ、今考えたら多少バラバラになると思うけー言うてそんな憂鬱じゃ無いかも」
どっちやねんと母さんに突っ込まれる。
『明日のこの地域の天気は晴れ。気温は15、6℃と少し風が吹くと肌寒い一日になるでしょう。カーディガンや、薄目のジャケットを用意しておくと良いですね。』
朝のニュース番組の天気予報が食事中の私たち2人の耳に届く。母さんは念入りに明日の天気を確認している。私たちが交流合宿で行く登山スポットは鳥取県にある道後山。
1日目は普通に登山をして交流を深める。
2日目は各自で班を作り道後山の何処かの景色の風景画を描いたり、配られたカメラや持参したスマートフォンで写真を撮ったりして、学校で作るレポートの情報集めをする。
所謂、ほぼ自由時間。
一応交流合宿なので楽しみながらも勉強をする形だ。
私たちの学年は3学年の中で1番少なく、約70人程度なので割と自由の効く合宿内容になっているらしい。去年の先輩達は私達の様に沢山の自由時間はなく徹底的に先生の指示に従って動いていたらしく、先生曰く「お前ら恵まれてるで」と言われるくらい縛られていたんだそうだ。
その話を聞き私は密かに手を合わせた。ご愁傷さまです先輩…。そしてなんかすみません
「何なら休んじゃう?」
「んー。それはそれでやだなぁ。だって私充分逃げたけぇそろそろ嫌なことにも向き合わにゃーいけん」
私はいつもお守りに持っている名前入りタグを眺めながら「りゅう君に言われたんじゃもん」と呟く。
「小学生の頃から言うてるすずちゃんの座右の銘じゃね」
りゅう君。私にとってはとても大きな存在。小学校の修学旅行で出会った違う学校の男の子。
その1度しか会っていないのにとても話しやすくて瞬間的に仲良くなった私の心の支え。その心地良さに当時の自分は自分自身の心の内を全て打ち明けてしまった唯一無二の存在。
小学生にしては重い話を楽しい修学旅行の最中にしたのに嫌な顔1つせず彼は最後まで話を聞き、『嫌なことから逃げる事は大切。でも苦しいけど最後に向き合うのもとっても大切な事。』と私を勇気づけるような言葉を掛けてくれた。
今考えれば初恋…だったのかもしれない。
私はそんな優しさの塊な男の子を忘れたくなかったが為、土産物屋さんで名前入りドッグタグを2人で作ってもらいお互いの名前のタグを交換しあった。そんな優しい思い出。
「あぁ~……会いたいなぁ。でも会っても忘れとるかぁ。修学旅行でたった1回しか話しとらんし。」
「案外近くにおったりしてなぁ(笑)そうじゃったらまさに、“灯台もと暗し“じゃなぁ。」
懐かしい思いに耽りながら明日からの交流合宿を割と楽しみに思い始めた朝だった。
大分遅れた投稿になりました( ̄▽ ̄;)
次からは交流合宿編です。
恐らく長いかと思われますがお付き合いくださいませm(_ _)m