6話 神出鬼没過ぎん?
廊下にはパラパラと生徒、先生達が喋っている。閑散とはしておらず常にザワザワと生活音のように心地よく耳にスッと入ってくる。
少し前まではこのザワザワさえも恐怖としか感じれなかったが今の所心に一抹の不安も無い。
いや、嘘。少しある。周りの視線が怖いのは拭えてない。
今日は友紀と朱利はそれぞれ用事があるという事で私1人学校の構造を把握する為、学校散策を黙々と行なっていた。私の教室があるのは西館で、渡り廊下を渡れば東館に繋がっている。
主に西館に移動教室で使われる教室があった。
1階に事務室、物理室、相談室、職員室。
2階にパソコン室、会議室、談話室、図書室。
3階が1年の教室、多目的室。
4階が2年生の教室、視聴覚室。
渡り廊下を渡れば東館が有り、其方には特別進学クラスの教室、食堂、保健室、進路相談室、美術室がある。
美術室を少し覗いてみると部活動を行なっていた。知らない先輩と目が合い会釈する。
びっくりしたぁ。ガン見してたのバレちゃった
そう言えば部活どうしよう。まだなんにも決めてなかったや。
しかし、この学校は部活動の強制は無いため単純に中学では出来なかったことをするかしないかで迷っていた。
「百合、ここでなんしょーるん?」
「わっ!」
誰かに声をかけられ驚いて前を向くとそこには、いつの間にか加護君が居た。無意識に歩き、渡り廊下に座り込んで居たようだ。
隣に加護君が座り込む。
と言うかこの人、前も突然現れたよね。神出鬼没過ぎん?
「えっと、校舎を見て回っとるの。加護君は?」
「加護でええよ。俺はぁ今から柔道部行くとこ。」
「か、加護はもう柔道部入ったの!?」
「そ。昨日即効入部届け出して今日から部活。百合、暇じゃったら見学来る?」
終始にこやかな顔でそう誘われた。まぁ、後は旧校舎の隣にある武道場見てないだけだから一緒に行こうかな。
「柔道全然わからんけどええの?」
ええのええのと言いながら立ち上がり手を握って私を連れ出す。
「!!えっ、あのっ…手」
手を繋がれ驚いて声を出すが、そのまま歩き出す加護を説得する程の勇気は無くされるがままに身を委ねた。
幸い、放課後の部活動時間である為殆どの部活動未所属生徒は下校し、所属生徒はそれぞれ活動をしているので外には疎らに人が居つつも遠目なので気にする必要は無かった。
だが、心は違う。中学まで別室登校していた私にとっていじめの原因となった男性との接触は先生以外にはないにも等しい。それが今この瞬間いきなりの手繋ぎで、動揺しないわけが無い。
ボソッと頬を赤く染め何かを加護が呟き笑うが、私の耳には届いていない。
*****
武道場にて
既に所属済みの先輩部員の方たちが集まり談話をしていた。柔道部という事もあり、皆一様にガタイが良く、屈強な人が多い。だが、大人な見た目に反して話していることは普通の男子高校生な話題が多い。昨日の夜焼肉したわ〜とかあの映画の女優でかくね?とか。
まぁ、何がでかいかはご察しの通り、あれだよあれ。………πだよ。出来れば聞きたくなかったよ(笑)
「主将ちわっす!!!」
加護が主将と呼ぶ一際目立っていた先輩に挨拶をする。
「おお!加護ぉ!久しぶりじゃなぁ!」
「久しぶりでも無いっすよ!先週会いましたよ(笑)」
「あー!そじゃったなぁ!wお前、高校でも柔道やるんか?」
「うっす!」と加護が返事をしたら主将は噛み締めながらしみじみと「もうここまで来たらお前も十分柔道バカよなぁ」と加護の肩をポンポンと、いやベシベシと叩いた。
「んで、そっちの子ぉは?」
「俺のクラスメイトっす!暇ってことで連れて来ました!」
「ぶはっ!はっはっ!!!おまっw暇だからって柔道部連れて来たんか!ww女の子は柔道あんま好かんじゃろうwww」
割とマジな顔で加護が私をここに連れて来た経緯を話すと主将含めその他の先輩たちが一斉に笑い出す
そ、そんな笑ってやらんでくださいや。
「まぁ、ええぞ。女の子ぉにとっちゃつまらんかもしれんけど暇んなら端で見とってええけぇ。加護に無理矢理連れてこられたんじゃったら無視して帰ってええけぇ。」
「先輩その言い草は酷いっすよちゃんと本人の意思は尊重してますゥ~」
「百合ちゃん、ゆっくりしときー」
「あ、ありがとうございます!」
人当たりの良さそうな笑顔でここに居てもいいと言うことを伝えられ、若干加護の事を貶していた気もするが、とても優しい人たちだった。
やっぱり人は見かけによらんなぁ。中身までちゃんと見にゃーいけんな。
あれ?そう言えば私、
柔道部の皆さんに名前言っとらんのに
なんで知っとるんじゃろ。