66話 件の喫茶店
「へぇ〜結構カッコイイキャラいっぱい居るんじゃね〜」
「だよねだよね」
駅中のとある一角に構えられた様々なポップが飾られ、色鮮やかに展開されているポップアップストア。
等身大キャラ看板や、幟も相まってそこ一面が他とは違う空間になっていた。
既にブースでグッズを吟味している人達の買い物かごを盗み見てみれば、今の私では手の届かない程の爆買いをしていた。
愛がすごい………
早速、目に入った所を順々に見ていれば加護も目を惹かれたキャラがいたのか、足を止めて眺めていた。
視線が向かっている場所に目をやれば、そこには作中屈指のムキムキキャラが鎮座していた。
熱心に上から下へと感心したような表情で眺め尽くしていた。
確かにこのキャラクターの筋肉描写は、なんと言うか肌に当たる光が良い感じに黒光りした艶が描かれていてかっこいい。
しかもその見た目で意外と乙女な所がある、と言うか乙女って言うか。
うん。可愛いよねその子。
そして私はお目当ての百ちゃん先輩と喜久先輩がこよなく愛する推しキャラ達のブースへと足を運ぶ。
二人は作中で登場するそれぞれの双子キャラクターが推しだそうで。
所謂、「こっちの子を買うんだったらこっちの子も揃えてあげなくちゃなんか嫌なんだよ!!」
「だから俺達は破産するんだ………」等とお二人が言うぐらいにはニコイチ的存在なんだそうだ。
そんな二人から愛されている双子キャラクターのアクリルスタンドを見つけ目を見開く。
「こ、これは何とも……!」
それは双子キャラクターと言うニコイチキャラだからこそ出来る、二人合わせるとポージング合体できちゃいますよ系アクリルスタンドだった。
これは、普段から仲の良い二人に最高のプレゼントだ。
私の財力があれば二人に双子の両方のグッズを買っていけるのだが、生憎と手持ちのお金的にも喫茶店に行くお金を残しておかなければならないので無理な買い物は出来ない。
ここは百ちゃん先輩と喜久先輩がそれぞれ好きなキャラを一つずつ買おう。
幸い今日の夕方に二人に会えるのだから丁度渡せる。ラッピングもやっているようだったのでお願いし、手元に渡ってきた紙袋を見てホクホクと達成感が湧いてきた。
「良いの買えた?」
「うん!めっちゃいいの買えた!加護ありがと!」
「ん〜?俺、朱利から教えて貰って付いて来ただけで?」
「でも今日提案してくれなきゃ私知らんかったし」
私に関しては、今日の事で緊張感がMAXまで上り詰めていた故、どんな遊びプランにするかなど全くもって考えられていない状態だったのだ。
これは加護が私が行きたいかもしれないと判断し、自らプランに組み込んでくれたものだ。
それがただただ嬉しかったのだ。
それに、少しでも加護がこのゲームに興味を持ってくれていたのも大きな収穫だ。
是非ともゲームをインストールしてあわよくば一緒にプレイしたいな〜なんて思ったりもしたが、このゲームはオープンワールド型RPGだ。
このゲーム内で喜久先輩の案内が無ければ迷子になりまくっていた私では、まるっきりの初心者となる加護を案内できる気がしない。
まぁ、これも加護がゲームをインストールすれば、の話なのだが。
「あ、後七分後に電車出るってさ」
「それは急がなくちゃ。もう一本逃したらご飯遅くなっちゃうね」
改札口まで戻ってきていた私達はスマートフォンで時刻を確認しつつ、発車時刻を見れば次の電車を逃せば三十分後となる電車の前便で行く為急ぎ足で切符を買う。
既にお昼は回っており、あまり遅くに昼食を食べれば夕方から開催される打ち上げで食べる焼肉が入らなくなってしまう。
百ちゃん先輩曰く、焼肉食べ放題プランで一部は我々負担なものの伊豆地先生の個人的な奢りなのだそうだ。
お店で食べる焼肉は私にとって久しぶりと言うのもあり普通に食べたいのだ。
伊豆地先生には無理を強いているのかもしれない。そんな事を考えながらもこんな機会を作ってくれた事にも感謝をせねばならない。
到着していた電車に乗り込めば、その数分後には定刻通り目的の駅へと向かう為緩やかな揺れとともに電車が発射した。
「お腹空いたな〜」
「うん。丁度いい時間になるかもね」
朝、一人で電車に乗って来ていた時と、ルートは同様。
違うことと言えば、隣に今日を共にしている加護が座っているという事実。
不思議と既に緊張感は空腹により薄れ、噂のメロンソーダと秋の味覚フェア限定の何かが気になっていた。
・
穏やかに去った時間から目を覚まさせるかのように電車の停止音が鳴り響く。
降りた先は遂に、加護の家から最も近い最寄り駅。
そこは私の最寄り駅と一つしか違わない所で改めて、意外と近くに住んでいたんだと思い知らされる。
例の喫茶店は加護の自宅から数分の所にあるらしく、加護自身も何回か行ったことがあるのだそう。
家から駅まで乗ってきていた自転車を加護が駐輪場から出してきた後いざ、目的の喫茶店へと向かう。
カチカチとチェーンを鳴らしながら自転車を押し、加護が歩幅を合わせて共に歩いてくれるこの情景は、いつかの帰り道を思い出させる。
「あ、ここが俺ん家」
「!」
加護がとある方向を指差し発した言葉に反応し、指さされた方向へと視線が向かう。
場所的に私の家からも自転車で行こうと思えば全然来れる近さの立地にあるのは、白と茶色のレンガが目を引く集合住宅がありふと、一つの違和感を感じる。
「そんであっちの筋の二番目を曲がった先に赤い屋根が特徴の朱利ん家があるで」
「幼馴染って家隣同士とかじゃないんだね?」
「ぶはっ!?それってもしかして漫画でよく見るベランダから部屋行き来するとかそういうやつ!?」
そう。加護には朱利と言う幼馴染が居る。
私の漠然とした幼馴染のイメージが、隣の家同士で窓越しにお話をしたり部屋に行き来出来る関係値だと思っていたのだ。
しかしよくよく考えてみればそれは物語の中でこそ出来る話だと今更ながらに思った。
何故なら、怪我をせずに家から家へと飛び移るなんて、余っ程家と家の間が狭くないと危険すぎるからだ。
それは最早違法建築だ。現実的じゃない。
実際、加護はアパート暮らしで朱利の家とは家から家へと飛び移れる距離感に無い。
百歩譲って家が隣同士だと言うのは可能性があるにしてもそんな確率は高くないだろう。よく分からない幼馴染の概念が刷り込まれていたことに少し笑いが込み上げてきた。
「んふふっwwそれ古の漫画じゃんww」
「うん。今自分で言ってて凄いおかしいって思った」
でもそうか、この近所に朱利も住んでいるのか。今度許可を貰って遊びに行ってみたいな。
そんなことを考えながら歩き、加護の自宅を過ぎ、朱利の家があるとされる団地を更に過ぎる。
大通りに面した所に出た近くに、件の喫茶店が鎮座していた。
数台の車が停められており、小さく作られた駐輪場に自転車を置き、ドアベルがつけられた木目調の扉を開ける。
カラランと軽快な音を立てて開けられた店内は、暖かな色味のウッド内装が特徴なシンプルな造り。
内装に合うように設置されたウッドテーブルやチェアが全体的な統一感を演出していた。
「いらっしゃいませ〜」
促された席へと付いて行き、着席する。
若干のソワソワ感により、座った傍から辺りをキョロキョロと見回した。
これからが本番。何が起こるのか全くもって皆目見当が付かない。
想像するに、あの時の言葉の返事だと察するものの、明確な答えはこれから起こらなければ分からない。
「取り敢えずお昼頼も〜」
「うん。何か軽く食べたいな」
立てかけられたメニュー表を取り出そうと、手を伸ばせば勢い余り手と手がぶつかる。
何番煎じなベタな展開。
自分が経験する側になれば、本当にドキドキするのだと頭の片隅で思いながらも「ごめん!」と謝りにへらっと笑う。
さっきまであった穏やかな空気はお互いの緊張感のせいで再び沈黙の気まずさが蘇ってくる。
(何かまた緊張してきた………)




