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ゆりかご  作者: 愛カ翠
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64話 お出かけ日和

 

 天気は快晴。


 少し風が吹くと肌寒く、これから冬がやってくると先触れを出されているようだった。


 最近見立ててもらって新調した衣服を身に纏い、拙いながらも教えを思い出しながら施した少しばかりのお化粧。


 初心者がやったにしてはケバくも無いし下手でも無いはず。


 アイライナーは勿論、諦めた。


 自身の長い黒髪は朝早く起きたせいで時間が有り余っていたため、三つ編みにした。


 ドキドキと高鳴る鼓動はどの感情から来ているものか。


 電車の揺れに身を委ね待ち合わせの駅までただ揺られる。


 規則正しく響き渡る電車の走行音は、高なった鼓動を落ち着かせるように只管に一定だった。


(あともう少し……)


 スマートフォンを取り出し、時間を見る。


 時刻は九時二十五分。


 後二、三分程度で待ち合わせの駅に着く。


 集合時間は十時。少しばかり早いけれどもう一本遅い電車であれば、到着時間が十時ぴったりな為、駅構内を歩いていれば若干遅れてしまう。


 時間に遅れてしまうのはあまり気分の良いものではない。少し早い方が心に余裕が出来るという物だ。


 電車の速度が段々と落ち、車窓から見える街並みを見る。


 自宅がある地元の地域より少し栄えた久しぶりに来た街は、建物の密度が違い道端を歩く人々の数も違う。


 降車のアナウンスが流れ、座っていた席から立ち上がり駅構内に降り立つ。


 改札口を通り、メッセージで決め合った待ち合わせ場所へと歩いて行くと既に誰かがスマートフォンを眺めながら立っていた。


 もしかしてと思い到着した旨を知らせる為に、スタンプを送ればそこに立っていた人の顔が上がりバチリと目が合った。


「あ!百合ぃ〜!!!」

「お、おはよう!」


 パッと顔を輝かせたその人物は今日のお相手である加護であり、名前を呼ばれた反射で控えめに手を振りながら挨拶をする。


「おはよぉ!早かったんじゃな?」

「うん、もう一個後のやつ集合時間ピッタリだったけぇこれで来た。加護こそ早かったんじゃね?」

「そ〜俺ももう一個後は十時より二分ぐらい早いだけだったけぇさ〜一本前ので来た!」


 目が覚める様な元気溌剌とした声色は、私の心を甘く擽る。


 服装も、いつも学校で見ている制服とは違う印象を持たせるカジュアルな装い。


 胸元を見遣れば、あのドッグタグがネックレスとして首から掛けられている。


 加護の私服を見るのはこれで三回目だ。


「百合のロングスカート初めて見た」

「学校じゃあ膝丈だもんね。これ友紀と朱利に見立ててもらったんだよ」

「ガチか!………めっちゃ似合っとるし、か、可愛ええよ」

「えへ、ありがとう。加護も制服の時もじゃけど私服もカッコイイね」

「いつもって事?ふはっ!ありがと」


 友紀と朱利にこの前のショッピングで見立ててもらったコーディネートをそのまま着用し、それを褒めてもらい嬉しくなった私の口元は緩み、つい本音が零れた。


 しかし茶化すこと無く真正面からその言葉を受け止めてくれた事に安堵を覚えた。


「じゃあ取り敢えずバス乗って行こか」

「うん。そうしよう」


 シャトルバスへ乗り込む為、駅前のバス停に向かう。


 丁度次の便で発車するバスが既に停車していたので乗り込み、席を探す。


 既にこの段階で殆どの席が埋まりかけており何処に行こうかと悩んでいると加護が先導し、後部座席の方へと歩いていく。


 後ろから二番目の二席が空いていたため私が窓側へ座り通路側に加護が座った。


(……………待って。よくよく考えたらバスの座席って隣同士座ったら、距離……近いな!?!?)


 出来るだけ狭さを感じさせないように隙間を開ける為、窓側へと縮こまる。


この間にも次々と人が乗り込み多くの人が乗り込んで来た。


「………やっぱり人が多いとこは苦手?」

「!?」


 隙間を開けて座れたと思えば、加護は周りに迷惑にならないよう小声で伝える為、逆に再び距離を近めてきた。


「いや、得意じゃないだけで、苦手とまでは行かない……と思う」


きっと、今の私の態度が席が埋まり立ち乗り乗車をする人が出てきた事で人口密度が増加した事により、通路側から身を引いたのかと思ったのか、心配そうな表情でこちらを見る。


 実際、中学時代の誰かしらが居るかもしれないと言う怯えが少しあるものの苦手と言えば違うかもしれない。


 それよりも、先程よりも物理的距離感が近くなってしまっていることが気になって仕方が無い。


「そっか。誘っといてなんじゃけどこれから人多いとこ行くけぇちょっと心配になっちゃった」


 加護から聞いたプランはここいらで少し大きめなアミューズメントパークに行った後再び駅に戻り、例の喫茶店へ行く手筈だ。


 幸い夕方に集まる打ち上げ会場である焼肉店もその近辺な為、丁度いい感じに短時間で帰宅できるようなルートになっている。


 確かに休日のアミューズメントパークと言えば、遊ぶとなればうってつけの場所だ。人も多いだろう。


 私の態度を見て心を砕き、気遣ってくれていると感じるのは高校生になって初めて出会ったと思っていた時よりも明らかに増えていた。


 それが嬉しくなりつい笑みが零れた。


「んふ。ありがとう。折角行くんならいっぱい楽しみたいけぇ大丈夫」

「…………じゃあ周りなんか気に出来んくなるぐらい俺の事見とけばええよ」


「…………はい!?」


 加護からの気遣いに感謝を示し、返答した言葉に返された言葉に私だけが爆裂な恥ずかしさを感じ、ついつい声が裏返ったような間抜けな声がまろび出た。


「…………いや、やっぱ無し今の忘れて……………」


 両手で顔を伏せそっぽを向いてしまった加護の耳や頬は普段の色より赤く染まっていた。


 訂正。


 全然加護も恥ずかしかったみたいで少し安心した。


 しかし、まだ始まったばかりの一日の始めでこんなになるのであれば、この後からどんなふうになるのかが想像出来ず、自然と忘れていた緊張感が再びぶり返してきた。


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