63話 《加護龍二》緊張
ボーッと天井にある壁紙の模様を見つめ、只管に考えを巡らせ続ける。
ソワソワとする心の乱れは今までで感じた事ないほどのもので、自分でもどうしたらいいのかが分からず椅子の背もたれに全てを委ねる。
ブーッブーッ
「!」
静かだった部屋に電子機器が奏でるバイブ音が鳴り響き、直ぐ様机に置いてある自らの携帯を取り画面を覗き見る。
「………朱利」
表示されていたのは朱利からの電話通知。
何となく何を言われるかを想像しつつも、素直に応答ボタンをタップし、耳へとかざす。
「もすも〜す?」
「………もしもし?」
やけにご機嫌そうな朱利の声色に、これは全てバレているのだと察し恐る恐る返答する。
「涼音から聞いたぜよ〜龍二やるじゃん!!!!」
目の前に居たらきっとニマニマとした生暖かい視線で俺を見つめうりうりと肘鉄を食らっていたことだろう。
恐らく、涼音が朱利に件の出来事を共有したのだろう。
今日の放課後、珍しく部活動が無く涼音と共にバス停まで帰ろうと思い連絡したものの、既に涼音はバス停に着いていた。
それでもバスが来るまで話していようかと思い、行ってみれば、まさかの涼音からの打ち上げの誘いを貰ったのだ。
意地らしくも、もじもじと恥ずかしそうに言葉を選んで慎重に話してくる涼音を見て堪らなく好きだと再び自覚した。
そんな涼音から決死の覚悟で提案してくれた打ち上げの参加券を早々に取りに行く為、直ぐ様伊豆地先生にいつものテンション感で言ってみたら案外上手くいったのだ。
『え、加護くん打ち上げ来てくれたら嬉しい。俺と伊豆地先生以外皆女子だし、それに勉強部の打ち上げじゃないし〜来なよ』
これも一重に偶然職員室で巡り会った喜久川先輩のお陰でもあるだろう。
「………俺張り切りすぎた?」
今更ながら今日一日中の自分の行動を振り返ってみれば、意外と強引に物事を進めていることに気がついた。
これでは、また今までの女の子のように離れていってしまうのではと言う思考回路になりかけたところに朱利が口を挟む。
「はぁ〜?龍二はそんくらいでええんよ。涼音的にも!君達絶対、龍二の表の性格無かったら進展しないでしょ」
「うっ………」
確実に図星を突かれ言葉に詰まる。
実の所、俺もこう言うのは得意では無い。
そもそもがこのオープンな性格は、過去に好きになってしまった女の子達に話しかけたくても恥ずかしくて話しかけられなかった自分が嫌だった。
それを改善するにはどうすればいいのか考え周りの男の子を観察し、クラスのムードメーカー的なおちゃらけ者を演じれば誰にでも気軽に話しかけられるようになるかもと思い実行した結果なのだ。
本当にアタックしたい人に対して向かい合う為に作り出した性格を今怖がって発揮しないとなれば本末転倒だ。
一番近くで俺の内面全てを知っている朱利もこの事情を知っているからこその、この言葉なのだろう。
すっげぇ刺さる。
「じゃあその前の事も聞いとるん?」
「えぇ、えぇ聞きましたとも!喫茶店行くんじゃろ〜??ええやーん!」
当然!と言う自慢げな声色で朱利が答える。
「他にどっか行くとか決まっとん?」
「………ん〜、いや……」
実際の所、職員室で喜久川先輩に出会いその場で打ち上げ参加の許諾を頂いたことにより、葉月先輩には喜久川先輩から伝えておくと言われ、その予定は確定しているのだ。
問題は、それまでの時間涼音と共に喫茶店以外どこに遊びに行けばいいのかが分からないのだ。
こう言う男女二人で遊びに行くというシチュエーションは朱利以外で経験した事がなく、正直な話何をどうしたらいいかが皆目見当が付かない。
朱利の場合ならば、気軽にゲームセンターなどに言って只管コインゲームやらクレーンゲームで遊び尽くすことで時間が潰れる。
しかし相手は涼音だ。
ゲームセンターで喫茶店以外の時間を過ごすのは絶対に違う。折角二人で出かけるのに涼音の声があの騒音で掻き消されるのだけは絶対に避けたい。
となれば、少し頑張って遠出でもして水族館や動物園かどこかに行った方がいいのか?
でもその場合俺たちが住む地域は少し田舎な為、街の方に行かなければ水族館は無いし、動物園は近くにあるにはあるが交通の便が悪い。
フラフラと思考が揺らぎ、曖昧な返事を返せば電話越しに朱利が一つ溜息をついた。
「どーせなんか水族館とか動物園とか考えとんちゃうん?」
「………なんで分かる?」
「分かるし。何年一緒に居ると思っとん?年中さんからの付き合いで??しかもずっと龍二の恋愛遍歴知っとるんじゃで?」
「おっしゃる通りで………」
またもや的確に刺されぐぅの音も出なくなった。
知っているも何も表の性格を確立するまでの間、過去に好きになった全ての女の子に話しかける為に朱利の力を借りていたし、その後も手伝いはしてもらわずとも何かと相談に乗ってもらっていた。
ほぼほぼその場面に共に対面しているのだ。知らない方がおかしいまである。
何て俺は情けないやつなんだ本当に。不甲斐ない。
「無理にカッコつけんでもええと思うで。それに多分じゃけど……涼音は遊ぶだけだって思っとると思うし」
「………意識はされないってこと?」
「いや、バチボコに意識はしてると思う。ただその状態でもろにドキドキスポットでも行ってみろ龍二も恥ずかしがって気まずい空間になるだろ」
拙い想像力で水族館を想像してみれば、その可能性はあり寄りのありだった。
沈黙に陥ってしまえば、いくら表の性格があったとしても素の性格がバレてもいいと思っている涼音に対してはそれは発動しないかもしれない。
「無難に行け無難に。周りに人がおる方が逆に落ち着くじゃろ」
「そうね確かに」
「じゃ、ここに行けばいいのでは?」
ポコンとメッセージに送られてきた地図情報を見て、納得する。
確かにここだと大きな駅から出ている無料シャトルバスで行き来ができる。遊ぶとなれば大変適した場所だった。
「それと〜、ちょ〜ど駅中のショップでこれやっててさ〜ここに涼音連れて行ったら喜ぶと思うよ〜?」
「ポップアップストア?」
心当たりが無く、疑問符を浮かべているとまぁまぁ良いから言う通りにしなさいよと言われ、大人しくプランに入れることにする。
「頑張りなよ〜夕方焼肉屋さんで待ってるからさ〜楽しんでな、ヘタレさん」
「………ヘタレなんは否定しないよ!ありがと!」
「あはっ!正直なんが二人がお似合いなとこなんよ!!」
嬉しそうな声色でそう告げた後、「御祝儀はいつになるかな〜」などとほざくので思いっきり赤面し叫んだ。
「まだ早いわっっ!?!?!!!」
「ふ〜〜ん?じゃあ貰いはするんだぁ〜?」
しくじった。墓穴を掘った。
「あぁ!もう!!!朱利!!!」




