62話 お誘い
「朱利ちゃん涼ちゃん、今週の土曜の夜って空いてる!?」
文化祭が終わった翌日、まだまだ余韻のせいか浮き足立った校内。
移動先の教室から帰る途中に話しかけてきたのは、百ちゃん先輩と喜久先輩。
「何かあるんですか?」
「さっきうちらね、伊豆地先生のとこ行って打ち上げしたーいって言ってみたら焼肉食べ放題だったらえーよって言質取ったの!」
「その代わり、料金の三分の一は俺ら負担じゃけど」
それは、文化祭編で頑張った百ちゃん先輩が伊豆地先生の元に行き直談判の末開催される打ち上げの誘いだった。
百ちゃん先輩からの話に食いついたのは、隣に居た朱利。
二つ返事で承諾をした朱利と比べ、私は言葉に詰まり頷くことしか出来なかった。
本音で言えば学校の友達と先輩達と一緒に打ち上げなど経験が無くとても行きたい。
だがしかし、今週の土曜日とは先日から加護に誘われ喫茶店に行こうという約束を取り付けたばかりなのだ。
流石に夜までは遊ばないと分かっているのだが、出先から打ち上げ会場まで行くのに時間配分なども考えなければならない。
そして何より加護と一緒に居られる時間を最大限まで堪能したいのだ。
一旦この件は加護に相談したいと思い、この場では承諾の返事を延期させてもらうと、百ちゃん先輩は快活そうな笑顔で「無理だったら無理でも大丈夫じゃけぇな!」と言い残しその場を去っていった。
これは少し妥協せねばならないなと思い、なにかいい案が無いかと思案しながら朱利と共に次の授業の為教室へと足を進めた。
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放課後になり、今日は全体的に部活動が無いため大勢人々が帰る中に紛れ何時ものバス停へと歩いて行く。
バスが来るまで待っている間、加護に相談しようと思い携帯を取り出しメッセージ欄を開く。
今週の土曜日に遊ぶ際、夕方から文化祭の打ち上げに誘われ少し早い時間帯に帰らなければならない旨を画面に打ち込み、文章を読み直す。
本当は一日だけ加護を独占できるのならばそうしたい。
だけど私が知らない事を体験させてくれる百ちゃん先輩、喜久先輩達と一緒に色々なこともやってみたい。
この二つの欲望が渦巻き悶々と考え込んだまま、メッセージを送れずにいると、ポコンッとメッセージ欄が一つ上へとスクロールされた。
それが加護から送られたメッセージが今この瞬間に送られてきたと理解した私は携帯の画面へと目を走らせる。
『百合は今、いつものバス停に居る??』
それは、あまりにも予想していなかったものだった。
直ぐ様返事をしようと、打ち込んでいた文字を消し再びメッセージへの返答を打ち込む。
「あはっ!百〜合!!」
「わっ!?」
この瞬間にメッセージを送ろうと画面を押そうとした時、後ろから声が掛かりピンッと背筋が伸びる。
驚き後ろを振り返れば、自らの自転車を押して歩いていた加護がにこりと笑いながら立っていた。
「加護!?」
「メッセージの返事来る前に見つけちゃった」
悪戯げに笑った加護は少し端に避け自転車を止めた。
「今日部活無かったけぇ折角じゃけぇ百合と途中まで帰りたいなぁあって思ったけどちょっと遅かったや」
「え、私と!?」
「………なんか可笑しい?」
照れくさそうに後頭部を掻きながら見つめてくる加護を見て、嬉しさが募った。
「いや、なんか新鮮じゃなって思って」
「んふ。俺いっつも放課後は部活で居残りしとるけぇ同じ部活終わりでも帰る時間違うもんな」
勉強部で活動している私は先生の都合が付かない場合もあり開催されない時もしばしばある。
そんな時は百ちゃん先輩と喜久先輩秘蔵の漫画達を少しだけ読んで解散したりしているが、他の運動部や文化部ではちゃんとした顧問が決まっている為多くの場合は時間いっぱいまで部活動をしている。
それに加え加護は自主練と称して少しばかり居残り練習をしている事が多いらしく部活動がある日は帰る時間が被ることはほとんどないのだ。
「あ〜この時間に帰るの久々じゃ〜」
グーッと背伸びをした加護をチラリと見遣れば頬に一筋の汗が滴っているのが見えた。
秋に入ったとはいえ、日差しがある昼間はそれなりの距離を歩けばまだまだ暑い。
実際今も尚日光に照らされている頭皮も若干暑かったりする。
「まだ暑いなぁ〜」
「うん。風が吹いたらちょっと涼しいけどね」
「分かる。無風じゃったら割かし暑いよな」
加護から送られてくるたわいない話を受け取り、返していく言葉の交わし合いをしている中、何時どのタイミングで打ち上げのことについて切り出そうかと脳内を働かせる。
出来るだけ無難に、でも要点が伝わるよう簡潔に。
「あ、あのさ加護!少し相談があるんじゃけど……!」
「ん?何なに」
首を傾げながら優しげな声色で問いかけ、私の言葉を静かに待つ。
「今週の土曜日の事なんじゃけどさ」
「うん」
「その日の夕方から部活の先輩達から一緒に打ち上げしない?って誘われたの」
ドキマギしながら本当にこれは言っていい言葉なのか緊張し、覚悟を決める。
「加護が良かったら、私が頑張って何とかするけぇさ、許可出たら打ち上げ一緒に行かない?」
半分やけくそになりながら、勢いのままに加護に正直にぶつける。
これは完全なる私のわがままで、しかも百ちゃん先輩達の確認もなしにこんなことを言っている。
今までの私なら今後のことを考えて不透明なことに対しては、確実にこうするというプランを自分の中で確定するまで人に話したことは無かった。
ただ百ちゃん先輩の言葉から、勉強部だけの打ち上げじゃないだろうと勝手に推察してただ私が折角の一日を加護と最後まで過ごしたいからという自己満足、自己中心的な考えで提案しただけなのだ。
帰ってくる返事が無く、やっぱり失敗したかなと半ば諦めていると、半歩加護が前へと歩み出てきた。
「え?え!?それって百合、いや涼音から誘ってくれてるってこと!?」
周りに人が居ないとこを確認した加護は苗字呼びからいきなり名前呼びにシフトチェンジし、素っ頓狂な声をあげる。
「………そ、そういうことって言うか、あのその……折角遊ぶから割と最後まで遊び尽くしたいなぁって思ったし、朱利とも会えるから一緒に行きたいなって言うかその………」
改めて名前を呼ばれたことを認識すると、気恥しさでどうにかなってしまいそうだった。
別に何も悪いことはしていないはずなのに何故か言い訳紛いな事を口走り、最早自分が何を言いたかったのかが分からなくなっていく。
「それは誰に言ったら行けるん!?」
「えっ、と伊豆地先生じゃね」
「おけ!!俺行ってくるわ」
「え!?どこに!?」
停めたばかりの自転車に手を掛けサドルへと跨り、自転車を漕ぐ体勢を取り始める加護。
怒涛な展開に付いて行けずに、思わず自転車に跨る加護の腰付近を掴み引き止める。
「ちょっ、ちょっと待って!それ、は、私がそうだったらええなぁって言うわがままじゃけぇ加護がほんまに行きたいんなら私が先生に言うよ!」
咄嗟に出た言葉に、心の中に秘めておいた、加護と一緒に居たいと言うわがままがそっくりそのまままろび出たのを理解し、体温が上がり赤面していると感じた頬を見られないように瞬間的に顔を伏せた。
恥ずかしすぎて死にそうだ。
「んへ。涼音も自分の意見言えるようになったんじゃん」
「へ?」
頭上から声が降り注ぎ、ふと顔を上げれば照れくさそうにくしゃっと笑う加護の顔があった。
「俺、そんな鈍感じゃないけぇ分かるよ」
ドキッと心臓が跳ねた。この次の言葉に何を言われるのかを理解できないほど私も鈍感では無い。
「一緒に居りたいって思ってくれとるってことじゃろ?」
「だったらそう言うのは俺が得意じゃけぇやらせてや!」
「あ、ちょっ!!」
否定する気はさらさら無かったが、そもそもする間もなく加護は学校へと続く道へと方向を変え自転車を漕ぎ出した。
追いかけようとすれば、後ろにはタイミングを見計らったかのように帰りのバスが停車しようと近づいてきていた為、それに気づいた加護から「俺に任せてはよ帰りやー!」と言われ、迷いながらも素直にバスへと乗車した。
発車した窓から外を見やれば、バス停から少し離れた場所で一時停止した加護が手を振って再び自転車を漕ぎ始めた。
(もう、こんなん………勝負せんでもええんじゃないん!??)
こんなのはもう、既に勝敗が決まっている。
私は彼に惚れているのだ。負けているのだ。仮にこの状態で勝負でもしてみろ。
好きだと零した加護と好きだと自覚している私が合わさってしまえば、きっと直ぐに私の方が羞恥に耐えられず撃沈するのが目に見えている。
そもそもがもう事故とはいえ、好きだと言われているのだから勝負などする必要は無いのではないか!?!??
「………ムリすぎ…………」




