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ゆりかご  作者: 翠カ/愛カ
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58話 線が引かれて繋がった

 

 ゼェハァと若干息を切らせていた加護は少し険しい表情をしていた。


「ちょっwwえ?どゆことカツラは??」

「……ハァ………暑いけぇ外した」


 そう言って手元に外したボブのウイッグを見せつける。


 確かに。このクラスTシャツを纏っている私ですら昼間の直射日光を受ければ少し汗ばむ陽気。


 それが女警官のかっちりとした制服に、黒タイツ、果てには慣れないボブのウィッグを被っていたのだ。


 そりゃあ暑い。


「森井ぃ………先生が呼んどったぞ………」

「え、先生が?」


 息を整えながら喋る加護は今まであまり見たことの無いような険しい表情を森井に向けながら用件を伝える。


「………あ〜…………なるほどね。そゆこと」


 何かを思い出したらしい森井は、相槌を打ちその場からスクッと立ち上がる。


 座っていたお尻を軽く叩きながら少しずつ歩き出す。


「じゃあ百合、今日はありがとね」

「え、あ、うん。こちらこそ?」



「これで、普通の幼馴染に戻れたかな」

「!」


 そうか。


 そうだった。私達は元々幼稚園からの知り合いで、他の人と比べてしまえば、昔馴染み。


 つまりは幼馴染なのか。


「…………ま、今まで通りでいいよ。それと、ありがと。加護」


「……………ん」


 後ろから聞こえる声は、静かに頷き、それを見た森井はくしゃっと笑う。


「あ、待って」


 森井がそそくさと来た道を帰ろうとするのを引き止める。


 先程加護が来たことによって途切れた話の内容が気になった私は、少し距離が離れた森井に言葉を投げ掛けた。


「さっき何て言おうとしたん??」


 純粋な疑問を解消するべく、私が投げ掛けた言葉を耳にした森井は進む足を止め、こちらへと振り返る。


 一度視線が私より遠くを見つめ、再び目が合うと今度は悪戯げに笑った。


「やっぱ内緒!」


 何かが面白そうと言いたげな明るい声色でそう言い残し、運動場の方へと歩いて行った。


『…………もしかして、百合覚えとらんの?』


 森井が言いかけた言葉が体内を反芻し、心当たりを探すも何も引っかかるものがない。


 中学の時、劇的な何かかがあったことを私が知らなかったと言っても納得は出来る。


 それ程に当時の私の精神はすり減り、周りに意識を向けれず、私自身の保身の事しか考えられていなかった。


 嫌な記憶ごと全てを忘れさせようと本能的に身体が働いていた所以か。


 中学の頃の記憶はとても曖昧で、強烈な記憶以外殆ど覚えていない。


 しかし、皮肉な物で。


 一番忘れたいと思っている記憶は当時より若干霞がかりつつあるものの、未だに鮮明に思い出せる。


(…………はぁ、情な……)


 思わずため息を吐いたものの、ふとある事を思い出す。


 森井と話していたのに今は森井が目の前に居らず、しかもその森井と会話していた内容が途切れた原因が何なのかを考えている状況。


 つまり、その原因である加護が今この場に戻って来ているという事。


『…………でもさ、百合は加護の事好きなんじゃろ?』


 言われると思っていない事を森井から言われた事も同時に思い出す。


 瞬間、この気持ちが加護にバレていないか突然不安になり顔が赤くなったり青くなったりを繰り返し始める。


 取り敢えず、この状況を打破するために何か話題を繰り出そうと、もう一度振り返る。


 すると加護は既にそこには居らず、気付けば隣に座って居た。


 ウィッグネットを被ったまま、髪が頭の形に沿ってぺたんとしている様子に妙に既視感を覚え笑みが零れる。


「…………何で笑った?」


 私と同じく体育座りをした膝に頬杖を付いていた加護が怪訝そうな表情で問いかける。


「いや………ちょっと懐かしいなって思っただけ」


 そう。決して顔が面白くて笑ったんじゃない。


 なんだか、彼を。


 修学旅行の時に出会った私より少し背が低くて、丸坊主だった男の子の事を思い出しただけで。


「………………?」


 思いを馳せながら再度加護を見やれば、これまで見た事のないような今までで一番眉根を下げ優しい表情をしていた。


 甘く蕩けそうなその瞳は見れば見る程かつての彼の面影を思い出させる。


 大きな挨拶で元気に無邪気笑っていた男の子。


 ドックタグを交換した屋台の前。


 嬉しそうにくしゃっと笑った顔を思い出せば、私の中の点と点が線を引き繋がる音がした。


 制服のスカートに手を滑り込ませ、体温より明らかに冷たいそれを握る。


 常にポケットに忍ばせていたドッグタグに指を這わせ目の前に光が満ち溢れる。


『Ryuu』


 どこからか湧き上がる歓喜のような、何とも推し量れない感情が込み上げ瞳が揺れる。


「りゅう…………君」


 咄嗟に出たその言葉に何を言っているのか己が理解した瞬間、大きく何かが息を呑む音が耳に届く。


 見つめていた目の前の瞳が大きく見開かれ、唇が震えていた。

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