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ゆりかご  作者: 翠カ/愛カ
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54話 客引き成功

 

「ん、じゃあうちらそろそろ時間じゃけぇテント戻るわ〜」

「涼音ともっと回りたかったよ〜〜」


 ポケットに入れていたスマートフォンで時間を確認した友紀が最後の一口であるチョコバナナを頬張り、朱利の片腕をホールドする。


「はいはーいお仕事待ってるから行こっか〜〜〜じゃあ涼音また後でねー」

「うん。また後でね」


 クラス屋台の店番を行う時間になった友紀は嬉しくも、この状況が終わる事を渋っている朱利を引き摺る。


「龍二ぃ〜涼音の事頼むぜぇえ………」

「任された」


 相変わらず、女警官の格好をしたまんまの加護が遠ざかって行く二人を宣伝看板の持っていない方の掌で手を振り見送る。


「………?」


 私自身のまだ食べ終わっていないチョコバナナをチラリと見た加護が何かを考えたかのような表情で見つめる。


 もぐもぐと頬張った自らのチョコバナナはバナナのほのかな甘さとミルクチョコレートのねっとりとした甘さをくるみ達の少しの塩気が絶妙にマッチしていた。


 歯ごたえもアクセントが加えられて楽しい。


 二人を見送り終えたのを確認し、少しの沈黙がこの空間に流れる。


 これはここで解散なのか、それとも続行なのか。でも先程私は加護から二人で巡りたいと言う誘いを受けたので解散ではないと思われる。


「………百合」

「ん?」


 ふと声をかけられ加護の方へと視線を移す。


 ボブのウィッグを被っている加護をまじまじと見つめると、また笑いが出そうだったので少しだけ視線を逸らす。


「俺はもう既にぎょうさん(たくさん)客引きしたよな?」

「うん、そうじゃね。結構……面白がりながらもたこ焼き買いに行ってたと思う」


 四人で回っている最中、普段加護が絶対にしないような格好で練り歩いたが故に、揶揄い半分で絡みに来た人達を見事に誘導していた。


 お陰で、この辺り一帯にはロシアンたこ焼きを持って食べている人達で溢れかえっている。


 しかも、ロシアンたこ焼きのハズレを引いた人達のお陰か、既に口直しにと他のクラスが売っているスムージーやら先程のチョコバナナの屋台が繁盛し始めている。


 これは紛うことなき加護の宣伝効果によって売られたロシアンたこ焼きの相乗効果だろう。


「て事は、もう客引きは成功って事でええよな?」


 真野君から加護へと課せられた客引き作業は本来、この時間帯にこの格好で加護が行うものではなかった。


 が、しかし。真面目な加護は殆ど強制ながらもこうしてきちんと客引きをこなし、我々のクラス屋台とオマケに他の屋台も繁盛させた。


「うん。いいと思うよ?」


 十分過ぎるほどの功績だと思ったので素直に頷くと、パッと顔を輝かせ辺りを見回す。


 先程まで女警官の格好で加護が練り歩いていた事により興味を持った多くの人達が集っていたが、多少慣れたのだろう。


 今は、各々自由に会場内を巡り始めた為、人は疎らに散っていた。


「……じゃ。もうサボってもええよな?」


 辺りの様子を伺い終え、ニヤッと笑った加護は一瞬躊躇うように揺れた腕をグッとこちらへと持ってこさせる。


「……!?」


 食べかけのチョコバナナを持っていない私の反対の腕をぎゅっと掴み何処かへと連れ出して行く。


「二人で回りたいって言ったじゃろ?」

「え、あっうん……そ、じゃね」


 この状況に衝撃を隠せず、すかさず出てきた言葉は上手く紡げ無かったものの、何も気にしてないような加護はそのまま私を連れ歩く。


 数時間前に交わされた約束を実行してくれるという実直さに胸を打たれ、私の心に嬉しさを積もらせる。


 ドキマギした心を落ち着かせるかのように加護の揺れるボブのウィッグを凝視する。


 同時に好きだと自覚した相手から腕を掴まれた嬉しさと、これを公の場で行われた事に対しての羞恥心が勝る。


 全身の血液が顔面に集まり、発火しそうな程の火照りが加護に伝わらない事を祈った。


 ***


 連れられて来たのは、屋台の展開が無くがらんとしたいつもと違う静かな校舎と校舎を繋ぐ外廊下。


 少し待っててと加護に言われ、近くにあった石段に腰掛け再びもぐもぐと残りのチョコバナナを頬張った。


 少し離れた屋台を楽しむ生徒含めたお客さん達の喧騒を遠目に聞きながらボーッと遠くを見つめる。


 火照った顔を撫でるのはそよそよと通り過ぎる秋風。心地良い涼しさは私自身と近くに生えた草花を揺らし時間をゆっくりと感じさせる。


「!」


 何かがこちらへと駆けてくる音を拾い、パッと音のした方へと顔をあげる。


 それが加護の物だと疑いもせずに顔を上げたのが悪かった。


 一気に心臓が冷えたのを感じながらも、強ばった体が動くようにと右手で軽く太ももを叩いた。


「………百合」


 嫌に耳に大きく響いた声は、あの日聞いた声より少し低くなりかつ、かの合宿で久しぶりに聞いた時と同じ声色が私の名を呼んだ。


 同じくクラスTシャツを身に纏い目の前に現れたのは、運動場から連れ出してくれた加護では無く。森井だった。



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