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ゆりかご  作者: 翠カ/愛カ
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4話 入学式④

主人公を区別する為、主人公の一人称は「私」となっております。

 

「春の訪れと共に今日から新しい生活を送る入学生の皆様……」


 春の暖かな陽気を込めた日差しが生徒たちが座る体育館全体に差し込む。


 入学式、お偉い様の、長ーい祝辞と現生徒会長の祝辞、入学生代表挨拶。


 失礼な話正直とても眠い。何なら隣に座ってるボブヘアーの子は静か~に寝てるし、その反対の緩い天パの髪を後ろで束ねてる子は睡魔と戦いながらうたた寝をしている。


 例外としては私含めさっきの後ろの席の子みたいに起きている人も居るけどほぼ皆寝てる気がする。


 あの後ろの席の子は真面目なんだな。でもたまに首がカクッてしてる。やっぱり眠いよね。かくいう私も眠いけど自分自身の長い前髪で視界をさえぎって髪と髪の間から校長先生を覗かせる謎の遊びで必死に眠気を飛ばす。




******




「すずちゃん。久しぶりの教室どーだった?」

「初めて会うのに安全ピン付けてくれた優しい子がおった(居た)。」

「ありゃ。そうなの?良かったねぇ優しい子がおって。」


 入学式が終わり式に来てくれた母と共にゆっくりと歩く。周りの入学生たちは友達と帰っている人が多い為少し目立っているようだが、私には友達はいないので仕方ない。明日から…明日から頑張ろう。


 ……ツンツンツンツン

 ………??何か肩に当たるものが…んんん?


 ありゃ?さっきの眠そうなボブヘアーの子が私の肩をつついていた。その隣には緩めの天パを後ろで束ねていた子も居る。


 改めて見ると天パを後ろで束ねている子は私より背が少しばかり低めの可愛い系のおっとりとした女の子で、ボブヘアーの子は可愛いより美人系のシャキッとした顔立ちの女の子だった。


「あ、さっきの…」

「うち、矢野友紀(やのゆき)って言うんよ」

「うちは宵朱利(よいあかり)貴方と友達になりとうて(なりたくて)着いてきたんよ~」

「えっ、友達?」


 いきなり困惑のワードが耳を通り過ぎた。驚いて固まっていると母が私の頭を撫でながら二人に挨拶をした。


「ごめんねぇ。この子初対面で話すんぶち(とても)苦手じゃけぇ許してぇな?でも、すずちゃん挨拶はせにゃーいけんよ?(しないとダメよ?)


「あ、うん。…えっと、百合涼音って言います。さっきはありがとー」

「なぁ、うちらと一緒に帰らん?」

「! ええの?」

「うん。帰りしな(帰る途中)話したいけぇ、な?」


 そう二人に誘われ母は先に帰ってもらい私は高校生活初めての友達と帰る日になった。中学の時は1年一学期までの出来事だったので久しぶりの学生感をこの身いっぱいに感じ取る。


 これが普通の学生生活か、なんか感動してきたなぁ。あれ、なんか涙出てきた気がする。これ確実に泣いてる。どうしようまた図体でかいくせに泣き虫なのかっていじめられる?入学初日に?え、ヤダヤダ止まれ私の涙ァァァァ!!!


 しかし、私の意思に反して涙は止まることを知らない。必死に我慢すればする程、嗚咽が込み上げてくる。ふと気づくと、背中に二つの手が添えられ撫でられる感覚に気づく。その手の正体は単純に矢野さんと宵さんの手だった。二人は何故か無言で私の背中を摩る。


「なんか辛いことあったんじゃろ?昔。」

「……ん。なんで…分かるん?」

「うん。何となく雰囲気と態度で分かったよ~ばり(ものすごく)警戒しょーた。」


 ……。態度に出てたんか私。そんなに分かりやすかったん??


「あそこの神社で話そーや(話しよう)。」



**



 学校近くの山に参道が設けてあり中腹辺りのこじんまりとした綺麗な神社があった。多くの木々が神社を取り囲み、まるで秘密基地のような知る人ぞ知る地元の隠しスポットのような雰囲気になっている。

 矢野さんと宵さんが私の手を取りこの町を一望できる所へあるベンチへと連れて行き私を真ん中に左右に座った。


「そぉかぁ。こぉんな可愛くてええ子を虐める野郎どもがおるん(いる)じゃなぁ」

「……可愛くないよ。図体が大きいのに泣き虫なんて…引くじゃろ」

「どして?別に引かんよ?寧ろ更に庇護欲掻き立てられたよ」


 宵さんがにっこりと口に弧を描いて笑い矢野さんがそれに「同じく」と肯定しながら頷いていた。庇護欲?私のどこにそんな要素が……


「なんかねぇ涼音は守ってあげたい思うたんよ。うちの弟ににとった(似てる)けぇ。」

「友紀はなぁ、母性もりもりの長女なんよ。」


 母性もりもり……


「……っクックック」


「あ!わろうた(笑った)~!!!」

「でかした!朱利が変な事言うけぇじゃ!」


 宵さんと矢野さんがハイタッチをすると同時に矢野さんが思いっきり私に抱きついてきた。


「初対面で馴れ馴れしい思うとるかもしれんけど、うちなぁ涼音みたいな子ぉ見とると守ってあげたくなるんよ。じゃけぇよお(よく)お節介じゃあって縁切られる事が多いけぇ、先に言っとく。こんな性格のうちじゃけど友達になってくれん??」


 木々が風で擦れ合う音の中、私の目の奥のさらに深い所を真っ直ぐに見つめ静かに。でも、確実に耳に届く声でそう言った。私は感極まって泣きながら




「…う゛ん゛どもだぢに、な゛ってほしぃ゛い゛」


 と言いながら高校生活初めての友達に豪快に泣きついた。

「落ち着いた~?」

「泣いたらスッキリするよなぁ」

「う゛ん……多分……ありがとー矢野さん宵さん」

「涼音~??うちら友達じゃーゆーたやん朱利って呼んでよ。」

「うちも友紀って呼んで?ゆっきーでもええよ?」 

「……。泣きそう」

「「え!?」」

「嬉しくで泣きそう゛……」


撫でくりなでくり……



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