19話 Help me!!!!!
しとしとと窓の外で降りしきる雨。
梅雨のじめっとした湿気に鬱陶しさを感じつつ、ずり落ちた眼鏡を指先でかけ直す。
薄暗い外に対して、蛍光灯の光で照らされた教室内。
だるさと戦いながら私は必死の形相で授業について行く。
もうすぐ高校生活初の中間試験が行われる。教科は9教科。国語、古典、数学、英語、現代社会、商業科目である簿記、情報処理、ビジネス基礎、ビジネス実務。
期末試験は更に保険教科が1つ追加される。
高校を無事に卒業するのが目標の私にとっては今後の人生に関わる第一歩だ。
「おーい…涼音~授業終わったでー」
「え…?」
「めっちゃ集中してたね〜」
前の席に座っている友紀が私の頭をポンと触り声をかけてきた。
気づけばいつの間にか授業が終わっていた。
「やっばいよ……」
「…? 何が?」
机に肘をついて私は宣言した。
「先生にマンツーマンで補習して貰う」
「ん?話噛み合ってないけど意図はわかる」
そして私は放課後伊豆地先生に補習をして貰う運びとなった。
***
「えぇ……先生分からんのんじゃけど…」
「じゃけぇ、それは右に代入したらどうなるん?」
どうしてこうなった……
なぜ隣に加護が居るのか。
でもそれは加護も補習を受けたいと願い出たから一緒にやることになったことは分かる。分かるけど……
机の距離近くないか??
いやいや、この教室で補習するのに2人離れてするのもおかしい事だと思うがこれもどうなのか?
……………ま、いっか。いい人じゃし。
「あ、加護。ここ間違えとるよ。3じゃなくて-3」
「えぇ?なんでこーなるん?」
「…………うん。分からんけどこうなる。」
意味が分からないと顔で訴える加護がこちらを見てくる。
ごめんけど私も分からない。助けて伊豆地teacher!!!!!!!!
「wwww……加護さっき教えたじゃろぉ。この場合答えが掛けて-6足して-1。-6になるには2×3。記号の掛け算は『-』が奇数個だったらそのまま。偶数だったら『+』になる。この法則使って答え出してみ?」
加護は先生に言われた通りに小声で符号を呟きながらノートに書いてある問題文とにらめっこをし始める。
かという私も加護と共に同じ事をしている。
教室につぶやく声とペンがノートに擦れる音が響く。耳の端には帰宅時間帯なので外から聞こえてくる他の生徒たちの声とチャイムの音。
あ、そういえば母さんに少し遅く帰るって連絡していなかったな…
「ちょっとプリント刷ってくるけぇ問題解いとってなぁ」
え…………………????
ちょっ、ちょちょっと待ってくださいよォ!!流石に!流石に2人きりっていうのは無理ですよ!!!!
あ、待っ、待ってぇ…………せんせぇぇええ……置いてかないでェ……
教室のドアを律儀に閉めて職員室へと颯爽と降りて行った先生。
行動には出ていないが内心焦りまくりな私。
ただひたすらに問題を解いている加護。
落ち着きを取り戻すため、1度椅子を後ろに引き天井を仰ぎ問題に取り組み直す事にした。
(……く、苦しすぎるっ)
誰だよ。この状況作って、いい人だから「ま、いっか」ってほっといた奴……いや、自分なんだけど泣きたい………(涙)
問題と状況の二重の苦しみを抱えペンを走らせる。
「で、き、たぁ~」
「! 加護出来たの?すご…」
問題を解き終わった加護が1つ大きな伸びをしてこっちを覗き込む。
「…………。」
凄く見られている気がする。どっちを見ている?ノート?ノートだよね?私なんか見ても可愛くないから絶対そうだ。
「字綺麗じゃねぇ。………俺好きじゃわ!」
「え、私そんなん言われた事ない…」
「俺より綺麗じゃけぇ、ええねぇ」
天然タラシかな?
そういえば、朱利言ってた。加護は残念イケメンだって。何が残念なのかは知らないけど顔だけは良いって褒めながら貶してたような…
男の子に褒められたことの無い私の顔はきっとおかしな表情をしていたのだろう。加護は「顔歪ん…ん?歪み?なんだぁ?その表情は……」と戸惑いを隠しきれない。
「!」
「………耳真っ赤ぁ。暑い?」
さり気なく。本当にさり気なく違和感も無く加護は私の熱々な耳を触る。
「あ、暑く、ないよ…??」
「何で疑問形なんw」
笑いを含みながら加護は私の耳を冷やす。えっ、?何が起こっているのかって?????私にも理解できない!!!!!!!
Help me!!!!!伊豆地teacher!!!!!!
「………俺も暑くなって来たけぇ窓開けよかぁ」
加護は席を立ちすぐ近くの窓を開けに行く。た、助かった……これ以上はオーバーヒートする……
と言うか、本当に。何なのだろうこの人は。
初対面で元気よく挨拶してくるし、普通に声もかけてくれる。
オマケに今のこの状況と何時ぞやの手繋ぎ。もしかして朱利が言ってた残念なイケメン要素って距離感バグってるという意味???
「お待たせぇ。2人とも解けたか?」
ガラガラっと教室のドアが開きプリントを刷りに行っていた伊豆地先生が戻って来た。
あぁ、先生の安心感半端なく凄い………
「じゃあ2人共、もう一息踏ん張ろうか」
「はーい!」「(色んな意味で)頑張ります。」




