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It’s my life  作者: やまと
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叫びを聴け


対宙砲の直撃を食らった艦隊は、統率をとる余地もなく、ただ崩壊していくばかりだった。

瓦礫と化していく艇から、クルーたちが命からがら脱出していく。

主艦は四つに分裂し、それぞれの判断で護衛艦の救援に向かっていた。

最後に残された、いや、捨てられた主艦の中で、指揮官のデイビットとノアの追いかけっこが続いている。

機関室から天井の隙間を縫ってダクトの中を逃走するノアを追って、排気管へと潜り込もうとするデイビットを引き留めたのは、脱出したはずのクルーたちだった。

まだ残っていたクルーのひらめきにより、クルーリストと艦内のボット信号を照合して、該当しないボットが敵だとマーキングする。

マークを追ってデイビットは船の中を走りぬける。

一番の被害を受けていた中央艦は、あらゆるアラームが鳴り続け、人々が慌ただしく逃げ回っていた。

「司令!」

「なにしてる、さっさと脱出しろ」

すれ違う部下たちに冷たく言い放つ。

彼らが去った直後、デイビットは埋め込み式の破壊用斧を取り出すと、おもむろに壁を殴りつけた。

配管を突き抜けた斧を引き抜くと、できた隙間から空洞の中が、いや、空洞の中を素早く移動する侵入者が見えた。

「クソ野郎が!」

かたかたと這い上がる音を追いかけるように斧を振り回す。

天井を通り過ぎた音は、少しずつ遠ざかって行った。

壁の向こうへ消える音の気配に舌打ちして、回り道を探す。

すでに分離できる合体機のほとんどは離脱し、周辺を旋回する小型機が逃げ遅れた者や逃げられない者の手助けをしている状態だ。

残るのは紛れ込んだネズミと、それを狩る自分だけ。

「ボス!」

「なんだ!」

悲鳴のような通信に怒鳴り声を返す。

苛ついているのも事実だが、雑音が酷くて聞き取りづらい。

「地上にエネルギー反応…っ」

またか。

一発でも惑星が崩壊するような反動を持つ対宙砲を、すでに立て続けに五発打ち込まれている。

星に何らかのエネルギー源があるとして、その反動を完全にとはいかずとも、連射が可能なほどまでに抑えられているとは。

なんてものを開発したんだ。

デイビットは苦虫をかみつぶす。

「全機撤退。互いに距離を取れ」

密集して、共倒れが一番まずい。

それぞれの船の操縦者も同じ考えだったのだろう。すでに船同士の距離は充分なほど離れている。

間を飛び回って救助を続ける小型艇には、黙殺された。

「作戦を放棄。家を守れ」

地上の制圧を任されたのは、十代から二十代の子供たちだった。

スパイとして潜り込んでいたケリーの報告により、謎の原生生物によって弱体したコミュニティを制圧するには充分な数だった。

宇宙に残ったのは、後から増援に来る本隊を叩くためのベテラン戦闘員ばかり。

それが、地上からの攻撃に手も足も出ずにいる。

これ以上、命を浪費するわけにはいかない。

最低でも、増援相手に闘争戦ができる程度には体制を整えなければ。

思考を回しながらも、大股で廊下だった場所を進む。

崩壊が進む艦内はすでに重力も気流も不安定だった。

アラームが鳴って、着用していたボットが肌に張り付くようにきゅっと締まる。

画面に表示される酸素濃度。

宇宙空間でも活動できるように切り替わったボットに、いよいよ艦の限界を感じた。

脱出までリミットは近い。

それまでに、何としてでも、地上部隊にこちらの位置を知らせるネズミを潰さなければならない。

斧を握りしめたデイビットは、ぐっとディスプレイに表示されるマーカーを睨みつけた。



揺れる艦内、重力が消えた廊下を滑るようにリヒトとザックは彷徨っていた。

敵に位置がばれて追われていると報告してきたノアを無理に説得して、敵の位置と自分の位置情報を送信させたところまではよかったのだが、崩壊した宇宙船の中では、どこをどう通ればノアの元へたどり着けるのかわからない。

外壁を伝おうとすれば、外で救助活動にいそしむ小型機に連れられて行ってしまうだろう。

「そもそも、合流してどうする」

ふと、思いついた疑問を口にしてみて改めてザックは、困ったように首を傾げた。

ノアをしつこく追い回す追跡者を撃退しようにも、今のザックたちに武器はない。

「作戦変更だ。別の場所で合流しよう。俺とリヒトで脱出艇を探すぞ」

通信はノアにも伝わっているはずだ。

よっぽど逃げるのに必死なのか、合成音声通信ではなく、テキストで了解が返った。

艦はあちこちボロボロで、連鎖崩壊を始めている。

いつばらばらになってもおかしくない中で、しつこくノアを追いつめている追跡者の存在に、呆れを通り越して尊敬すら感じた。

「なにかおかしい」

リヒトの呟きに、ザックは足を止める。

「なんだって?」

「僕たちは何と戦ってるの?」

「なにって、アウトサイダーズ…」

「じゃあ、彼らは?」

「俺たち…じゃねぇな…」

リヒトの問いかけに、漸くザックも違和感に気づく。

今、地上からこの艦に攻撃しているのは、バートレットではない。

まして、地上に残った作業員たちでもないだろう。

「でもだからって、あいつらは元々俺たちを潰しに来てるんだ」

敵の敵が味方になるとは限らない。

「わかってる。けど…、僕たちの敵は、一つじゃない」

その言葉の正しい意味を、ザックはリヒトの背後、壁に大きく開いた亀裂から覗く、青く輝く星と、迫りくる黒い影で思い知る。



「地上から謎の飛行物体!」

オペレーターからの報告に、一瞬、デイビットは思考を止める。

エネルギー砲にかかるコストを鑑みれば、あれだけ連発したのちに、実弾ないしは飛行隊での追撃は予想の範囲内だ。

だが、謎の飛行物体とは。

いずれにせよ、とる行動は同じだが。

「回避!」

「揺れるぞっ」

各々、公開無線で周囲に報告する声がデイビットにも届く。

すでに崩壊が始まった艦に回避できるはずもなく、まもなく、デイビットにも砲撃による衝撃が伝わった。

しかし、衝撃は、それだけでは終わらなかった。

「なんだこいつは!」

「撃て、撃てぇ!」

無線から届く声が阿鼻叫喚、悲鳴へと変わっていく。

飛来物の正体に気が付いたデイビットの前に、答え合わせのように本物が姿を現す。

壁を削り取るようにして侵入してくる塊。

紐状の生物が寄り集まってできた糸くず、と呼ぶには大きすぎるそれ。

報告にもあった、原生生物、ワームなのだと理解するより早く、ほどけた触手の一本が襲い掛かって来た。



「射出、だと?」

電子空間。

ワームと繋がった状態にあるバートレットは、初代ノアを通じてそれを感じ取った。

「我々の開発した積荷射出装置の技術がトレースされています」

「器用なことで」

「援護しますか?」

「できるのか?」

「時間がかかりますが」

バートレットは行く手を阻んでいたバグの一匹を踏み潰す。

今まで一本道だった通路に、分岐点が現れる。

「推定は?」

「こちらです」

声に出さずに尋ねると、脳に直接数字が返ってきた。

バートレットの目的は、ワームの親玉ともいえる核部分を制圧し、完全に無力化することだ。

だがそれも、元をたどれば、仲間を、部下を、守るべき者たちを守るための作戦である。

「迷っている時間が惜しいな」

言ったバートレットの足は、迷わず分岐先を選んでいた。



地上、森。

各地に散らばっていた作業員たちは、バートレット隊の隊員たちによって順調に旧拠点の方へと集められていた。

リヒト達が視察に訪れた際、何故か電源が入り射出台へとセッティングされたシャトルへ、集められた人々が飲み込まれていく。

「落ち着いて、席ならある」

本来ならば腹の部分を下にして、乗客の搭乗を済ませてから行われる射出準備のため、座席は地面に対して垂直に、人は地面と平行して上を見上げるように座らなければならない状態だった。

床のタラップになっている部分を伝い、作業員たちは、上へ、上へと目指す。

傍らでは、登り切る体力のない者を、つるべ落とし方式で運んでいた。

「あとどれくらい?」

成人二人分の重さを持ち上げるために、全身に砂袋を縛り付けられたナイルがへとへとな様子で尋ねる。

「これで最後だ」

後ろから声をあげたのはディルクだった。

後ろからは疲れ切った顔の作業員たちがついてくる。

「ジャックが最後のコンテナを運送している」

ロープをしっかりと握り、重りをつけたまま壁を駆けあがるナイルと交代で、上に作業員を運んでいたカルロが地上へと降り立つ。

ディルクの背後に作業員たちしかいないことに気づくと、何も言わずに視線だけを寄越す。

苦痛の滲むその表情に、全てを察して、ナイルは小さく、そうか、と漏らしただけだった。

「さ、上がって。席はあるから」

追加された作業員たちをシャトルへ案内していると、遠くからローター音が聞こえてくる。

「荷物だ」

森の奥から姿を見せたヘリに吊り下げられた居住区。

荒々しく着陸させられたそれに駆け寄り入り口のハッチを開けると、吐き出されるように人が飛び出してきた。

「うぉえ…」

「ちょっと、しっかりしなよ」

どうやら快適な空の旅とはいかなかったようだ。

先頭に飛び出してきたジョナスはけれど、後から飛び出してきたキルカやほかの作業員たちに追い越され、集団の最後尾をよれよれとついていく。

ジャックが運んでいたのはアウトサイダーズがとらえた生態調査班のコンテナだった。

ボット操縦者だけを引き抜いたあと、残った彼らを居住区に監禁した彼らは、間もなくワームの餌食となった。

取り残され、出ることもできずそのまま死ぬのを待つだけだった彼らを、もれなく回収し終わったところだ。

「これで全部か?」

「さぁな」

手は尽くした。

全員を助けると誓っている彼らだったが、本当のところ、取り残されている作業員が居ないと言い切れないもどかしさを抱えている。

ヘリを停めたジャックが合流し、タラップを駆けあがっていく。

運転は、彼の仕事だ。

作業員が全員席に着き、後は自分たちだけ、という段階で、問題は起きる。

「そこのやつら、出てこい!」

ディルクの声はボットの拡声器を伝って森をざわめかせた。

早くしろ、と追い立て、さらに銃を突きつければ、両手を上げたアウトサイダーズの生き残りが茂みの中から転がり出てきた。

やつらの特性に気づいたのか、ボットを脱ぎ捨てアンダーウェアの姿で森を駆け回った姿はボロボロだった。

「こっちにこい」

「俺たちは何もしない!」

「殺さないでくれっ」

不穏分子を残しておけば、発射を邪魔されかねない。

何より、彼らは直前まで作業員たちを殺して回っていた殺戮者たちだ。

「いいから来い!」

怒鳴りつけられて、一番小柄な青年は、とうとう涙を流してすすり泣きだした。

「しょうがない。覚悟の上だったろ」

行こう。

中でも一番年嵩なのか、どこか達観した様子の青年が、絶望に沈んだ表情の仲間たちを、処刑台へと促した。

「立派なもんだ」

「そう思うなら、俺に免じてこいつらは逃がしてくれないか?」

「言うね」

青年の言葉に、仲間たちは信じられないという様子で彼の名を口々に呼ぶ。

「いいえ、私を…」

「いや、俺が」

次々に犠牲者に立候補する勇敢で愚かな少年少女に、見守っていたナイル達から思わずと言った笑みが零れる。

「はいはい、わかったからとっとと乗れ。本当に置いて行っちまうぞ」

行った、行った、と背中を小突かれ、青年たちは目を丸くしながらも、何とか足を動かして、シャトルの搭乗口へと進む。

本当なら、ディルクたちが乗るはずだった席に、次々と青年たちを押し込んでいく。

だが、最後に問題が起きた。

席が、二つ足りない。

「私が残る」

「いいや、俺が」

最初に犠牲者に立候補した、おそらく年長なのだろう二人が言い争うところへ、ワイヤーを伝ったジャックが降りてくる。

「君たちは特等席だ。シャトルの操縦経験は?」

真顔で、ジョークを吐く氷のような表情の軍人に、言葉を失くした青年たちの代わりに客席から野次が飛ぶ。

「敵に操縦させるつもりか?!」

「ふざけるなっ」

「みんな殺されちまうっ」

ざわざわと唸る客席の声に、青年たちに諦めの色が滲んだ。

席に押し込められた先の少年たちも、皆、一様に表情暗く俯く。

「そいつらに操縦させるくらいならアタシが行くよ」

言って、席から飛び出したのはキルカ。

ノアに悪態をつき、リヒトをかわいがり、ルーカスの特殊な改造簡易スーツをメンテナンスしていた敏腕のエンジニアは、隣で最初に悪態をついたジョナスに「アンタも降りるんだよ」とつっかかる。

「ガキンチョ残して自分だけ助かろうなんて、腐った育ち方してないからね」

キルカの言葉に、船内がシンと静まり返った。

戸惑う青年と少女に、キルカは

「アンタらもそうだろ?」

と、静かに微笑んだ。

「悪いが急いでくれ。ここもいつまでもつかわからん」

ディルクに応えるように、地響きがして地面が揺れた。

作業員たちを乗せている時からずっと続いていたそれは、だんだんと感覚が狭くなっている気もする。

なんで俺が、と渋るジョナスが先に上へと運搬される。

落ちる速さで引き揚げられたジョナスの汚い悲鳴が船内にとどろいた。

「あんたらは?」

一応、とばかりに尋ねるキルカに、軍人たちは質問の意味が分からないとばかりのとぼけた笑みを返すだけだった。

「ったく、だから軍人は嫌いなんだ」

あばよ、と言い残して、キルカはジャックに抱えられるようにしてシャトルの先端、操縦室へと引き上げられる。

「ほとんどは自動操縦だ。細かい旋回や方向転換はできないものと思ってくれ。信号を拾ってこのボタンを…」

操作方法を一通り説明したジャックは、来た時と同じくなんの表情も見せないまま降りていった。

「なんで俺が、なんで俺がぁ」

「いい加減、腹くくりな!」

「ひぃ…」

ピット内に、ドアが閉められ、発射準備が整った合図が鳴る。

言われたとおりの手順でボタンを押し、バーを操作すると、やがて船全体が甲高い音を上げ始めた。

「さぁて、持ちこたえられるかな」

シャトルの外では、ボットに身を包んだディルクたちと、再びヘリに戻ったジャックが周囲を旋回している。

「弾は?」

「まぁまぁ。でもたぶん、こっちの方が役に立つ」

言って、各々装備の確認も万全だ。

シャトルのいいところは大容量の定員数と箱の頑丈さ。

逆にダメなところは、発射までにかかる時間の長さと、腹ペコや大食いのあだ名がつくほどのエネルギー使用量。

発射までの段階を二段階残した状態で、ボットのセンサーが泣きそうなエラー音を響かせる。

聞きなれたそれは、既定のエネルギー量を超えた合図。

つまり、やつらがやってくる。

「来るぞっ」

地面から噴き出すように、やつらは来た。

今にも飛び立とうとするシャトルに襲い掛かるワームを、ディルクのブレードが薙ぎ払う。

「こんなんばっかだな!」

「最高の人生だ!」

絶望的な状況でしかし、彼らの声は弾んでいた。



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