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It’s my life  作者: やまと
39/61

選択する死

鳴りやまぬ警告音が脳漿を揺らす。

強制的にボットとの接続が切られ、操作酔いで吐き気がした。

折り重なる死体に押しつぶされて身動きが取れない。

コントロールを失い、鉄の塊になってしまったボットの腕を、渾身の力で動かせば、わずかに背中に隙間が生まれる。

緊急離脱装置がようやく息を吹き返して、危険な体内から人間を吐き出す。

蒸し風呂の様な地獄から生まれ落ちた先は、もう一つの地獄だった。

外気温は五十度を超えている。人間が活動できる環境ではない。

息を吸うたび熱と有毒ガスが喉を焼いた。

わずかな隙間からようやく這い出たとして、眼前に広がるのはやはり地獄だった。

燃える大地に折り重なるボットの群れ。

噴き出す溶岩に焼かれる人工物。

上空を、やつらの艇が悠々と通り過ぎていく。

「これ、が…」

こんなものが。

最後まで戦った者だけが得る崇高な最後。

尊い犠牲。気高い死。勇気ある選択。価値のある最後。

どれを望んでいたのかもう、ニックにはわからない。

たどり着いたこの場所が、自分の望んでいた最後だというのか。

その答えを得ることなく、彼は絶命していた。

火山地帯の熱は、死体をゆっくりと炭化させていく。

有機物は徐々に溶け、無機物だけが取り残されていった。

火山の中腹。採掘班が最後の砦に選んだその場所は、かき集めた耐熱素材を組み合わせて作られた人の住める空間を実現させていた。

眠るのに苦労しない場所。安全性が何とか保たれたはずの改良居住区の横腹に、風穴があく。

途端、熱風が室内に吹き込み、嵐の様な風が渦巻いた。

灼熱をものともしない武装を纏った集団が、機械的な動きで中へ突入していく。

予想していたような待ち伏せはなく、空っぽの部屋を次々と制圧していった。

迫りくる支配者の足音を聞きながら、キーラは恐怖に震えていた。

託されたのは、自爆用の爆弾を起爆させるスイッチ一つ。

失敗してもいい任務だ、と採掘班もとい反抗勢力を取りまとめるリーダーとなったニックは言った。

投降するのも自由だ、と彼は最後の演説で高らかに言い放った。

この戦いに大義はなく、理由もなく、おそらく後世には名前も残らぬ無駄な戦いであることを宣言していた。

だが、と彼は続ける。

「諸君らはここに来ることを選んだ。戦うことを選んだ。勇気ある選択だ。たとえ名も残らぬ無駄な戦いであったとしても、これだけは言える。我々は自由だ」

歓声、熱狂。きっと誰もが狂っていた。

気づけばキーラの頬は引きつるように笑みを形作っている。

熱狂に乗り切れず、暗い感情を引きずったままのキーラに、ニックは起爆装置を託した。

元々、キーラが戦闘に向いていない性格だと、どこかで見抜いていたのかもしれない。

それほどまでにキーラの瞳は暗く、絶望していて、戦意など一切感じない瞳だったのは確かだ。

誰もが侵略者に一泡吹かせてやろうとぎらぎらと瞳を燃やしている中で、キーラは、キーラだけは、ただここで確実に死を迎えるためだけに存在していた。

「本当は皆お前みたいな気持ちになるのが普通なんだろうな」

起爆装置の説明を一通り終えたニックがポツリとそうつぶやく。

「戦って死ぬだとか、名誉ある死だとか、本当はそんなもの無くて、死んだらそこまで、俺たちは灰になって風に舞うだけかもしれない。けどな」

ぐっとかがみこんでキーラの瞳をのぞき込むニックの目は、熱を帯びたままきらきらと、まるで宝石の様だった。

「どう死ぬか俺たちは選んだ。最後まで自由だった。それだけは変わらない。お前は、どうだ?」

煌めく瞳があんまりにきれいで、キーラはぽかんと口を開ける。

あんな風に決意に満ちた顔を、今までどれだけ見てきたろうか。

キーラ、と己の名を呼ぶアレックスの声を思い出す。

けれどその瞳はいつもどこか俯いて暗くて、眩しそうに誰かを見ていた。

「そ、か…」

託された装置を改めて握りなおす。

彼が見つめていた輝くもの。それは、同じユニットの中で落ちこぼれと乏されながらも、決して屈することのなかった唯一の人。

皆、彼に憧れていた。彼のようになりたかった。なれないと気づいて、目を伏せていった。

爆風と共に武装兵がなだれ込んでくる。

最奥のこの場所に、彼らがたどり着いたことが合図だ。

先頭の男によく見えるように、起爆装置を掲げて見せた。

男は瞬時に状況を察して、というよりこの状況を予想して、準備していたEMPのスイッチに指を伸ばす。

二人はほぼ同時にスイッチを押した。

辛うじて、武装勢力の方が早かったのか、キーラの起爆スイッチは作動せず、先頭の男の背後から表れたもう一人に、脳天を撃ち抜かれる。

EMPの半径一キロメートルのあらゆる電子機器が電源を落とした。

この事態を予想していた武装兵士たちのボットは当然対抗策が施されている。

けれど、準備を重ねてきたニック達の施設は違う。

電源が落ちると同時に、電磁石で浮いていた重りが落下した。

重りに繋がっていた起爆装置の糸がピンと張り、全てを同時に作動させる。

起爆剤として使用されたのは、この星で採れる硫黄から精製した黒色火薬。

わざと不安定な状態で放置した可燃物質へと次々と延焼して、爆発は徐々に大きくなっていく。

膨らんだ爆発が最後にたどり着くのは、威力を何百倍にも増幅する物質。

状況に気づいて、逃げる暇など彼らにはなかった。

カっと強くあたりが光って、爆音と共に巨大なエネルギーが地面を吹き飛ばし上空へと吹きあがる。

巻きあがった風に飛行機体はコントロールを失い次々と地面へたたきつけられた。

施設を乗っ取るために送り込まれた武装兵士のほとんどは、その場で全て蒸発する。

静かになった戦場をうごめいていた残りの者たちのほとんどは空中へ投げ出され、残りの何割かは、ひび割れた地面の奈落へ引きずり込まれた。

そして、最後には、奈落となった亀裂から噴き出した溶岩が、死体も生き残りも、まとめて炎の海へと飲み込んでいった。



強い揺れに、生態調査班の施設に居た者達は必死に床に這いつくばるか、壁に縋りつくしかなかった。

揺れが収まると、だれからともなく、すすり泣く声が聞こえる。

爆音や爆炎は見えずとも、火山帯に陣を構えた彼らが自決したのだと、皆理解していた。

「よくやるものだ」

ぽつりと零された呟きに、感情はない。

一拍置いて、一同を取り巻く武装集団の中から、あっ、うっ、と小さく呻く声が聞こえた。

「上と通信が切れたか。飛べなくなる前に移動しよう。どこまでいったかな」

女がゆっくりとあたりを見回す。

「まずはボット操縦者を選別させてもらう。操縦者にはチョーカーを、全員にタグをつける。隠して後からバレた方が、面倒だぞ」

凛とした声に反応して、隊列から数名が飛び出し、装備の中からチョーカーと腕に装着するタイプのタグを取り出した。

銃口に追い立てられ、床に伏せていた作業員たちは、再び整列させられる。

腕を前に突き出せ、と命令され、おとなしくそれに従った。

手際よく全員の手首にタグがはめられ、ボット操縦者だけが選別されると、列の中から連れ出された。

「これだけか」

抜き出されたのはザックとリヒト、そしてラスカ。それと、見慣れぬ小柄な男だけ。

じっくりと顔を眺められながら、首に特殊なベルトをはめられる。

肌にぴったりと張り付く、ゴムとも皮ともつかない素材のそれは、首の裏に埋められたチップとボットの接続を制限するもので、手錠の様な役目がある。

自由を奪うためによく用いられるものだ。

「さて、ボット操縦者ということは君たちはそれなりに上の立場に居たと思う。特に…」

「ボス!こいつ、軍人です!」

言葉を遮るようにして、突き飛ばされたのはザックだった。

後頭部には短銃が突きつけられている。

隣に居たリヒトは突き飛ばされ、よろよろと列から外れた。

ふり返ってザックと目が合う。

突然のことに驚くリヒトとは違い、ひどく冷静な顔だった。

ぐいぐいと銃口を押し付けられて、迷惑そうな顔をしながら両手を上げている。

「誤解だ。一時的に権限を預けられているだけですヨ」

「右に同―じ」

「同じく」

隣に並んでいたラスカと、もう一人の操縦者も続く。

「えっ」

リヒトは思わず声をあげた。

武装集団から、気の毒な視線が注がれる。スモークの入ったヘルメットでは、目は見えなかったが、確実にそう感じた。

「なるほど。ちょうどよかったじゃないか」

なぁ、とボスが呼びかけると、銃を突き付けていた男は、あっ、と声をあげて放り出しかけていた端末を持ち直す。

よく見れば、先ほどエレベーターをハッキング仕様としていた技術者だった。

連れていかれたザックが端末に手をかざすとあっという間にハッキングが終わる。

「システム掌握完了。分離します」

施設のあちこちで、機械音がした。

結合されていた居住区や、施設の結合部が、解除される音だ。

「協力に感謝する。さあ、天気が崩れる前に移動しようじゃないか」

促されて、一行は外へ出た。

ゲートが開いたとたん、空気が変わったことをありありと感じる。

「う…っ」

ザックが呻き、ラスカとリヒトは咽る。

遠くの森がオレンジ色に染まっているのが見えた。

「人体に影響を及ぼさないぎりぎりだ。急いだほうがいいぞ」

先ほどの技術者が警告する後ろで、施設が区画ごとに次々と飛行機体に吊り上げられ、運び出されていく。

「立派な施設だ。置いていくのが残念だよ」

輸送機に押し込まれながら、そんな呟きを聞いた。

ツインローターの輸送機は、ハッチが閉まったとしても、機械音で会話すらできないほど騒々しかった。

武装集団たちは、無線で何か話しているのか、時折顔を合わせて肩を揺らしている。

どこへ向かっているのだろうか。

身をよじって窓の外を覗いてみたが、煙を上げる森が見えるだけだった。

脳裏に思い描く地図は、どこもかしこも森。

目印となる起伏や川など頭に入っておらず、結局自分がどこに向かっているのかは検討もつかなかった。

機内に視線を戻せば、隣に座るザックと目が合う。

心配そうだ。つまり、いつもの顔だ。

向かい側には、休息を決めて目を閉じるラスカと、見慣れぬ青年。

いや、本当はしっかり見たことのある顔だった。

髪の色を何かの薬液で変え、長さも代わっていたが、彼は間違いなくルーカスである。

小柄な青年にふさわしく、怯えた様子で膝を抱え、顔をうずめているのが気味の悪いくらい似合っていなかった。

できるだけそちらを見ないように視線を落としながら、リヒトは思考にふける。

襲撃者たちは、予想以上の戦力をそろえてきたようだった。

装備の種類からしても、相当いいものでそろえている。

リヒト達の装備も、悪いものではなかった。エネルギー不足とワームの襲撃があったとはいえ、探索の結果回収した当初の装備を含めれば、アウトサイダーズ相手に数週間は保つ計算で食料も送っていた。

しかし、結果は数日と経たず壊滅。最終手段まで至ってしまった。

リヒト達にとっては、悪い意味で予想以上の結果が出ている。

統率力から見るに、いわゆる軍人はぐれの超大型集団。アウトサイダーズの中でも、軍人相手でも戦える、武闘派の集団に当たってしまったようだ。

採掘班がどれだけ巻き込めたかわからないが、彼らにとっては痛手にはならないだろう。

大きな揺れに対しても、動揺は見られなかった。

森を焼いているところを見ても、資源に執着が薄いのも見て取れる。

ボスの女が、上との通信、と言っていたことから、上空、おそらく宇宙圏にも仲間が控えているのがわかる。

となると、宇宙ステーションも制圧されたと考えていい。

わざわざハッキングまでして施設を切り離したのは、おそらくアーカイブを持ち出したかった。

施設のブラックボックスともいえる、全てのデータが詰まったメインコンピューターを、区画ごと運び出したのなら、説明がつく。

処刑された男。

彼は作業員の命を弄ぶことに躊躇が無かった。

森も、作業員も、彼らにとっては副産物でしかない。

なら、本当の目的はなんなのか。

見たところ、武装集団の男たちはみな健康そうで、食うに困っているようにはまったく見えない。

いや、でも。もしかすると、前線に出る戦士の役割を担う者たちに優先的な権利があり、どこかの隠れ家に餓えた女や子供が集められているのかもしれない。

かつてのハル・サーティがそうであったように。


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