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It’s my life  作者: やまと
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何度でも


自分が選んだのだ、とザックが気づいたのは唐突だった。

帰還を命じられた一行は、何故か別の拠点に誘導されたが、たどり着いた先には自分たちの拠点となる居住地ボックスがあった。

そこでリヒト達は改めて、やつらには記憶を読み取る能力があり、元居た場所がワームの縄張りになったことを告げられた。

医療施設も移動しており、一から拠点生成しなおすことになった。

万が一に備えて本部の場所が教えられないこと、同様に他の施設や拠点の情報も統制されていることを告げられ、申し訳程度に伝達の遅れを謝罪された。

カルロは本部に召集され、交代にディルクが隊長として、アレックスの補充要員としてラスカという男が異動してきた。

ディルクは最初の任務でレッカー班を率いていたバートレットの部下だ。ラスカはザックと同じ戦闘技能を持った作業員ということで、レッカー班の副官、ザックと同じポジションとして別の場所へ向かった男。

同期というのもあり、その後、第二拠点で過ごしている間も何度か話をしていて、打ち解けるのに時間はかからなかった。

否応なしに日常が戻ってくる。

手慣れた作業を続けていると不意に、あの時のことが頭をよぎる。

仲間を失ったというショックに慣れたころ、思考が次のステップ、どうすればよかったのかという反省に進んだ時、ザックは気づいた。

あの時、ザックはリヒトをかばった。その先に、アレックスはいた。

視界の端に、確かにアレックスの存在を認識していたのに、リヒトをかばえば彼が犠牲になることはわかったはずなのに。

あの一瞬、無意識に近い反射で、自分はリヒトを選んだ。選んでしまった。

「追いつめられた時、人の本性が出るって言うだろ」

星空の下、拠点の屋根の上。

リヒトが入れなおした茶で指先を暖めながらザックは言う。

「あの瞬間俺は迷わなかった。迷わずお前を助けた。近かったからとか、助かる可能性とか、そういうのは全く考えず、俺にとってアレックスよりお前の方が好きだったから」

自分に言い聞かせているような口調だった。

割れてしまったカップを元に戻そうとしているような虚しさを感じて、リヒトは胸のあたりがもやもやとする。

確かに、ザックの言い分は正しく聞こえるけれど、あの一瞬でそんなことまで考えられるだろうか。

何か見落としているような、胸騒ぎ。

もう一度最初から、ザックの言葉と彼の心境を考え直そうとするリヒトの思考を遮って、ザックの「やっぱやめ!」が響く。

「これじゃお前のせいにしてるみたいだ。今のなし!」

「なし…?」

あまりの唐突さに目を丸くする。

すでに結果が出ているものの話をしていたはずではないだろうか。

一瞬の困惑ののち、リヒトは不意に理解した。

ザックが求めているのは、事実に対する整合性などではなく、ただ単純に、納得したいだけなのだ。

自分の行動と、伴った結果を受け止めて、納得したいだけ。

リヒトにとって重要なのが事実であるのと同様に、ザックにとって、あの時の行動について、どうしてあんな行動をとったのかという過程、理由といったものが需要なのだ。

「難しいなぁ」

思わず零れた呟きに、ザックが続きを求めて沈黙する。

「無意識のうちに熱いポットに触れてしまった時、神経を通った痛みの信号は、脳で処理することなく脊髄で反応して手を引っ込める」

所謂、脊髄反射というやつである。

突然始まった講義に、ザックは首を傾げた。

「考えるより先に体が動くって、よくあることだって聞いた。考えてる暇なんてない瞬間、考えるより先に動くから、本性ってのがむき出しになる。つまりザックは、あの時、何も考えていなかったんだと思う」

「でも、だったらなんで俺は…」

「どうしてザックは僕を助けたのか。納得するために感情を想像してもたぶん無意味なんだ」

どうして、を考えるのは好きだ。

世の中のだいたいのことには理由や目的、事情があって、結果が生まれる。どうして、を知ることは、結果を予想するのにとても役に立つ。

「あの時ザックの視界には、僕を襲うワームと、僕と、アレックスが映っていた。ザックは、ザックの思考は、僕を助けることと、助けたあとアレックスが危ないことをちゃんと認識していた。してしまっていた。けれど体は、より近い僕を助けるために反射的に動いていた。うん、たぶんそのせいじゃないかな。頭で考えることと、身体の動きが違ったから、ザックは混乱しているんだ。熱くなったカップを受け取った時、頭では手を離すとカップが落ちて割れてしまうことがわかっていても、脊髄反射で手を放してしまうのと一緒、で…どう、かな」

振り向くと、ザックが目を丸くしてこちらを見ていて、語尾がしぼむようにぎこちなくなる。

思いつくままに言葉にしてしまっていたが、もしかするとひどいことを言ってしまったかもしれない。

アレックスをカップに例えるのはまずかっただろうか。

己の言動は時折、思いやりに欠け、心を傷つけてしまうことがあるらしいという自覚がある分、いたたまれない気持ちになる。

緊張するリヒトの心配をよそに、ザックはふ、と表情をやわらげた。

「なんか、お前の話聞いてると、頭がよくなった気になるよ」

「ザックは充分、頭がいいよ」

「そりゃあどうも。自分でもそう思ってたけどな。お前のその、自分の感じたこととか、考えたことをちゃんと言葉にできるのはすごいと思う。カウンセラーだとか、教師の連中どもは、すぐ難しい言葉に言い換えて、誤魔化しちまうから」

あいにく、カウンセラーだとか、教師というものにリヒトは触れてこなかった。

そういうものなのか、とぼんやりと想像することぐらいしかできない。

「でも、うん。そうだな。脊髄反射か。あの時お前を助けたのに、ドラマチックな理由なんていらないんだよな」

「まぁ、そうなるね」

「そう考えると、俺に選ぶ余地なんてなかったんじゃないか?」

「まぁ、そう、なるね」

「あーあ、悩んで損した」

肩の荷が下りたのか、すっきりした顔で眺める星空の向こう、何度目かの打ち上げられた輸送船がちかっと光った。

反対にリヒトは、カップの底に残った残り滓をじっと見つめる。

本当は、話したいことがあってザックを起こそうとしていた。

ここ何日か、うなされていたことも知っていたし、脊髄反射とはいえ、助けられた恩もあった。

彼のうなされている原因が自分にもあるとなんとなく察していて、だから今夜、自分自身について話そうと思っていたのだが。

ザックの悩みが解消された以上、無理して伝える意味もない。

むしろ、せっかく気分が上がっているところに、下手すればまた冷や水を浴びせることになる。

どうしたもんかと悩んでいると、不意に、隣で「あーよかった」だの「よーしよし」

なんて言っていた声が止む。

リヒトは意を決して顔を上げた。

「あのさ」

ふり返ると、何でもないような顔をしたザックがこっちを見ていた。

「自分が助けた命がどんなものか、知りたい?」

妙なことを言っている自覚があるのに、どうしてだかザックは、ひどく嬉しそうに笑って頷いたのだった。




拠点の朝のルーティンはまず、身支度からだ。

交代でバスルームを使い、必要があれば着替える。

ちなみに洗濯は、専用の箱に衣類を入れて、所定の器具にセットすれば洗濯されるというシステムだ。

脱いだものを適当に押し込めて洗う者もいれば、丁寧に畳んで入れる者もいる。どちらも洗濯の質には変わりがない。

食料は、一週間分の加工食が本部から人数分送られてきていた。

物資として蓄えられていた宇宙食はとうに品切れ状態で(とはいえ、本部にはいくらか緊急用にストックされているだろうが)、送られてくるのは現地調達した動物の肉や植物を加工したものだ。

どんな生き物の肉なのかわからないジャーキーをかじり、豆を食う。それが食事だ。

一見粗末だが、栄養バランスも考慮された立派な食事。

それが終わると、形ばかりの点呼と本部への連絡。

そのあとはいよいよボットに乗って作業だ。

同時に動かせるのはボット四台まで。作業員は四人だが、そこに軍人兼隊長のディルクを咥えると一人、ボットに乗れない者が出る。

交代で一人、簡易スーツで補助の役割をすることになったが、ほとんど生身と変わらない装備。

作業員不足は否めないが、それでも、リヒト達は二回目の拠点構築というのもあって、さくさくと作業を進めていった。

今日の補助はリヒトだ。ボットに乗れないリヒトはただでさえ小柄なこともあって、ザックやラスカのようにボットの側で作業の補助はできない。

リヒトからしてみれば、生身で斧を振り回し、丸太を切断できるザックたちの方が異常なのだが。

簡易スーツ状態の唯一の利点と言えば、ワームと遭遇した時に襲われる可能性が低いことなのだが、外敵はワームだけではない。

ワームにばかり気を取られて油断していると、原生生物の洗礼を受ける。

この星に住む生物の種類は実に多彩だった。

食料となる植物が多いためか、そのほとんどが草食で、大半は群れを成して生きている。

そして、そのほとんどが巨大だ。

肉食獣がほとんどいないためか、餌となる植物が豊富なためか、巨大化が進んだ四足動物と、そこに矯正する小型の動物。それから昆虫。

今まで外敵が少なかったせいか、人間を見ても怖がらないため、うかつに機嫌を損ねると簡単に尾や体当たりで吹き飛ばされる。

だがそれらも、生態調査により、個体数が多い種類から、食料への加工が進んでいた。

ボットから降りたリヒトにできる作業と言えば、機械いじりだ。

居住施設に付属した様々な機能の点検、修理が主な仕事。

本来ならば、一度設置されれば動かされることのない居住施設のはずだが、リヒト達の拠点となる居住ボックスは二度ほど引っ越しを行っているのもあって、思わぬエラーを吐くことが時々あった。

浄水器の異物を取り除き、エアコンのフィルターを掃除すれば、一日の作業はほぼ終了だ。

一足先に休憩モードに入っているリヒトを、ディルクが咎める。

「こら、さぼってないで飯の支度でもしてろ!」

言い分はもっともである。

ラスカやザックの本音としては、小柄なリヒトや一応は女性であるキーラに楽をさせてやりたいのだが、たとえ善意からであれど、規律の乱れは思わぬ形でチームワークを乱すことがあるものだ。

リヒト自身、それを理解しているので、むしろちゃんとした指示が飛んだことに感謝した。

とりあえず「なにかしろ」なんて言う上司も、時に居るのだから、飯の支度をしろと言われるだけありがたいものだ。

さて、食事の支度だが、本部から支給されてくる加工食品というのは、温めるだけで充分食べられるものではあるのだが、余裕がある場合は調理することが推奨されていた。

生態調査部の一画には調理部が設けられ、日々、現地の食材をどう調理すれば食べられるかの研究が進んでおり、常に新しいレシピが配布されている。

現地のものを食し、星になれることが移住の第一歩なのだ。

というわけで、リヒトは手元のデバイスでレシピをダウンロードし、必要な食材をピックアップした。

栽培プラントで育成が始まっているとはいえ、そもそも食材というのは現地調達が基本。

拠点の周囲を散策しながら、指定された草(というとザックあたりが苦い顔をする)や木の実を集めて回った。

五人分の腹を満たすとなると一抱えである。

更にそれを、毒性がないか成分調査して、調理を始めなくてはならない。

歩き回ってへとへとなリヒトに、追い打ちをかけるように緊急のアラートがなった。

「急患だ」

ヘリからの無線に、一同は作業する手をすぐに止めた。

患者の状態を詳細に報告する無線を聞きながら、医療施設へと向かわなくてはならない。

距離はそこそこ。リヒトの足にはちょっとばかし辛い程度。

ボットであれば楽勝なのに。

珍しく不機嫌に顔をゆがめたリヒトだが、疲れたのでパス、なんてできるはずもなく、仕方なく、疲れた体を引きずって施設を目指した。

「しょうがねぇなあ」

無線から聞こえる声と共に、身体がふわりと宙に浮く。

ザックが荷物よろしくリヒトを抱えていた。

乗り心地は最悪だが、走るよりは全然マシだ。

「ボット側の義務だと思うけど」

ボットの補助があれば、リヒトにだってザックを抱えられる。

負担はほぼゼロのはずだ。

「ほう…?」

「……」

「まぁ、いいけど」

「…ありがとう」

「よくできました」

体勢的に顔は見えないはずなのに、不思議とザックの、満面の笑みが見えた気がした。




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