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セキュリティパス……?

 ハルトが直接の上司である主任のところに行くと、主任は電力節約のためにスリープモードになって寝ていた。機械化比率の高いサイボーグで命にかかわるのだから、仕方ないことだろう。


 仕方がなしに次に行った、係長は不在だった。

 さらに上の課長も不在。

 部長も不在で、局長がいる部屋に行くと、そこに大量の人間がいた。

 全員考えることは同じなのか、少しでも情報を集めるために偉い人のところに集まってしまったのだろう。

 局長は、ハルトが働いている建物のトップだ。


 「通信の設備まで止まってしまって、私にも何が起こったのかわからんのだ!」


 ハルトがその部屋に到着した時、局長が多くの人間に詰め寄られて絶叫しているところだった。様々な外見、肌色の人間が集まって、実にカラフルだ。

 局長はどんな風に肉体を改造したのかよく分からないが、蟹のような外骨格のある外見をしていた。

 それが全身真っ赤になりながら叫んでいる。

 茹ってる……と、ハルトは不謹慎な感想を思い浮かべた。


 局長の叫びを聞いても、周囲にいる人々の追及は治まらない。

 なおも詰め寄られ、局長は今度は全身を青く変えて頭を抱えた。


 「……シイナさん、ここからだと大丈夫なの?」

 『回線は問題ないですが、局長の許可がないと無理ですよ?』

 「そっか……」


 局長も情報が欲しいはずだ。許可は出るだろう。

 そう考えて、ハルトは大きく息を吸って覚悟を決める。


 「あの!」


 大声で叫んだことで、周囲にいた多数の人間の視線が一気にハルトに集中した。


 「……なんだね?」


 局長が祈るように組んだ手の間からハルトを睨みつける。局長の目は四対で不気味な迫力があった。


 「その、オレの……いや、私の一般用複合機が有線で直接回線から情報を引き出せるので、許可を欲しいんです……が……」


 情報を引き出せるといったあたりから、局長の周囲にいた人々が無言でハルトに詰め寄ってきた。

 その迫力に負けて、ハルトの声は段々と弱まっていった。


 「そうか!好きに使ってくれ!いや、頼む!情報が必要なんだ!ぜひやってくれ!」


 だが、言いたいことは理解してもらえたようで、局長は全身を桜色に染めると喜びの叫びをあげた。


 「……は、はい!じゃあシイナさんお願い」

 『では失礼します』


 今度は人々の目は宙に浮いているビリヤードの球のようなシイナに集中した。

 送電の切れた場所でも正常に稼働している一般複合機のシイナは希少だ。同じような機器は存在していたが、停電ですべて電源が落ちて動かなくなっていた。

 それはシイナが宇宙船用の機種で内部にバッテリーと発電機を備えているおかげだ。


 シイナが有線接続している間も、無言で人々はシイナを見つめていた。

 静寂がハルトたちがいる部屋を支配していた。


 『セキュリティパスを教えてください』


 その静寂を、シイナの声が破った。


 「セキュリティパス……?」


 局長のその呟きを皮切りに、波紋の様にざわめきが広がっていく。


 『局長のセキュリティパスです。お願いします』

 「…………セキュリティパス……そうか、そういうものもあったな。生体承認ではダメなのか?」


 局長はまた青くなって器用に外骨格の表面に冷や汗をかいていた。ギリギリと音が鳴るくらいに歯を食いしばっている。


 『センサー類がすべてダウンしているため、生体承認は不可能です。私のセンサーデータは生体承認用として認可されておらず使えません。セキュリティパスを教えてください』


 無情なシイナの声が響く。

 それと同時に、シイナは局長の前にタッチパネルのような映像を投影した。非接触で操作できるディスプレイだ。


 「う……す、すまない。覚えてない」


 局長は食いしばる歯を緩め声を絞り出して答えたのだった。

 失態だ。

 しかし、それも仕方がない。この惑星上ではどこでも生体承認が機能するのだ。それも得に何か確認動作をするわけではなく、その場でいるだけで複数のセンサーによって自動的に確認される。

 セキュリティパスなど、生まれてから一度も使ったことがなかった。

 ここの局長になった時に割り振られたパスがあったはずだが、そんなもの儀礼的なものであって必要ないものだと思っていたので最初から彼は覚える気すらなかった。

 どこかにメモをした記憶はあるが、そのメモをしたのも電子機器なので今は動かない。

 送電が止まらなければそれでまったく問題なかったはずだ。


 ざわめきが大きくなる。明確な局長への罵倒にならなかったのは、彼ら自身もセキュリティパスの存在を蔑ろにしていたためだろう。それじゃ、お前のパスを教えろと言われても答えられない。


 「シイナさん、なんとかならないの?」


 戸惑いまくっている周囲を見かねて、ハルトはシイナに問いかけた。


 『実のところ情報を引き出すだけなら可能でした。私はこう見えても宇宙船用の優秀な機器なので、それくらいは可能です。しかし、その引き出したデータ自体がセキュリティパスをカギとして暗号化されており意味不明な文字列の集合体でしかありません。セキュリティパス無しでこれを読み解くには私の機能では多くの時間を必要とします』


 セキュリティパス無しの不正な方法で情報を引き出された時の対策なのだろう。

 情報は暗号化されていた。

 セキュリティパスがあれば簡単に読み解くことは可能だが、無い状態だと文字化けした文章のようなものでしかない。

 もちろんその暗号化は、シイナのような……いや、もっと優秀な端末によるハッキングを前提にしているのだろう、そう簡単には読み解けるものじゃなかった。


 「ふーん、それ、表示できる?」

 『できます』

 「お願い」


 ここ数週間の生活で、ハルトには確信めいたものがあった。

 自分の翻訳スキルはかなり能力が高い。

 言語であれば、まず読み解ける。

 ならば、暗号であっても同じではないか?そう思ったのだ。


 所詮、暗号も言語。ルールに従って作られたものだ。


 「あ、やっぱり読めるな」


 シイナが表示したデータを、ハルトは読み解くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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