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それじゃ、一度中に入って確認してきますね

 「シイナさん、そのホストコンピューターのある場所分かる?」

 『はい』

 「地図は出せる?」

 『もちろんです。この惑星のマップは最初に訪れた時点で取得済みです』

 「じゃあ、行くか」


 シイナが出してくれた地図を確認し、ハルトは「空間転移」を使った。

 まるで映画の場面転換のように、一瞬にして目の前の景色が切り替わる。


 転移前の場所にいた人間たちは今頃突然消えたハルトに驚いていることだろう。

 転移能力については今まで秘密にしていたが、転送装置がある世界だ。目撃されていても言い訳はなんとでもできるだろう。

 SFドラマでサイト・トゥ・サイト転送と呼ばれていた、外部から転送装置を操作して二点間を直接移動する転送もあるらしいし、緊急事態でシイナが強制的に操作したことにしてもいい。

 そこまで考えながらも、ハルトは言い訳してまで隠しておく必要をあまり感じていなかった。


 なぜならハルトは、これから自分の能力を少なくない人数にバラすつもりだったからだ。


 「でっかいなー」


 ハルトは転移した先で巨大な建物を見上げていた。

 

 「やっぱりいたか」


 建物の入り口には、やけに普通の見た目の人間たちが集まっていた。

 この世界ではあまり改造されてない人間の方が金持ちで、立場が上の人間も多い。身なりからもそういった人間たちだと判断できる。

 ボディーガードらしい者たちが周りを固めていることからも、間違いない。


 責任と地位のある人間たちが今起こっている事態を何とかしようとして、ここに集まって来ているのだ。


 「あのー!」


 ハルトは集まっている人間たちに声を掛けた。


 「なんだてめぇ!」


 即座にスチームパンクな雰囲気のボディーガードっぽい男がハルトの進路を塞いだ。


 「これからオレが中に入ります。誰か一人、一緒について来てください」


 背中から出ている謎の管からプシューと蒸気を噴き出している男を無視して、ハルトは宣言した。


 「なんだ?」

 「なんだと!!入れる手段があるのか!!?」


 ボディーガードの男と、その後ろにいた身なりの良い普通の人間ぽい男の声が重なった。

 偉そうな雰囲気の男はこの場に数人いるが、代表して話しているということは、この男が一番地位の高い人間なのだろう。

 若い見た目だが、寿命も長く金さえあれば延命治療も受けられるこの世界では、見た目の年齢はあてにならない。


 「はい。あります」

 「しかし、入り口の扉すら開くことができないんだぞ?建物を壊すことも許されんからな!?」


 ボディーガードの男がハルトを追い返そうとしているのを手で制して、身なりの良い男が続けた。

 建物の扉はしっかりと閉ざされている。彼らはその中にすら入ることができていなかった。


 「大丈夫です」


 そう言って、ハルトは数メートル先に転移して見せた。


 「何?転送装置が生きて……いや、どこかの宇宙船から?そんな反応は無かった。まさか……内蔵型転送装置?この#惑星__ほし__#にもいたのか!!?」


 転送可能領域に宇宙船の影もないことを確認してから、男は驚きの声を上げた。


 通常の転送装置は高価だがそれなりに出回っている。

 星間航行用の宇宙船だと、標準装備されているくらいだ。

 しかし、それらはかなりの大型で、人体に内蔵できるほどの小型ものとなると、技術の進んだ惑星でのみ生産され、さらに莫大な金額がするのだった。並の金持ちでは手に入れるどころか、内蔵している人間と知り合うことすらできない。

 この世界でも高性能機器の小型化はステータスなのだった。


 「まあ、そのようなものです」


 ハルトはそこまで驚かれると思っていたなったために男の様子に逆に驚いていたが、平然を装って答えた。

 

 「……いや、しかし、この建物は壁に妨害されて転送は不可能だ。いくら転送装置を内蔵していても中に入ることは……」

 「できますよ。ただ、建物の図面が欲しいんですが」

 「まさか……最新型なのか?試してみるのもいいか……。惑星全体の命運がかかっている。失敗してもたかが人一人の命……」


 最後に本音が漏れたが、男は悩んでいるようだった。

 転送には様々な問題がある。

 一番大きな問題は、目の前にある建物のような分厚い壁で囲まれている場所には転送できないことだ。

 せめて窓くらいあれば転送できる可能性はあるのだが、重要施設である場所にそんな侵入しやすい部分は作られていない。

 それをハルトが可能だと主張したのだから、彼はそういった問題すら攻略された最新型だと思ったようだった。


 ハルトの転移能力は、転送装置にあるような問題は無関係だった。

 ある程度イメージできれば、無条件で転移できる。正確な座標を示す必要もない。地図や図面で充分なのだ。


 「図面はありませんが、私の補助記憶装置に内部の構造の記録があります!」

 

 男が悩んでいる間に、作業着姿の別の男がそう発言してきた。

 見るからにエンジニアで、後頭部が樹脂カバーで覆われている以外は普通の外見をしていた。

 男はハルトの返答を待たず、後頭部から一本の端子付きのケーブルを引きずり出すと差し出してきた。


 「シイナさん、お願い」

 『はい』


 シイナも心得たもので、そのケーブルを受け取るとハルトでも見れるように空中に内部構造の記録を表示して見せた。


 「貴様、機密情報を易々と!」

 「早急な対応が必要な状況ですよ!もし彼がこの機に乗じたスパイか何かだった場合は、その時に対処すればいいではないですか」

 「そ、そうだな……」


 ハルトを目の前にして交わされた会話には色々言葉が抜けていたが、ハルトがスパイだった場合は機密漏洩を無かったことにして始末してしまえば良いということだろう。さらには、スパイでなく、ただの調子に乗ったバカだった場合でも同じように始末してしまえばいいと匂わせていた。


 「それじゃ、一度中に入って確認してきますね」


 ハルトはそう言うと、また転移能力を使ったのだった。


 

 

 

 

 





 

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