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07.死んだ方がましなんだが

「どうしたのリア?親の仇を見るような顔をして。」

うるせぇ。

親の仇どころかすべて滅んでしまえばいい。

朝、何か食べようと思ったが、身体が動かない。その俺を目の当たりにしてアニタが聞いて来る。

そう言えばこの女、この家の鍵を持っているようで、たまに堂々と入って来やがる。おそらくリアが渡していたんだろうが、俺が許可した覚えはない。まぁ、そんな事は今更だからどうでもいい。

「ちょっと、大丈夫?」

「朝からずっとなんだ。それよりあたし、お腹空いたよ。」

このクソ犬、俺が苦しんでいるのに、そんな事はどうでもいいからと飯を要求してきやがった。

「そうね、まずはご飯にしましょうか。」

このアホ女、俺の事は放置か!?

今大丈夫?とか聞いてたよな、つまり俺の状態に関する情報欲求よりも目先の食欲を優先したって事だな。


しかし、この激痛は半端じゃねぇ。いっその事、殺してくれって気分だ。

「リア、もしかしてアレ?」

アレってなんだよアレって。まぁいい、一応察してはくれたようだ。ってか毎月この激痛に耐えなきゃならないとか、死んだ方がましだと思わされるな。これはかなり盲点だ、良い事ばかりでもないな・・・

「まぁ、多分そうだ。」

「多分って何よ。それより薬は飲んだんでしょ?」

・・・

・・・

・・・

あ、俺薬師じゃん。

何てバカなんだ俺、痛すぎてそんな事にすら思い至らなかったぜ。


早速薬は飲んだが、即効性があるわけじゃないから、暫くの間は激闘の必要があるな。しかしこれ、何とかならんかな。

待てよ、止める方法はあるよな・・・あ、こいつ知ってるじゃねぇか、薬の調合方法。意識しないと出て来ないのも面倒だが、そもそも今までの生活に無かった事なんだから、意識出来るわけもねぇ。

だが、それが可能ならなんとかなりそうだ。死んだ方が楽なんじゃないかと思ったが、回避方法があるならそんな必要も無いな。


「はい、ごはん出来たよ。」

なるほど、定期的な現象だから、アニタはそこまで気に掛けなかったんだな。それはいいとして。

「何故朝飯まで作りに来てんだよ。」

「ちょっと心配で。」

何が心配なんだよ、まったくわからねぇ。それで伝わると思ってんのか。

「ほら、エリサが来たばっかでしょ。ちゃんと生活出来ているかなぁって。」

うるせぇ、ほっとけ。

だがアニタの言う通り確かに、俺に生活力は皆無だ。俺自身、ペットを飼った事も無いから、世話もした事がない。

昔、子供の頃は家族で犬を飼っていた事はあるが、俺は餌やりも散歩もした事はない。その所為もあるのだろう、あまり懐いてはいなかったな。


そんな事を思いながら朝飯を食った俺は、アニタを追い返して店を開けた。




腹部の痛みも治まり、気にならなくなったので、エリサ用の小屋をどうしようか考えながら本を読んでいると、怪しいおっさんが入って来る。

いや、見るからに怪しい。

目深に黒の帽子を被り、全身も黒の衣装を身に纏いながら、周囲を伺っている。店内でも左右を確認していた。

確認するほど広くねぇよ!

警察が居るなら即通報してやりたいところだが、そう言えば街にはそんな組織ってあるのか?

「あの・・・」

そんな事をふと思った時、小さな声で話し掛けられる。

「もう閉店だ。」

追い返そう、うん。

「え、いや、さっき開けたばかりですよね?」

見てんじゃねぇよ。アニタに続く新たなストーカーか?いや、開店待ちするほど、俺の薬が必要だという可能性もある。ただ怪しいから相手にしたくはないが。

「で、なんの薬が欲しいんだ?」

「薬?」

おい・・・

何で疑問を浮かべるんだよ、薬屋って表にちゃんと書いてあるよな。

「薬屋って書いてあっただろ、見てねぇのか。」

「これは失礼しました。」

「ほんとにな。」

一体なんの店だと思って入って来たんだよ。

「という事で、薬に用が無いなら帰れ。」

「ちょっと待ってください、実はガリオスからの紹介で来たんです。」

俺が出て行く事を促すと、おっさんは慌ててそう言った。ガリオスと言えば、超お金をくれたおじさまだ。またくれないかなぁ。


それはさておき、そうなると無下にも出来ないか。金蔓が減るのは困るしな。いや、ガリオスがまた薬を買いに来るかは分からないが。

「で、何の用なんだ?ここはただの薬屋だぞ。」

「実は、困った事があったら相談してみろと。ガリオスも長年困っていた事案を、思いがけない解決方法で解決してもらったそうで。」

いや、此処は相談所じゃ無いんだが。

何を余計な事言ってくれてんだあのオヤジ。

「ガリオスも思いがけず順風満帆になったとか。リア殿は状況を把握すればきっと、良い方向に解決してくれると。」

あぁ、うん・・・

盛り過ぎだ!

どんだけ盛ってくれてんだバカヤロー!

「いや、俺は薬を渡しただけで、何もしてねぇからな。」

「またまたご謙遜を。」

聞けよ!

「では、私の悩みも解決してくれる薬をお願いします。」

そんな都合のいい薬があってたまるか!

馬鹿だろ、こいつ。

そう思った俺は、一つの小瓶を棚から取ってカウンターに置く。

「これな、トリカプシンという強力な毒。これを飲めばすべてから解放されるぞ。」


おっさんは怪訝な顔をした後、自分を指さしたので、俺は笑顔で頷いてやった。

「確かに、悩みから解放はされますが、それって私はもうこの世に存在してないですよね。」

「何か問題が?」

俺にはおっさんが何処で野垂れ死のうと、関係ないからな。

「いや、それは・・・」

困った様に苦笑いするが、俺は別に困らん。

「別の方法でお願いできないでしょうか?」

いや、内容も知らねぇし、そんな事を言われてもな。

「実はですね・・・」

いや、話さなくていいんだが。

「ご主人、お腹すいたぞ。」

・・・

おっさんの話しを遮ったのは良い仕事だ。

「わ・・・ワーウルフ?」

エリサの姿を見て、おっさんも驚きを隠せずに硬直している。これは良い傾向だ、このままお帰り頂こう。


「さ、流石はリア殿。まさかワーウルフも手懐けているとは。」

逆効果だった・・・

おっさんは喜々として言ってきやがる。どう見ても帰る気どころか、話しを続けそうな雰囲気だ。

「ややこしくなるから出てくんな!」

「ふにゃっ・・・」

苛っとして手近にあった空き瓶を投げつけると、エリサのおでこに当たり、反動でダイニングの方に転がって行った。

はぁ・・・

「で、その内容ってのはなんだ?」

まったく、俺もお人好しだな。

「ありがとうございます。実は王都との往路で、度々ゴブリンに商品を奪われる事がありまして。」

ゴブリン・・・まるでゲームだな。ってか、この世界にゴブリンが存在するのか?だが、ワーウルフが居たんだから居ても不思議じゃないよな。

「管轄外だな。そもそも、兵士とかが退治すんじゃねぇのかよ。」

それかギルドに依頼を出すか。エリサもその類だった筈だ。

「いえ、それが、そういうわけにもいかず・・・」


怪しいな。そもそも商品を奪われるという話しであれば、こいつだけが被害に遭うのも不自然だ。他の人間が運んでいる荷物が奪われたのだとすれば、それこそギルドや国に依頼なり要請なりがあって当然だろう。

その辺を聞こうとしたわけだが、おっさんの態度は急に怪しくなった。歯切れの悪い物言いと、俺から視線を外した事で。こっちは10年以上サラリーマンやってたんだ、素直に受け取ると思うなよ。

「つまり、何か違法なものを運んでんだな?」

「・・・」

そういう面倒事には関わりたくねぇな。そもそも違法だった場合、加担した俺も同罪になるじゃねぇか。

待てよ、そもそもこの場所の法律に関しては知らないよな、俺。それに、ガリオスに渡そうとした薬もアウトな気がするな。つまり、使ってはいないが作った時点で、俺はもう法に触れている可能性があるんじゃないか。

「まぁいい。内容には興味ねぇ。で、そのゴブリンをどうしたいんだ?」


結局何処かで線引きをしているんだと認識させられた。生殺与奪の力を手に入れた、その時高揚感からそんな風に思いはしたが、生きて来た癖がそう簡単に抜けるものでもない。

だから、法に触れると思った時、その意識が歯止めとなって踏み止まらせている。


それでいいのか?

俺は、もう死んだんだろ?

普通の生き方は、もうやったじゃねぇか。

何のためにガリオスに薬を渡そうとしたんだ?

その意識は、今の俺が此処に来てまで持ち続ける意味はあるのか?


そう思った時、何かから解放されたような気分になり、俺は笑みを浮かべておっさんに聞いていた。


「それは、居なくなってもらいたいというか。」

面倒くせぇ。

回りくどい言い方しやがって。

「はっきり言えよ。」

「始末したいんです。」

へぇ。最初からそう言えばいいのに。だが、その戸惑いのお陰で俺も考える時間が出来たと言える。

「で、誰を?」

「え?」

え、じゃねぇよ。最初に言った通り、ゴブリンが積み荷を奪うだけなら、俺に話しをしに来る必要は無い。違法な荷物に対しても無言だったし、ゴブリンをどうしたいか聞いても態度は曖昧だった。だから、居なくなって欲しいのは別の何かなんじゃないかと思ったわけだ。

俺はそう思って黙したままおっさんを見続ける。当の本人は目を逸らしているが。が、細かい事情はどうでもいいが、そこをはっきりさせなければ俺に火の粉が飛んでくる可能性もある。

吹っ切れたとはいえ・・・いや、まだ完全に吹っ切れちゃいないが、それでも自分の身を危険に晒すのは違う。俺は別に危険な事がしたいわけじゃねぇ、やりたい事をやって楽しく人生を謳歌したいだけだ。


「い・・・妹のメイニ・・・」

ほう。身内とはね。

「きな臭いぞご主人。」

「引っ込んでろ!」

「ぎゃふっ・・・」

何時の間にか後ろに居たエリサに驚きつつも、またも小瓶を投げて追い払う。

・・・

きな臭いって言ったか?あいつにも、そんな事が分かるのか。もしそうなら、実は出来る犬なんじゃ?

「なるほどな。大方、ゴブリンを使って行っていた悪事が妹に気付かれたってところか?」

ありがちな展開を口にしてみる。まぁ外れだろうが、それでも遠からずだろう。ゴブリンに荷を盗まれると言いながら、殺したいのは妹だってんだから。

おいおい・・・

適当に言ってみたが、おっさんの挙動が怪しいぞ、汗も出て来てるし。

「え、図星?」

「い、いえ・・・」

当たっちまったかぁ。

実は俺、才能あるんじゃね?薬師探偵、俺。とか。いや、ダセぇな、この名前は無かった事にしよう。絶対黒歴史になる。


「それで、ガリオスの様に突然死を引き起こす薬が欲しいわけか?」

「いえ、欲しいわけではなく・・・」

はっきりしねぇおっさんだな。言いたい事があるならちゃんと言えよ。さっきははっきりと始末したいと言ったじゃねぇか。今更何を躊躇ってんだ。

「それじゃ始末出来ねぇだろうが。」

「あの、出来ればやって欲しいというのが、本音です。」

「何故俺がお前の尻拭いをしなければならない?」

自分で蒔いた種だろうが、自分でなんとかしろっての。

「あの、お金なら、払いますので。」

・・・

俺も人の事は言えないか。流石に自分の手を汚すとなると、躊躇うな。

「とりあえず、前金です。成功時には、この5倍でどうでしょう?」

金貨!!

しかも大きいヤツ!

くっ・・・

金ってのはなんて偉大なヤツなんだ。躊躇いという影を、その後光で消し去ってしまいそうだぜ。


「一つ言っておくが、ガリオスの結果は偶然なんだ。俺が望んだ結果じゃねぇ。だから、都合の良い結果になるとは思わないでくれ。」

「あ、承知してます。ガリオスはすぐ大げさに言いまわるんですよ。」

知ってんじゃねぇか。

それでも、此処に来たって事は藁をも掴もうってか。

「ならいい。とりあえず、誓約書にはサインしてもらうぞ。」

ガリオスの時にも書いてもらったが、今回の状況を加味した誓約書を用意する。

「分かりました。」

俺にとって、せめてもの保険というやつだ。

サイナス、ねぇ。

おっさんの名前は、会わなかったら忘れる系だな。




それから店は休憩中にしてギルドに向かった。サイナスからメイニの居場所は聞いているので、会ってみようと思って。まぁ、会わないとどうしようもないが。

店は客が来ないから休憩中でも問題ないだろう。たまに来るのは常連くらいだ。薬屋なんて、本来需要が無い方が平和なんだろう。


しっかし、なんかこうLVアップしてきた気分なんだよな。ゲームなら確実になんか上がってるだろ。


ギルドに着いた俺は、掲示板の内容を確認する。この前の件もあるので、薬以外の依頼で出来そうなものも探してみたが、特に無かった。

それからカウンターに目を向けると、メリアが笑顔で手を振って来た

あ、飯の事忘れてたわ。


「なぁ、レベルみたいなのは無いのか?」

「何よ、急に。」

うん、急だよな。こう、知識が増え、依頼をしていると、金と一緒に入って来るのは経験値だろ。そう思ったわけだ。しかもギルドとかあるしよ。今までは現状を何とかしようと、そっちに気を取られていたからな。

「うーん、何か自分の成長度を測るものがあったらなぁって思ってさ。」

「でもリアちゃん、冒険者登録しないんでしょ?」

「冒険者登録?」

なんじゃそりゃ。

「前にも説明したんだけどなぁ。」

知るか。

「依頼内容にもランクがあるでしょ。」

そう言えば、そんなものが書いてあったような。

「レベルの低い冒険者に、高ランクの依頼をお願いしても無駄じゃん。」

無駄とか言ってやるなよ・・・

本人が聞いたら存在否定されている気分になるぞ、きっと。

「ギルドで登録すれば、一応自分の強さが分かるようになるの。でもリアちゃん、別にいいって言うから、それ以来勧めてないのよ。」

ふーん。

あるにはあるんだな。

天邪鬼じゃねぇが、あるとなるとそこまで惹かれるもんでもねぇな。こいつが断った理由は分からないが、俺も今はいいか。

「何、したくなったの?」

「いや、確認しただけだ。」

「それより、食事の日は決めた。」

自分から聞いてくんのかよ。あぁでも、俺は俺でも俺じゃねぇからな。それに、日程なんて忘れてたし。

「また今度。ちょっとこれから野暮用があってな。」

「え、ちょっと。」

またも俺は、逃げるようにギルドを後にした。依頼を確認する度に聞かれそうだから、適当な日をそのうち考えよう。





ギルドを出た俺は、とあるカフェの前まで来る。

人の習慣なんてだいたい決まっているようなもので、メイニはこの日、このカフェに来るのがそれに該当するようだ。

特徴は軽く聞いている。まぁ、いわゆる金持ちとか、貴族的な感じらしい。それは見た目の問題であって、サイナス自身は貴族ではないと言っていた。

「あれか・・・」

そこへ、日傘を差した貴婦人のような女性が現れる。

!!

こ、これは・・・

金以上に貴重な存在かもしれん。

サイナスの妹だからあまり期待はしていなかったが、かなり美人だ。いやそれよりも、コルセットで引き締まったボディラインの上にはたわわに実った豊満な果実が!

この見た目でこのスタイル、亡くすのは神に対する冒涜以外の何物でもねぇ。


これこそ媚薬を使って取り込んだ方がいいじゃねぇか?

「あらリアさん、こんなところで会うなんて奇遇ですわ。」

誰だよ話し掛けくるのは。

考え事をしていると、鬱陶しい喋り方で話し掛けられたので、顔を上げてそいつを確認する。

・・・

・・・

見上げるとそいつは、たわわに実った果実・・・じゃなくて、メイニだった。


ってか、知り合いだなんて聞いてねぇぞっ!!


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