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20.豚にしか見えないんだが

「それじゃ、この誓約書にサインしてくれ。」

俺は用紙を渡しながら、薬の依頼に来たネムレニスに言う。


どうしても殺したい奴が居るらしい。詳細は言わなくていいと言って聞いていない。他人の事情になんか、関わりたくねぇからな。


ネムレニスはメイニに紹介されて来た、この王都の一貴族だそうだ。金を持っていても、何かしらの柵はあるんだろう。

俺も既に殺しはしてしまっているから、今更後にも引けない。殺したのはトロルだが、見た目が人間じゃないってだけで、俺にはさして変わらない。言葉を話し、感情も持っている、それが一番厄介だ。

食料としている食べ物の生殺に関しての禅問答はする気が無い。そんなの、無駄もいいところだ。ただの水掛け論に時間を割くのもアホらしいが、その話しを始める馬鹿の相手なんてしたくもない。

宗教や思想によって食する種別が制限されているというのは別にいい。そりゃそいつらが生きている概念の話しだから。そんな奴らに鶏は許されて何故牛は許されないのか?なんて発想が出て来る時点で会話出来そうな気がしねぇ。

まったく、くだらねぇ会話だよ。


「書きました。」

「薬は1週間後に取りに来てくれ。」

サインを確認しながら伝えると、ネムレニスは浮かない顔をした。

「1週間、ですか・・・」

「多少早める事も出来なくはないが、今は無理だぞ。そんな危険な物、常備してないからな。」

うっかりエリサが飲んでも俺は困らないが、自分で自分の首を絞める結果だけは避けたいし。

「3日、にはならないでしょうか?」

別にならくはないが・・・

「割増しでいいなら。」

「大丈夫です!」

本当は1日あれば終わるんだが、そこまで時間の制約は受けたくねぇ。俺は俺のために俺の都合で生きているんだ。商売だからと言って、相手に合わせてやるつもりはない。

そもそも自分の都合で欲しいんだから、その辺は相手が妥協するもんだろ?人を殺す薬が欲しい。一般的に考えればそんなろくでもない薬を手に入れたいなら、むしろ頼む側が合わせるもんだろ。

でもまぁ、3日くらいなら問題ないだろう。それに、浮かない顔から戻ったネムレニスから、追加料金も取れるなら、悪くはない。

この手の駆け引きは今後も発生するとなると、相手の状況を見て場の操作を出来るくらいの技量は欲しいな。

「5割増しだが、いいのか?」

「はい。」

即答かよ。大金貨1枚でも大金だってのに、今回は10枚吹っ掛けている。にも拘わらず5割増しを即決なんて、やっぱ金持ちってのは自分のやりたい事に関しては、金に糸目をつけないものなのかねぇ。

「それじゃ、3日後に来てくれ、用意しておく。」

「分かりました。」


人間、生きていれば嫌な奴の10人や20人くらい、軽く出て来るが、俺に関して言えば殺したいと思った事は無い。死という概念がどれくらいの重みを持っているか、そこが境界なような気はするが、俺が死ぬ前あたりは軽く考えている奴が増えた時代だった気はするな。

殺すって事は、相手の全てを奪っちまう。そんなクソ重てぇもん、俺は関わりたくねぇ。

出て行くネムレニスを見ながら、そんな事を思った。




「終わったか?ご主人。」

「あぁ。そんじゃ吸血鬼とやらの面を拝みに行くか。」

「おう!準備は出来てるぞ。」

もともとギルドから受けていた吸血鬼退治に行くつもりだったんだが、開店と同時にネムレニスが飛び込んで来たため、出発が遅れていた。依頼を受けるだけなんで、そんなに時間は掛かっていないが。

「じゃ、私は留守番ね?」

「あぁ、頼むよ。」


店を出ると、行きがてらカフェに顔を出す。未だに珈琲を手に入れる目途は立っていないが、何時かは自分の家で飲みたいと思っている。

「リアちゃん、エリサちゃんいらっしゃい。」

近所という事もあってか、店長にすっかり名前を憶えられてしまった。だが、常連というのは良いものだ。人間、行きつけの店があるというのは一つのステータスとなる事もあるからな。

「あぁ。何時もので。」

「あ、あたしも何時もので!」

真似しやがって。

「はいよ。」

店長の名前はグラードと言って、気のいいおっさんだ。

「ドッグフードはねぇぞ。」

「犬じゃないぞ!」

メニューを見ているエリサに冗談で言ったのだが、ドッグフードで通じたのか?この世界でそんな名前は聞き覚えがない。おそらく俺が何を言っているのか察して反応したに違いない。

ちょっと面白ぇ。

「お待たせしました。」

と言って、聞き覚えのある声が珈琲をテーブルに置く。

「あ、ボロ切れだ!」

「あの、その呼び方は止めてください・・・」

「ここで仕事を始めたのか。」

エリサの言葉に、恥ずかしそうにトレーで顔を隠すレアネに声を掛ける。どうせ隠すなら、サイズが合わなく布が張っている胸元を隠せよ。

「はい。マーレさんに教えて頂いたんです。飲食店で働くと、食費が浮くと。」

「なるほどな。取り敢えず雇って貰えて良かったな。」

俺はそこまで気が回らないが、確かに飲食店なら、生前で言えば賄いや、割引で食べられたり、余りを貰ったりなど、食費を浮かせられる可能性はある。それも生前の知識で、この世界ではどうかわからんが。

「はい良かったです。ですが、何故かお客さんの視線が集まるんですよね・・・特に男性の方。私、そんなに可愛いですか?」

・・・

死ね。

いや、むしろ死ね。

よく恥かし気もなくその言葉を口にしたな。お前が視線を集めているのはサイズの合わない服で胸を強調しているからだ。それに細身のエリサと違って、肉付きの良い尻も同様だろうな。

「エリサ、洞窟の前にホージョのところに顔を出すぞ。」

「おう、分かった。」

「って、何で無視するんですか!?」

恥ずかしいから話し掛けないでくれ。

「仕事しろ。」

「そうだ、仕事しろ。」

真似すんな、クソ犬。

「うぅ、冷たいです。」

「まず新しい服を買え。それで解決だ。」

「そうなんですね。分かりました、お金を返したら買います。」

「いや、返すのは後で良いから、先に自分の生活を優先してくれ。」

決して胸が悪いわけじゃないぞ。むしろ尻の感触も良かったし、出来れば胸も確かめたいところだ。だが、それ以上にレアネはちょっとおかしい。それに関わるくらいなら避けたい方に天秤が傾いただけだ。

「何から何までありがとうございます。目途が立ったらちゃんと返しに行きますね。」

「あぁ。」

私は神だ、とか言わなければ悪く無い気は・・・いや、自分の事を可愛いとか言うのも鬱陶しいな。

そんな事を考えながら珈琲を飲み終えると、西の森に向かう。





ホージョ達の元を訪れると、丁度休憩中だった。相変わらずうんこ座りで煙草を吹かしている。前よりもその姿は様になっていて、笑える。

「よぉホージョ、調子はどうだ。」

「おぉリア殿。栽培は順調だ。」

未だに違和感を感じるんだよな。だがそこが面白くもあるんだが。

「して、今日は何用か?まだ納品は出来ぬぞ。」

「実は栽培の量を今よりも増やさないかという相談だ。」

前にメイニに持ち掛けられた話しだが、やってみてもいいかと思い始めていた。だが、俺だけの一存じゃ決められねぇ。

「これ以上の拡充は我らだけでは難しいぞ。」

「分かってる。そこで相談なんだが、マーレを責任者として、他の手も入れたいと考えているんだ。もちろん、ホージョ達が嫌だと言うのであれば、この話しは無かった事にしてもいい。」

実際に、栽培自体は何も此処に限定されるわけじゃねぇ。既に動いている場所を使った方が、早いってだけだからな。

「お主のところの青年か・・・少し時間をくれ。」

「あぁ。」


「もしホージョ達が良いと言ったら、マーレと一緒にエリサにも任せるからな。」

「え、あたしもか?」

ホージョ達が相談を始めたので、待っている間にエリサにも伝えておく。

「そうだ。」

「面倒だよ・・・」

さらっと本音を吐きやがったな、このクソ犬。家庭菜園と掃除だけじゃ暇だろうが。涎を垂らして寝る時間を削ってやる。

「この前やるとか言ってたのは嘘か?」

「あれ、儲かる仕事って、これの事か?ならやる!」

そう言えば、内容までは話してなかったな。しかし最近思うが、こいつは俺以上に金に執着している気がするな。

「そうだ。マーレ主体でやる予定だから、エリサはその指示に従えばいい。」

「分かった、やってみる。」

こいつは金さえちらつかせておけば、概ね動くからいいな。


「決まったぞ。」

お、早いな。エリサと話している短時間で、もう結論が出たらしい。

「その話し、受けよう。」

「それは助かる。」

「但し条件がある。」

だろうな。

「我らの生活を脅かさない事だ。この場所は我らの領域であり、生活の場所でもある。人間に好き勝手をされてまで続ける道理は無い。」

「勿論そのつもりだ。俺もホージョ達に害が及んでまでこの計画を進めるつもりはねぇ。」

そう言ったら、ホージョ達が驚きの顔をする。いや多分な、まだオークの表情とかよく分からねぇ。

「お主、人間の癖に変わった奴よな。」

「そうか?」

少し前にも似たような事を言われた気がするな。

「うん、意地悪でケチだ。」

「どの口が言ってんだクソ犬!」

「んぐぅーーーー・・・」

両頬を摘まんで引っ張ってぐりぐり回してやると、エリサは涙目になって黙った。一言余計なんだよ、アホ犬。

「はっはっは。愉快な奴らよ。」

「ホージョ達ほどじゃねぇよ。それに、煙草仲間だしな、他に任せたくねぇよ。」

「うむ。我らも食後の一服というものが楽しみになってな、それを齎したリア殿と、出来れば今後も付き合いたいところだ。」

「あぁ。」

こういう関係は大事にしておかないとな。利害が一致している間は敵対関係にはならないだろう。それどころか、利害以上の関係になるかも知れねぇ。


「それじゃ、俺らはちょっと森に用があるんで入らせてもらうぞ。」

「それは構わんが、最近吸血鬼が住み着いてな。」

「知ってたのか。俺らそれを退治しに行くんだ。」

森の事に関しては、縄張りだけあって気付いていたか。

「我らでも手を焼く。今のところ実害は無いので放置しているが、可能なのか?」

「うちの犬が頑張る。」

「犬じゃない!」

うっせぇ、駄犬。

「確かに、ワーウルフであれば我らよりも向いているだろう。」

そういうもんなのか?

「じゃ、詳しい話しが決まったらまた来るよ。」

「うむ、待っておるぞ。」




「なぁご主人、腹が減ったぞ。」

「そうだな。カフェで作ってもらったパンでも食うか。」

「うん。」

森の中に入り、エリサが空腹を訴えるので飯にする事にした。歩きながら食えるのは便利でいい。今度から出かける時は、グラードに頼もうかな。

「旨い!」

確かに、この鶏肉の香草焼きを挟んだパンは旨い。出来れば珈琲もあったら最高なんだが、流石にそれは出来なかったな。生前なら、テイクアウトなんて当たり前だったんだが、この世界ではそういう文化はあまり無いらしい。

今回のパンも、頼んで用意してもらっただけだしな。


「あの洞窟だぞ。」

目の前に口を開ける洞窟を見付けると、エリサが声を上げる。言わなくても分かるっての。

森の中に岩山が聳え、そこに穴が開いているようだ。それが天然なのか、誰かが掘ったものなのかは不明だが。

「居るよ。」

入り口に近付くと、エリサが洞窟内に目を凝らして言う。俺には見えない事から、気配でも察しているのだろう。

俺は入り口の岩肌に寄り掛かると、煙管を取り出して煙草を詰め火を点ける。

「え、何で煙草吸うんだ?」

「仕事前の一服だ。」

「狡いぞ。」

いや・・・

「エリサは吸わないだろうが。」

「むぅ、あたしも何か一服的なものを要求する。」

知るか。

「用意していないお前が悪い。」

「ぶぅ・・・」

頬を膨らませ抗議をするエリサはさておき、俺は煙を洞窟内に送ってやる。煙草だからそれほどの煙は出ないが、反応を見るには良いだろう。

「あ、そゆことか。ご主人得意の嫌がらせだな。」

黙れ。

変な納得の仕方してんじゃねぇ。

「お前にもしてやろうか。大体ケチだと言うならあの家から出て行け。」

「け・・・ケチじゃない。意地悪だけど。」

そこは譲らないのな。まぁいいけどよ。


「っほ!・・・げほっ、げほっ・・・うぅげほ・・・」

・・・

近いな。

「何か落ちた音がしたぞ。」

俺が煙草の煙を洞窟内に送って間もなく、咽る声と何かが落ちる音がした。

落ちる音?

「何処のアホだこるぁ!人の家の前で煙を撒き散らすアホは!?」

そう怒鳴りながら出てきたものを見て、俺は硬直した。

「ぶ・・・ブタ?」

「誰がブタだこるぁ!」

「ご主人、やはり吸血鬼だぞ!って、お腹を押さえてどうした?具合が悪いのか?」

いや・・・

ほっといてくれ。

俺は笑いを堪えるのに必死なんだ。

吸血鬼?

「エリサ、ブタに羽が生えた珍種は居るが、吸血鬼は何処だ?」

「てめぇ、ふざけてんかこるぁ!」

「そうだぞご主人、こいつが吸血鬼だ!」

嘘だろ・・・

エリサが真面目な顔で興奮剤を口にするのを見て俺は愕然とした。俺の吸血鬼のイメージを返せこのやろう。

「はぁ・・・」

俺は煙管を銜えると、吸い込んで溜息と一緒に煙を吐き出した。

「何をがっかりしてやがんだ!失礼だろうがこるぁ!」


咆える吸血鬼を見るが、何度見てもがっかりだ。毛の生えた丸っとした胴体。ブタの鼻が突いた顔に蝙蝠の羽。それっぽいの、羽だけじゃねぇか。

まだデカい蝙蝠なら、蝙蝠の事かよ!って突っ込めもしたが、ブタじゃなぁ・・・

だがノリは悪く無い気がする。

「うげ!ワーウルフかよ!くそ!」

狼化したエリサを見るなり、悪態を付きつつもブタは目を光らせた。

ぐぉ・・・

頭が割れそうだ。エリサも同様に頭を抱えている。こいつは流石にきついな、これを続けられたら意識が飛びそうだ。

「どうだ、俺様の音波攻撃は!」

なるほど、どちらかと言えば蝙蝠なんだな。が、そんな事より。

「バカか。」

「うぉあっぢぃぃぃっ!!」

得意げに喋った事で音波が止んだから、ブタの鼻に煙管の火種を落としてやる。ブタは鼻をちっさい手で押さえながら走り回った挙句、岩肌に激突して沈黙した。

「・・・」

「動かなくなったぞ。」

アホだな。

「このまま殺すか?」

狼化していても、その言葉を言うエリサの目は、殺すのは嫌だと言っているようだった。そんな温い事じゃ、ギルドの依頼なんて務まらないだろうが。


「いや、ちょっと話してみたいから、押さえとけ。」

「分かったぞ。」

会話が可能な相手を殺すなんて面白くもなんともねぇ。確かに金は欲しいし、それがこの世界の当たり前なんだろうよ。

種族が違うからと言って、問答無用で殺すのがこの世界の当たり前なら、そんなもんクソくらえだ。俺からしてみれば愉快な奴らでしかない。まぁ、殺しに来るってんなら返り討ちにしてやるが。

そりゃ自分の身を守るのは前提だ、俺の命は俺の物だからな、好き勝手にされる謂れはない。

「おい、起きろ。」

ブタはゆっくりと目を開けると、驚きで目を見開いて硬直する。鼻の一部はすっかり真っ赤になっているが、自業自得だバカ。

「くそ!卑怯だぞ!」

「何処が?」

「いや、油断しているとこへの攻撃が・・・」

「当たり前の事じゃねぇか。」

「・・・」

一応、理解はしているらしい。目を逸らして黙りやがった。

「ところでさ、お前は何をしたんだ?何か悪さをしたからギルドから討伐依頼が出てるんだろ?」

ブタは少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。

「その、ちょっと音波で脅かしたり、食料をくすねたり・・・」

「他には?」

「いや、本当にそれ以外はしてねぇんだ。信じなくてもいい、どうせ人間なんて他の種族はみんな敵としか思ってないだろうからな。だが俺様は自分に嘘はつきたくないんだ!」


多分、人間の方が嘘をつくだろうな。こいつらが嘘を付かないなんて事はないだろう。まぁ、エリサとか普通に嘘を吐くしな。

ただ、程度の問題もあるだろうが、自分に正直に生きている奴の方が多いんじゃねぇか?そんな気がした。

「しかしお前、面白ぇな。」

「ま、まぁな。俺様くらいになるとその存在自体が・・・」

「調子に乗んな。」

「いだっ!何すんだこるぁ!」

取り敢えず調子に乗ると五月蠅そうなんでひっぱたいてみたが、気に入らなかったらしい。

「あっ?」

「いえ、すいません、何でもないっす。」

そこから腕を組んで睨みつけてみたら、大人しくなった。こいつ、口だけの小心者だな、きっと。

だけど、このブタこそ口調といい、煙草を吸いながらうんこ座りさせたいな。威勢だけならホージョ達よりそれっぽい。

「おいブタ。」

「ブタじゃねぇって言ってんだろうが!」

「なんだって?」

「いえ、何でしょうか?」

おもしれぇ。

「エリサ、離していいぞ。」

「いいのか?」

確認してくるので、頷くとエリサは押さえつけていたブタを解放する。

「バカめ!拘束さえ解ければ貴様らなんぞ俺様の敵じゃ・・・」

だと思った。俺がエリサに目で合図をすると、ブタの首にエリサの爪先がプスっと刺さり黙った。

「まだ立場、理解出来ねぇ?」

「したっす!」

多分直立の姿勢だろう、そんな恰好をしてブタは言った。


「まず、俺の真似をしてみろ。」

「はい!」

俺は煙草を渡すと、ちっさい指の間に挟むようにやってみせる。マジで指短ぇな。そこから火を点けて吸い込むと、煙を吐き出す。やっぱ紙巻はきついな。

「ぶぇほっ!げふぉっ・・・殺す気かぁ!」

予想通り咽たな。

「いや、そのうち慣れる。これが男の嗜みって奴だ。」

「お前は雌だろうが!」

「何か言ったか?」

「いえ、何でもねぇっす。」

「で、ここからこうだ。」

俺はうんこ座りをしながら、煙を吐きながらブタを睨め付ける。

「お、おぉ、迫力があるっすね。」

「やってみろ。」

「はい!」

・・・

ぶははははっ。

足が、足が短すぎて座ったかどうかわかんねぇよ。確かにちょっと曲がったけどさ、変わらねぇ。

やべぇ、面白すぎて噴き出しそうだぜ。

「どうすか?」

「かなりイケてるな。」

俺は必死に笑いを堪えながら、親指を立てて見せた。

「あざっす!」


さて、おふざけはこれくらいにして、本題に入るか。

「エリサはこのブタ、殺したいか?」

「ブタじゃねぇっての!」

誰かにそっくりだな、反応が。

「ううん、あたし、イヤだ。」

「奇遇だな、俺もだ。」

「ご主人・・・」

エリサは気の抜けた声を出すと、目元を緩ませた。同時に、狼化が解除されて人型に戻る。気持ちの問題なんだろうな、薬を使わずに戻ったのは。

「いや、お前ら俺様を殺しに来たんだろ?何を言ってんだ?」

まぁ、そうなんだが。

「俺の下で働く気は無いか?」

「何で俺様が人間の下で働かなきゃならないんだ。」

そうだよな。

「俺は別にこのまま帰ってもいい。だけど、依頼の失敗は信用に関わるから避けたい。それに、お前だって新たに依頼を受けた奴が殺しに来るんだぜ?」

「・・・」

「だったら、悪い話しじゃないと思うんだがな。」

「なんでそこまでするんだよ。」

何故って言われてもなぁ。

「面白いから。」

「よぉし、ふざけんなコノヤロー!」

ブタは口だけで、何かをする素振りは無かった。

「本当に、良いのかよ?」

「あぁ。そうと決まれば、着いて来い。仕事場に行くぞ。」

「分かったよ。」


「ところで、名前はなんなんだ?」

「俺様か?俺様の名前はシマッズだ。」

・・・

二の太刀要らずの示現流ですね。って、この辺の奴ら名前おかしいだろ、絶対なんか狙ってるって。

「俺はリアだ。」

「あたしエリサ!」

「で、吸血鬼って事はやっぱり血を吸うのか?」

何かそんな風には見えないんだが。ブタだし。

「俺様の種族であるブタコウモリは血を吸うなんて野蛮な真似はしねぇ。主食は野菜だ。」

・・・

「やっぱりブタじゃねぇか。」

「今はその話しじゃねーだろうがこるぁ!」

こいつ、なかなか面白いな。

そんな自己紹介程度の会話をしながら、俺たちはホージョのところに戻った。




「おぉリア殿。見事吸血鬼を捉えたか。」

「まぁな。それで今日から此処の番犬だ。」

「誰が犬だこるぁ!」

「例えだ、ちょっと黙ってろ。」

「はい・・・」

ホージョ達に紹介しようと思ったんだが、直ぐに乗ってくるから若干五月蠅い。まぁ、ノリが良いのは悪い事じゃないんだが、状況は把握して欲しいもんだ。

「どういう事だ?」

「今後の拡充に備え、やはり畑の監視も必要になって来ると思うんだ。そこでこのブタだ。」

「ブタじゃねぇっ、コウモリだ!」

どっちでもいい。

むしろ見た目はブタじゃねぇか。

「夜行性で指向性の音波攻撃も可能だ、夜間の監視としては悪くはないと思うんだが。もちろん、昼間もある程度は手伝ってくれる。」

「ふむ。確かに悪くはないが・・・」

まぁ、戸惑うのも無理はねぇよな。

「ちょっと相談して考えてみてくれ。」

「うむ、暫し待たれよ。」


「なぁ、あれ流行ってるのか?」

うんこ座りで煙草を吸いながら話すホージョ達を見て、シマッズが聞いてくる。

「流行ってるも何も、此処が流行の発信地だぞ。」

「ホントか!?」

うん、嘘は言ってねぇ。広がってないだけだからな。

「姐さん、俺様・・・いや俺、此処で働きてぇっす。」

姐さんって・・・

こいつら何処かで日本の変なドラマとか見てんじゃねぇのか。

シマッズはそう言うと、うんこ座りしながら煙草を吸い始めて咽た。まぁ、そんな直ぐには慣れないだろう。

「しかし姐さん、ワーウルフもそうですが、オークまで味方に付けているなんて、流石っすね。」

何が流石なのかさっぱり分からねぇ。

と思ってホージョ達の方を見ると、煙草を吸うシマッズに注目していた。それから顔を合わせ頷くと、ホージョがこちらに向かって来る。

「シマッズと言ったな、なかなか見どころがあるではないか。」

・・・

「ありがとうございます、ホージョの兄貴。」

・・・

「早速だが、明日から宜しく頼むぞ。」

・・・

「勿論です、頑張ります!」

・・・

うんこ座りで煙草を吸うのが採用の条件じゃねぇだろうな。いや、さっきの流れを見る限り絶対そうだろ。変なコミュニティが出来なきゃいいが。

「まさか吸血鬼まで引き込むとは思わなんだ、流石はリア殿。」

だから何が流石なんだよ。

「俺、姐さんのために頑張るっす。」

まぁ、いいか。


「エリサ、腹減ったな。」

「ペコペコだぞ!」

「買い食いして帰ろうぜ。」

「やった!」


意気投合し始めたシマッズとホージョ達を横目に、エリサとそんな事を話して帰る事にした。



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