表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/69

11.教えた覚えは無いんだが

俺は今、王都行の馬車乗り場に居る。調べたんだが、王都は思ったほど近くは無かった。途中、ウネウスという町で一泊の道程だ。行くだけで一泊二日とか、遠すぎだろう。車があればきっと数時間だろうに。


そんな理由から、エリサを置いて出かけるわけにもいかず、同行させる事にした。

「王都ってどんなところだ?」

「俺も知らねぇ。ただ、この街より大きくて人も多いらしい。」

「旨い物あるかな。」

「人が集まる場所には、旨い食い物も多い。あるんじゃねぇか。」

「楽しみだぞ。」

それは俺も一緒だ。別にこの街が悪いってわけじゃねぇ。一長一短なんてどこにでもあるもんだが、俺は都会に住む方が好きだ。

あれだ、住所に東京都と書きたいから高い家賃を払って都内に住む感覚だな。まぁ、それを此処で言っても意味は無いが。


しかし、行き来にこんなに時間がかかるのであれば、今回で決めてしまいたいな。もっとも、妥協はするにしても望みとかけ離れていれば諦めざるを得ないが。

「黙って行くなんて酷くない?」

キッチンとダイニング、部屋は3つ。それと店舗スペースだな。それに小さくてもいいから書庫に出来るスペースがあればなお良しだな。

「私だって住むんだからね。」

なんか聞き覚えのある声がするが、気のせいだろう。被害妄想からくる幻聴に違いない。

「聞いてる?」

・・・

「何故お前が此処に居る?」

「だって、王都に物件探しに行くんでしょ?」

おかしい・・・おかしいぞ。

俺は店には何も掲示していない。休店とも書いてないからな。それに、資金を満たしている事も、王都に行く事も一切話してもいない。なのに何故、アニタは此処にいるんだ?

「自分の行動が不自然だとは思わないのかストーカー女。」

「すとーかーって何よ?」

それは通じないか。

「どうして俺の行動を把握してんだよ?」

「だって長い付き合いだし、何となく?」

何となくでここまで知る事が出来るか・・・

「あと、エリサが教えてくれる。」

このクソ犬・・・

そう思ってエリサを探したら、少し離れたところで走る馬車に目を輝かせていた。逃げてやがる。

あれは確信犯だな、後で覚えとけ。


「で、今日は下調べ?」

ここまで来たら隠してもしょうがないか。

「いや、良い物件があったら決める。」

「え、お金は足りるの?」

「アニタも少しは出すんだろ?自分が住む家なんだから。まさか年下の俺に全部出させようとか思ってねぇよな?」

「・・・」

おい・・・

「私たちって、家族でしょ。」

おぅ、都合の良い言葉を持って来やがったな。

「家族なら尚更、年上が出すべきだよなぁ?」

「・・・銀貨、10枚くらい、なら・・・」

よくそれで家族だの一緒に住むだの言って来たな。だいたい、前からそういう話しが出ていたなら少しは蓄えておくもんじゃねぇのか。

「話しはしてたよな、王都に家を買う。」

「うん。」

「何で貯めてないんだ。」

「貯めたわよ!10枚・・・」

ダメだ・・・

何に使ったのか気にはなるが、聞いても不毛な思いをしそうでならない。もう少し建設的な会話が出来るなら続ける意味もあるが、期待出来そうにねぇ。

「仕方ねぇ、残りは胸を揉む刑で許してやる。」

「え、それでいいの?」

え、それでいいの?

俺が聞き返したい。だが言ってみるもんだな。どうせこいつらが居る居ないに拘わらず買うつもりだったんだ。

「うむ。もちろんだ。」


「お、ご主人、馬車が来たぞ!」

やっぱ後ろからだよなぁ・・・

そんな妄想をしていると、エリサが声を上げた。やっと来たか、初の王都という事もあり、楽しみではある。

「お前は走れ!」

最初に乗り込もうとしていたエリサを蹴飛ばして馬車に乗る。

「また意地悪した!あたしでも長時間は無理だぞ。」

「大丈夫よ、冗談だから。」

後に続いたアニタが、そう言いながらエリサの手を取って馬車に乗せる。

いや、俺は本気だったんだが。




ヘリサ村と違い、長時間乗る馬車の椅子にはしっかりとクッション性が備わっていた。だがしかし、いくら施そうと、木枠がベースな事には変わりが無い。

つまり、ケツが痛ぇ・・・

もう一つ大きな違いは、料金がかなり高い事だ。ただ、これに関しては中継地点の町にテントが設えられていて、寝る場所、朝夕の食事込みの金額だった。そう考えれば決して高いとは言えない金額ではある。

だが、自分の分だけなら、だが。

エリサには代金分の働きはそのうちしてもらおう。

込みの価格で考えれば高くないとは思ったが、何度も往復するにはやはり嵩んで来る。ちょっとした旅行だな、王都なんて。




この世界では物件紹介所というらしい。不動産屋はと聞いたら、何意味不明な事を言っているんだ?という様な反応で返された。

ふざけんな。

セルアーレの物件紹介所がどんなものか見に行ってみたら、内容に関しては大差なかった。お勧め物件が掲示されていて、賃貸や売り地、建売などを紹介している。

というかまんまだ。

どこの世界も人が住んでいるところなんて、大差ないのかも知れない。


という事で、早速王都ミルスティの玄関口である、アイエル区の物件紹介所を訪れた。希望の間取りを伝えると、2件あると言うので案内してもらう事に。

店舗スペース込みとなると、どうしても商店街等、店舗が並ぶような場所にしか無いそうだ。じゃなければ自分で建てるしかないが、今のところ都合のいい売地は無いんだとか。別にそこまで拘りは無いから、見てから決める事にした。


2件とも作りに大差は無い。求めている3部屋プラス店舗スペース。どっちも風呂は屋内で今に比べれば全然良い。それとは別に小部屋もあったので本も置けるだろう。

ただ違いがあるとすれば、庭が付いている事と、立地だけだ。

王都の城壁から一直線に伸びる大通り、その通り沿いにある方の建物は避けたい。何故なら、俺のやろうとしている仕事上、大通りとかに構えたくはない。

となると、一本外れた場所にある家の方が当たりだな。何より、庭も付いているので薬草の栽培も可能だ。迷う以前に一択だな。


まぁ、物件をみながらエリサは物珍しそうにしているだけだったが、アニタはこれは良いけどここはちょっと、とか。ああでもねぇ、こうでもねぇと独り言のように言っていた。

うるせぇ、俺が買うんだ。




「では、先ほどのタリッタ通りの物件で宜しいでしょうか?」

「あぁ。」

紹介所に戻った俺は、早速購入を決めた。こんなのは早い方がいい。どのみち、金なんて蓄えていてもしょうがねぇ。正当に手に入れたかの是非を問われるような金は、さっさと使っちまうに限る。

だから、リア自身が貯めた分については、今後の生活に充てようと思った。

「えぇ!もう決めちゃうの?」

五月蠅いな。無視だ無視。


「では、手数料・紹介料込みで、これくらいでどうでしょう?」

紹介所が提示してきた価格は大金貨で63枚。建物としては古く、長い事その場所で使われていたらしい。だから古い分、同じ広さの物件よりも安目に提供してやれるそうだ。

まぁ、払えない事は無いが・・・

「維持管理の部分でいまいちだったな。入る前に清掃してくれるならそれでいいが、こっちでやるんだったらもう少し安くならないか?」

日本じゃ当たり前の事だが、ハウスクリーニングやリフォームなんて、次に売るたに必要な事だった。だが、こっちにはその概念は無いのだろう。だが、敢えて。

「基本、清掃は住む人に行って頂いていますので。ただ、前の人の家具などはそのままにしてあります。後から調達する分を考慮すれば、お得かと。」

使いたい人にとってはな。

「俺が住むのに俺が使いたい家具じゃねぇ。自分の使い勝手が良いものを自分で用意したいんだ。だったら価格はそのままでいいから、今ある家具を撤去してくれ。」

だが俺にとっては不要な家具も多いし、好みもある。

まぁ、この世界の家具は殆ど見た事は無いが。

「片付けるのが面倒だから残してたんじゃないのか?安い買い物じゃねぇ、だったら自分に合わせて用意したいと思うのが当たり前だろう?」


その言葉に一瞬反応を見せたから、多分当たらずとも遠からずだな。維持管理は労力も金も掛かる。放置する紹介所も多そうだ。

「それはその・・・でしたら、これでどうでしょうか?」

61枚・・・

正直、大金貨1枚でもそれなりの金額だ。これは大きい。割引をするという事は、もう少し行けるんじゃないか?そう思うのが人間の性だよな。

「切りの良いところにしてくれたら、即決するが、どうだ?」

俺がそう言うと、紹介所の奴は渋い顔で悩む。多分、演技だろうが。

「分かりました・・・」

「ちょっと、お金そんなに貯まってないたっ!・・・」

黙れアホ女。

余計な事を言い出したアニタの脛を蹴って黙らせる。

「あの、お客様?」

「大丈夫、ちゃんとある。で、60で良かったんだよな?」

「はい、即決という事でしたら。」

「じゃぁ、決まりだな。」

「何で蹴るのよ!」

邪魔くせぇ。

「はい。一応、前金だけでも担保として入れて頂き、それで確定としたいのですが?」

「その必要はない。」


怪訝な顔をする紹介所の奴を前に、俺は背中に背負った袋を下ろそうとする。

大金のため、厳重に身体に縛り付けているので面倒だ。金属の擦れる音を極力防ぎ、ひったくられないようにしていたからな。あと、単純に重くてこの身体じゃ手持ちはきつい。

袋をやっと外した俺は、ゴトっという音と共にテーブルに置く。

「今即金で払うさ。」

「えぇ!」

うるせぇな。

隣で大きな声を出すな。うんざりするも、驚きの声を上げるアニタを無視して袋から金貨を取り出していく。

流石に、紹介所の奴も驚きを隠せなかったようだ。まさか即金で払うとは思って無かったのだろう。

「これで60枚。問題ないだろ?」

「は、はい!もちろんでございます!」

明らかに顔つきが変わったな。もしかして、もっと安かったのか?ふとそんな事を思ったが、俺はちょっとした駆け引きをした事で満足していた。そりゃ都内に居た時なんて、家を買った事もないからな。

賃貸で値引き交渉なんてするわけもねぇし。

だから、一度こんなやり取りをしてみたかったんだよ。

「では、契約の手続きを進めさせてもらいます。」

「あぁ。」




「さぁ、今日からここが俺の家だ。」

一度確認はしに来ているが、購入後に改めて来ると感動だ。正直、都内で家なんざ夢だったからな。まさか異世界に来て自宅を購入するなんて、それ以上の夢物語だ。

「よーし、部屋決めるぞ!あたしの部屋!」

テンション爆上がりで走っていくエリサだが、お前に決定権は無い。

「で、何であんな大金持ってるのよ。」

「そりゃ、仕事の報酬だ。」

「まさか、危ない仕事なんてしてないでしょうね?私はリアの保護者でもあるんですからね!」

うぜぇ・・・

「してねぇよ。」

これからはそうもいかないだろうが。

「それに、保護する側に住まわせてもらうのが保護者か?」

「う・・・」

実際その辺はどうでもいい。自炊しなくても良さそうだし、使えそうな犬も居る。そう考えると、生前の俺と違って今の俺はかなり幸運な気がするな。


「帰ったら早速引っ越しの準備だな。」

「そうだ。私も部屋の整理したり、挨拶したりしないと!」

するほどか?

遠くに行くわけでも無し・・・

いや、一泊必要な距離なら遠くか。

「なぁなぁご主人!」

「何だ?部屋割りは俺が決めるからな。」

「いや、あたし此処で待ってていいか?あの乗り物はもう乗りたくない。」

・・・

「つまり留守の間、番犬として残りたいんだな?」

「犬じゃないがそうだぞ。」

「じゃぁ、戻って来たらもう要らねぇ。」

「酷いよ・・・」

大体、お前が居なかったら誰が荷物運ぶんだよアホ犬。

「荷馬車も借りないとだめね。」

「あぁ、特に本と薬だけはちゃんと運ばねぇとな。」

店舗になる部分の室内を見渡しながら言う。今の住処よりも広い。棚だけじゃなく、平台を使って販売する事も可能だ。それに、本は別室に移動するから、店内だけでも快適になるだろう。


「とりあえず今日はここに一泊するか。」

「賛成、歩き回って疲れたし。」

「あたしも賛成。」

「まずは飯でも買いに行くか。」






「リアちゃん久しぶり?最近見かけなかったけど。」

「そんな気もするな。」

あれから新居で一晩過ごした後、セルアーレ戻って来た。一応、俺が顔を出していた場所と言えば主にギルドだ。

まぁ、あれだ。挨拶だな。

「今日も任せられそうな依頼は来てないよ。」

「いや、今日は依頼を確認しに来たんじゃねぇよ。」

「ご飯?」

いや、もう誘わねぇ。前も思ったが良い予感がしないというか、どう説明していいか分からないが、そんな気分になれねぇ。

「俺、王都に引っ越す事になったから、挨拶に来ただけだ。」

「えぇっ!」

なんだろう。

前々から引いた顔は可愛くねぇと思っていたが、驚いた顔も可愛くねぇ。おかしいな、普通にしている時や笑顔はかなり可愛いんだ。

珍獣か?

「そんなぁ、寂しくなっちゃうよ。今度は私が誘おうと思ってたのに。」

「前から決めていた事だしな。」

それに俺は寂しくねぇ。

「何時から行くの?」

「もう家も買ったし、数日中には。」

「えっ!?何時の間に家を買うほどまでに、ほとんど依頼なんて受けてないくせに。」

うるせぇ。

あとその顔やめろ。

「普通に店をやってんだろうが。」

「あ、そか。」


「まぁ、それだけだ。」

「あ、ちょっと待って。どの辺に住むの?」

帰ろうとした俺を引き留めてそんな事を聞いて来る。個人情報だぞ。という概念は無い気がするが。

「アイエル区だったかな。」

「なら丁度良かった。」

なにが丁度いいんだ?まさか実家があるとかじゃねぇだろうな。

「王都のギルドに妹が居るんだ。アイエル区なら妹が居る支部の範囲だから、ギルドを利用するようなら言っておくけど?」

へぇ、姉妹でギルド勤めねぇ。まぁ、伝手があった方がいい気はするな。

「そうだな。向こうでも依頼は受けておきたいしな。」

「うん分かった、じゃぁ伝えておくよ。」

「ありがとな。」




それから数日、店を開きながら引っ越しの準備を進め、その当日がやってきた。そんなに惜しまれる事も無くセルアーレを出発する時が来た。

荷物も、俺は馬車を引けないので、高く付いたが御者付きの荷馬車を2台借りた。アニタはアニタで借り、自分で手綱を握っていたが、まぁ様になっていたな。ちなみにアニタの銀貨10枚は、荷馬車すら借りれず俺が出す羽目に・・・

なんだかんだで、引っ越し費用もそれなりに掛かった気がする。


明日からは王都で暮らす事になる、使った分の金も稼がなければならない。知らない土地、知らない人間、商売もうまくいくだろうか。

幾つになってもそういう不安ってのは無くならないが、楽しみでもある。


そんな期待と不安を抱え、俺はセルアーレを発った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ