09.鋭すぎなんだが
あれから数日、いつも通り開店して間もなくの事だった。目の前には神々しくさえ感じる二つの膨らみが居る。
「以前も利用しているのだから、わたくしが此処に居ても不自然じゃありませんわ。」
「確かに、その通りだな。」
メイニは言うと、小さな小袋をカウンターに置いた。甲高い金属が擦れる音が小さく漏れる。
「それで、準備の方は?」
「あぁ、終わってるぜ。メイニの方は。」
「問題ありませんわ。」
不敵な笑みを浮かべてメイニは言った。
「もともと我が家の流通はお爺様が作ったもの。その商流は殆どわたくしが回していますわ。もちろん、先方はすべて根回し済みで、わたくしの財産も移動済みですわ。だから、既にあの家には兄の小遣い程度のお金しか残っていません。」
やり手だとは思ったが、まさかここまでとはな。
いやぁ、敵に回さなくて良かったぜ。
「それで、事が済んだらどうすんだ?」
「王都に引っ越しますわ。そちらも既に手配は終わってます。」
なるほど。抜け目が無いな。
「それより、本当にその薬は大丈夫なんですの?」
まぁ、心配は分かる。
「問題ない、実際に自分で試したから、余程の事が無い限り大丈夫だろう。」
俺がそう言うと、メイニが目を見開いて驚くが、直ぐに苦笑する。
「自分で試すとは呆れますわ。」
「不確かなモノは渡せないだろ。誰かで試すわけにもいかねぇし。」
鼠に使って成功したからと言って、確証は得られない。もっと精度の高い結果が必要だったんだよ。
「そんな事は分かっています。自分を使って実証しようという行動に対して言っているのですわ。ですが安心しました。」
実際、かなり躊躇いはしたんだが。それでも信用を得られたんなら、今後にも繋がるだろう。メイニの存在は、俺にとってプラスになり得る存在だと思えばだ。
「それと、これは直前に飲んでおいてくれ。」
俺はカウンターに用意していた紙袋を渡す。
「これは?」
「あの薬はかなりの痛みを伴うんでな、その緩和のためだ。」
「分かりましたわ。」
俺も飲んでから知ったんだが、それでもメイニはそれ込みで受けっとってくれた。
「では、今夜お待ちしておりますわ。」
「あぁ。」
メイニが店を出た後、俺は小袋の中身を確認した。間違いなく倍額が入っていた。後は成功させれば、かなりの大金を手に入れる事になる。
そう思うと、自然に笑えて来た。
夕方、俺はメイニの所に出かけようと準備をしていた。流石にエリサを連れて行くわけにもいかないから、先に食料だけでも用意しておこうと。
「あれ、どっか行くの?これからご飯なのに。」
店に入って来たアニタが、俺を見るなりそう言った。そういうところだけは目敏いなと思って、慌ててカレンダーを見る。
しまった、今日はアニタが夕食を作る日だったか。
「あぁちょっと・・・いや、丁度いいか。」
「何が丁度いいのよ。」
「出かけるから、エリサの晩飯でも買おうと思ってたんだ。アニタが来たんなら、それも必要ないなと思ってよ。」
手間が省けたぜ。
「え、こんな時間に何処にいくのよ。」
面倒だな。
「仕事だよ。」
「私も行く。」
アホか!何処でも着いて来ようとすんなよ。
「仕事だって言ってんだろ!大事な内容なんだ、邪魔しないでくれ。」
思わずマジで言っちまった。だが失敗は出来ない上に、誰かを連れて行く事も出来ない。そんな状況で行くとか言われたら、苛つくに決まっている。
「分かった。」
不服そうだが、アニタは一応納得してくれたようだ。
それから店を出て、メイニの家に向かう。納得したように見えたアニタに関しては、信用していないので周囲を確認しながら移動した。
目的地に着くと、メイニに案内され屋敷の中に入る。
いいなぁ、俺もこんな豪邸に住みてぇよ。まぁでも、今の俺なら、時間は掛かるが可能かもしれん。
応接間に入れられると、そこにはサイナスも居た。聞かされて無かったのか、俺を見た瞬間驚きの表情をして直ぐに顔を逸らした。
態度が露骨過ぎなんだよ阿呆。
「そちらにお掛けになって。」
俺はメイニに促されると、大きなソファに座る。俺が4人ぐらい座れそうな程大きく、ふかふかだ。こいつで寝たら気持ちよさそうだな、俺のベッドと交換して欲しいくらいだぜ。
「紹介が遅れましたわ、こちらはわたくしの兄で、サイナスと申します。」
初対面の体でメイニが言うので、俺は軽く会釈をした。
「初めましてリア殿。妹の睡眠障害に助力頂いたとか、感謝しております。」
当然サイナスも、それに合わせて挨拶をしてきた。
事情を知っているから、見てると滑稽だな。
あと、面倒くせぇ。
「わたくし、お茶の準備をしてきますわ。」
「あ、僕がやるよ、メイニの客だろ。」
「いえ、せっかくですから、兄様にお願いしますわ。」
客の前で押し付けあってんじゃねぇよ。まぁ、メイニの方は明らかに嫌がらせだろうが。
「まさか家に来るとは思っていませんでした。」
「俺だって思ってねぇよ。」
二人になると、困ったような顔でサイナスが切り出す。困られても俺も困る。むしろ、今こそ好機だと思うもんなんじゃねぇのか。
「準備はしてきた。」
「もしかすると、そう思っていたのですが、やはりそうでしたか。」
「今更怖気付いたんじゃないだろうな。」
「いえ、それはありません。」
サイナスの顔を見るに、確かに躊躇っているようには見えなかった。流石に覚悟は決めているのだろう。
「隙を見て飲み物に薬を入れる。無味無臭だから気付かれはしない。」
「私が、その隙を作ればいいんですね?」
「あぁ。で、その後はどうするんだ?」
あまり興味はねぇが、時間も余ってる中で無言ってのも耐えられそうにねぇ。
「メイニは商流の新規開拓のため、別の地に暫く行ってもらう事になってます。」
なるほど。居なくても問題ない理由ってわけか。
「実際は、既に用意している桶に入れて、埋めますが。」
さらっと恐ろしい事を言いやがったな。自分で手を下す気も無いくせに、そういうところでは周到なところが嫌な奴だ。
「出来れば、今夜中に片を付けたいですね。」
そりゃ同感だ。
そう思ったところで、メイニが戻って来る。
「お待たせしましたわ。二人で何の話しをしていたんですの?」
物騒な話し。
とは言えないよなぁ。
「メイニの睡眠に関して相談に乗って貰えるなんて、有難いというのと、実際に薬に関しては若いのに博識だなと感心させられていたところですよ。」
よくまぁ、次から次へと出て来るもんだな。一応、商売人の端くれってところか。
「そうですの。わたくしの為にご足労頂いて感謝してますわ。前回もリアさんの薬で助かったので、今回もお願いしようと思いましたの。」
「私も感謝してますよ。是非、妹の力になってください。」
メイニが紅茶を並べなが言うと、サイナスは俺の方を見て笑顔で言った。小心者と思い込んでいたがこの男、ある意味質が悪いな。
「では早速ですが、聞いて頂けますか?」
「あぁ。」
この茶番、何時まで続けるんだよ。
「折角来て頂いたのに、お茶請けも出さないのは失礼だろう。」
メイニが話し始めようとするとサイナスが立ち上がって言った。まぁ、サイナスにとってはどうでもいい話しだからな。仕掛けるならここだろう。
「これは気付きませんで、失礼しましたわ。今持ってきますね。」
「いや、メイニは相談を続けてくれ。リアさんをこれ以上待たせても失礼だ、ここは僕が取って来るよ。」
「ですが兄様、何処に何が在るかご存知ですか?」
早くしろ、飽きた。
「いや、それは・・・探せば。」
「それこそ失礼でしょう。わたくしが取って来ます。リアさん、もう少しお待ち頂いていいですか?」
「あぁ、問題ない。ちょうど小腹も減っていたところだ、厚かましいとは思うが、あれば嬉しい。」
「ではお待ちください。」
やっとか。
いそいそと部屋を出て行くメイニを見送ると、俺はサイナスの方を見た。同時にサイナスも俺の方を見て来る。
男と目で示し合わせるとかしたくねぇな・・・
とりあえず頷いて来たので、俺も頷き返して小瓶を取り出し、メイニの紅茶に薬を一滴投入した。
「後はメイニが飲むだけだ。」
「・・・」
もう後には引けない。サイナスにもそういう思いがあるのか分からないが、無言のままメイニのカップを見つめていた。
少し経って、皿に並べられたクッキーを持ってメイニが戻って来る。俺は置かれてすぐ、手に取ると口に放り込んだ。
「行儀が悪く申し訳ないが、晩飯がまだなんでな。遠慮なくもらうわ。」
二つ目を手に取り言うと、サイナスは呆れて見ていたが、メイニはクスっと笑った。いやぁ、美人の笑顔はいいですなぁ。
そこでメイニは紅茶を一口飲んで、一息ついたように息を吐き出す。
「最近、また寝付きが悪く、眠れない日が増えて来たのです。気付くと朝方になっており、ほぼ睡眠が取れない日も。」
何事も無かったかのように話し出すメイニ。その様子をサイナスはじっと見つめていたが、見んな、アホか。もっと自然にしてろよ。
「取り敢えず、前回の薬で様子を見て、改善しなかったら成分を変えて行こうと思うがどうだ?」
「そうですね。そうしましょう。」
「薬は飽くまで補助的なものでしかない。改善しようと思うなら、妨げになっている何かをどうにかした方がいいんじゃないか?」
おぉ、俺、それっぽい事言った。
「そうですわね。」
メイニは頷くと、睨むようにサイナスを見る。当の本人は目を逸らしたが。いやぁ、なかなかやるな、メイニのやつ。
「そこはわたくしも努力を・・・」
そこでメイニは胸を抑えて立ち上がると、倒れ込んで藻掻き、やがて動かなくなった。
「死んだ・・・のか?」
アホか。そうじゃなきゃ俺が薬を持って来た意味がねぇだろうが。
「信用してねぇのか?」
俺は動かなくなったメイニの傍に移動しながら聞く。
「いや、そういうわけでは・・・」
腕に指を当て脈を確認する。止まっている事が分かると、口元に耳を近づけ、呼吸が無い事も確認して、最後に胸元に顔を持って行く。
俺は耳を胸に付けて、心臓が止まっている事も確認した。
・・・
続けて、床に突いていた両手をメイニの脇に持って行き、両側から押し上げる。
お・・・おぉ!!
何という感触!
質量といい張りといい、間違いなくアニタ以上だ。これぞ神の産物!
神様、ありがとう!
「問題なさそうだ。不安なら自分で確認しろ。後で文句を言われても聞かねぇからな。」
何事も無かったように立ち上がると俺はサイナスに言った。その言葉に多少の不安を持ったのか、サイナスも同様に確認した。
「確かに、呼吸も脈も無い。流石ですねリア殿。」
「そりゃ仕事だからな。ここまで来て失敗はないだろう。」
「報酬を上乗せするので、もう少しお手伝い頂けませんか?」
ほう、それは願ったりだ。
「つまり、埋めるとこまで付き合えと?」
「はい。」
「プラス10枚ならいいぞ。」
つまり、前金3、成功報酬15だったのだが、さらに吹っ掛けてやる。無理を言っているのは分かっているが、それくらいは貰わないとやってられない。
というのは建前で、こっからは駆け引きだ。
サイナスは渋い顔をして俺を睨んで来る。それは流石に多すぎだって事なんだろう。
「口止め料も含んでいる。殺したところまではいい、だがこの先はどう処理したか、どこに遺体があるのか、その情報まで抱える事になるんだ。労力以上に重荷を背負うんだから、俺は高いとは思わないが?」
サイナスはその内容に、睨むのは止め多少考えてから頷いた。
「分かりました、それで手打ちにしましょう。」
勝った。
それから、桶にメイニを入れると、こっそり屋敷から運んで、サイナスが目星を付けていたと言う山に埋めた。街に入る前にお互い別れ、別々の帰路で家まで戻る。
翌朝、店を開けるとサイナスが約束通りの報酬を置いて行った。袋を置くとき渋い顔をしていたが、それ以外は晴れやかな顔をして。
「なぁご主人、この先に何があるんだ?」
「秘密だ。」
その夜、俺はメイニを埋めた場所に向かっていた。サイナスの事だから、俺に手伝わせようとするのは想定内で、当然そうなった。
「あたしは何で連れて来られてんだ?」
「穴掘り。」
「犬じゃないぞ!」
「単純に力仕事を頼みたいだけだ。」
「あ、そうなのか。まぁ、ご主人弱そうだもんな。」
うるせぇ。
非力なのは俺の所為じゃねぇぞ。
「お前こそ、そんなに強そうには見えないぞ。」
「そんな事はないぞ、この爪でご主人の首なんか軽く飛ばせるもん。」
飛ばすな。
また首かよ。
俺、また首がどうにかなって死ぬんじゃねぇだろうな・・・
ふとそんな事を思わされた。
「それと、周囲に人間、若しくは危ない奴が居ないか警戒も頼む。エリサならわかるだろ?」
「おう、任せろ。」
いやぁ、役に立つ犬で良かったわ。何しろ言葉が通じるのは便利だ。
「此処だ。」
俺は持ってきたスコップで穴を掘り始める。一度掘り返しているから、昨日ほどの力が必要ないのは楽だった。
「狼になったらもっと早く掘れるんだけどなぁ。」
「なればいいじゃねぇか。」
むしろ何故そうしない。何のために連れて来たと思ってんだよ。
「興奮するとなるし、戻るのも勝手に戻る。自分じゃうまく出来ないんだ。」
使えねぇ・・・
いや、マジ使えねぇ。その上面倒な体質だな。
待てよ。
「なぁ、それ自分で出来るようになりたいか?」
「うん。あたしたちの種族では、それが出来る人狼は尊敬されるんだ。あたしは出来ないけど、出来るようになりたい。」
なるほど、種族内の話しはどうでもいいが、ワーウルフが自分でコントロールする事は難しいと考えていいだろう。
「ちなみに狼化している時に意識はあるのか?」
「あるよ。」
そりゃそうか。白菜を狙って盗むなんて、意識してないと出来ないか。反撃はするが、自分から人を襲いに行ってたわけじゃなし。
となると、興奮剤と鎮静剤を用意すれば、こいつでも自在に変化する事も可能なんじゃないか。そうなりゃ、俺のボディーガードしても使えるな。これは本当に当たりな気がしてきたぞ。
植物を匂いで嗅ぎ分ける能力、人間の悪意を感じる感覚を持ち、防衛手段としても適応できる。
やべぇ、この犬ちょっと使える気がして来たわ。胸が無い以外はな。
「ご主人、なんか出て来た。」
「よし、蓋を開けるぞ。」
俺は掘り当てた桶の蓋を開ける。中には当然、メイニが入っていた。
「そろそろ起きてんだろ?」
「えぇ、土の臭いにうんざりしていたところですわ。」
メイニを二人で引き上げた後、桶には蓋をして埋めなおす。昨日掘ったばかりで土が固まってないから、今日掘り返したなんて分からないだろう。
「おぉ、この前店に来ていたおばさぶっ・・・」
言葉には気を付けろよクソ犬。
拳で殴られ後ろに倒れていくエリサを見ながらそう思った。ってか、いきなり拳が飛ぶとは思いもしなかったが。
「しかし、予定通りですわね。」
「あぁ。」
「それより、わたくしが仮死状態の時に変な事をしたりしてませんわよね?」
・・・
「それどころじゃ無かったっての。」
この女、さっきの拳といい、かなり侮れねぇ。
「そうですね、状況を考えれば当たり前ですわね。ただ、リアさんはどうも見た目とは違う気がしてしまうのです。」
・・・
メイニには、女子のお巫山戯で胸を揉むとか無理だな、多分。その後に鉄拳制裁もありそうだ。
「俺がこんな口調だからか?」
「かもしれません。」
そういう事にしといてくれると助かるんだが。俺の人生的に。
「まぁいいですわ。わたくしはこのまま王都に向かいます。」
早いな。とも思ったが、明るくなってからこの街にいるのも都合が悪いよな。
メイニは言いながら、スカートの片側を捲り手を入れていた。月夜に照らされる白く長い脚は、妖艶に見え惹き付けられた。
地面に着こうかという丈の長いスカートだったが、まさか中身がこんなだったとは。この女、胸だけじゃなく全身が神の産物だったとは。
「何処まで近付いて来るんですの!?」
「ぶっ・・・」
もう少しで顔が着きそうだったが、翻したスカートでひっぱたかれた。思った以上に痛ぇ。
「いや、綺麗で羨ましいと思って。」
俺もスカートを上げて自分の足を見せる。やっぱ細ぇ・・・
「舌を出していませんでした?」
だが、俺の誤魔化しは通用していないようで、メイニは目を細めて言ってくる。くそ、俺のバカ。だが目の前でそんなものを披露するお前も悪いからな!
「いや、気のせいだろう。ただ、見とれて口は開いていたかもしれねぇ、すまん。」
「まぁいいですわ。それと、約束の報酬。」
疑いは晴れていないようだが、金貨の入った袋をメイニは渡して来た。どうやらスカートの中に隠していたのを、今取り出したようだ。
「ちょっと手を出してくれ。」
「なんですの?」
首を傾げながらもメイニは手を出す。俺はそこに、袋から金貨を出して1枚ずつ置いていく。
「割引だ。」
「あら。宜しいの?必要なのではなくて?」
まぁ、必要っちゃ必要だが、今すぐでなくてもいい。俺は9枚の金貨を乗せた後、最後の1枚をメイニの目の前に持っていく。
「それと、女神の美貌に。」
そう言って胸の谷間にその金貨を挟んだ。
やった。
やってやったぞ!何て神々しく羨ましい金貨だ。
本当はそこに挟みたいのは金貨じゃねぇ!ちくしょぅ・・・
「わたくしは金貨1枚の価値って事かしら?」
メイニは怒るでもなく、むしろ腕を組んで強調した上に挑発するような表情をした。くそっ!
飛び込みてぇ!
それより、やっぱこの女、薄々感づいてんじゃねぇか?
「それこそ愚問、美しさの頂点に存在するからこそ金貨も集まると言うもの。」
「そういう事にしておきますわ。」
ふぅ、我慢できなかったぜ。鉄拳の覚悟もしてはいたが、飛んで来なくて良かった。
「では、有難く頂きますわ。」
それから麓まで降り、メイニとは別れる事になった。街道に迎えが来てる予定だとか。
「あぁそうだ、これ。」
俺は別れ際、メイニに紙袋を渡す。
「何ですの?」
「サイナスだけが要因じゃないかもしれん。住む場所も変わる。また眠れなくなったら、飲むといい。」
「まぁ、気が利きますわね。」
テンション上がり過ぎて、睡眠薬を渡すの忘れるところだったぜ。
「また機会があれば、お願いしますわ。」
「あぁ。俺もそのうち王都に店を出すつもりだ。そん時はよろしく頼む。」
「なるほど、そのための資金でしたのね。なんなら、わたくしが融通してもよろしくてよ?」
「いや、それは自分でやる。」
「そう。では楽しみにしておりますわ。」
メイニは含みの無い笑顔で言うと、街道の方へ歩き出した。理屈抜きにして、美人なんだよなぁ。生前は、あんないい女に出会った事がねぇよ。
くそ、なんで男じゃねぇんだ、俺。
「なぁエリサ。」
「なんだご主人?」
「うまいもの食いたいか?」
「いつでも食いたいぞ。」
「よし、なら明日の昼は贅沢に食いに行くぞ!」
「ほんとか!?行くー!」
気分の良かった俺は、帰路につきながらそんな事を言っていた。エリサの喜ぶ顔も、たまにはいいかと思いながら。




