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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜の誘い

作者: 水蓮


その日は少しばかり冷え込んだ6月だった。


普段通り寝坊して慌ただしく着替えてる中、リビングで流れていたテレビから聞こえてくるニュースでは、確か今年の梅雨は例年よりも雨が降る。なんて言っていたような気がする。


急いで学校に向かう途中、曲がり角で急に現れた男の人とぶつかった。まるで、恋愛漫画のように。

ぶつかった人には悪いが、衝撃で落とした鞄を持って一言謝ってから学校へと急ぐ。


すれ違った時に少し鉄の香りがしていたのを覚えている。


学校に着くとどうやらギリギリだったらしく、席に着いた瞬間チャイムがなった。その後も特別変わったことも無くいつも通りの日常が流れていった。帰り道までは。


仲良しの友人2人とくだらない事を話しながら帰っていると、ふと心霊スポットの話になった。正直私としては幽霊は居ないと思っているし、特に思うことは無かった。

ああ、いや。その話題を切り出したのがビビりでホラーゲームすらまともにプレイできないやつだったってこと以外は。


その当時の私は『 あー、心霊スポットねぇ、肝試しでもすんのかな?

そういえばもう夏か。今年の夏もジメジメしてんのかなぁ』なんて事を考えて話を聞き流していた。もっと真剣に聞いておけば、きっとなにか違った結末になったのかもしれないのに。


ふと話に意識を向けると、どうやら勝手に私を含めた3人でネットで少し有名な廃墟が近くにあるらしく今夜早速行くことになっていた。


おいおい、人が考え事してる最中に話進めすぎだろ。


話を切り出したビビりの方は勿論、もう1人の方もホラーや心霊スポットがどうやら好きだったらしく乗り気だった。

流石にここで断る訳にもいかないし、夜に予定は入ってる訳じゃない。


了解、と返した次の瞬間にはじゃあ、今日の夜10時に、旧3号線沿いのコンビニ集合で!と場所と時間を指定してくる手際の良さには舌を巻く思いだ。


家に帰り、夜ご飯を食べてスマホをいじっていると時間なんてあっという間に過ぎていく。

自転車の鍵を掴んで外に出ると6月とは思えない外の気温に身震いし、すぐさまジャケットを引っ掴んでくる。


どうやら家でのんびりとしている間に雨でも降ったらしくアスファルトが濡れていた。

まぁ、雨が降ったあとなら冷え込むのも仕方ないな。なんて思いつつ自転車を集合地点へと走らせる。


街の端にある旧三号線は隣町へと行くのに昔よく使われたと誰かから聞いた記憶がある。今は新3号線ができたとのことでまだ深夜でもないのに人気はほぼない。


コンビニに着くと時刻は午後9時45分。辺りを見渡せば開拓が途中で頓挫した高速道路、やってるのかどうか分からないホテルなんてものが見え、道路沿いは木々によって隠されている。ちょっと早く着きすぎたか、と思い少しすいた小腹を埋めるため、ホットスナックを買ってあと2人の到着を待つ。


2人とも丁度集合時間の五分前に着き、合流することが出来た。


件の心霊スポットはここからそう離れた場所ではなく15分ほどでたどり着く廃墟との事だ。

どうやらそこは死体の集積所なんてあだ名がネットでは付けられるくらい死体投棄事件が起きているらしい。


いやいやいや、死体投棄って。心霊スポットって私たちが心霊になりそうなんだけど???


ホラー好きな友人も今から会うのは幽霊とかじゃなくて裏稼業の方々かもしれないってのに気付いて、行くのを嫌がっていたが不思議なくらいそこへ行きたがる友人にその事件が起きたのは10年くらい前だからといわれ、熱意もあって説得されてしまった。


こうなればヤケだ。2人だけを送り出す訳にも行かないし、3人で向かった方が安全だろう。もし少しでもおかしなことがあれば直ぐに帰ると言い含め、向かう事にした。


着いたところは廃墟とは思えないほど見た目が綺麗な二階建ての白い小さな建物だった。

といっても廃墟なのには変わりないようで1階の窓ガラスがいくつか割れている。

管理地とだけ書かれた看板も掠れていて誰が保持しているのかすら読み取ることが出来ない。

聞くところによるととある会社の社員寮として立てられたらしいが、建築最中に会社が潰れ放置されているらしいとの事だった。


到着して建物中央にあるエントランスホールを見るとビビりの癖に直ぐに中へ入っていった友人を追いかけるようにもう1人も入っていく。

長年放置されているからだろうか、少し鉄の錆びたような匂いが辺りに充満している。


しかし、そんなことはお構い無しの如く勇敢に進んでいく2人の友人たちとは対照的に、立ち止まって私はこの廃墟に到着した時から止まない嫌な予感に着いて考えていた。


誰かに見られてる気がする。気のせいだろうか?確かに雰囲気はこれ以上ないほど不気味だ。

だが、友人達にこんなことを言うと『ビビってんのか』なんてからかわれるのが関の山だ。不本意ながらしぶしぶと先へと進んでいる2人の友人を追いかけ、中へとはいる。


エントランスへと足を踏み入れると、床に砕けて散らばっていた窓ガラスの破片が割れる音がする。明かりは手に持つスマホしかない事に気づき、準備をしっかりしてくるべきだったと悔やむ気持ちで胸がいっぱいだ。


次心霊スポットに行く際には持ち物を揃えてからにしないとな。まぁ、そんな機会は金輪際無いのだが。


エントランスを抜け、食堂予定らしい大ホールを横目に、薄汚れた黄緑のリノリウムで出来た床を歩いて行く。すると階段がありその前で2人が立ち止まっていた。


どうしたんだ?なんて声をかけても反応はない。


肩を掴んでこっちを見させると2人とも青ざめた表情で目の前にある階段の横の壁を指さしていた。


携帯のライトでそこを照らすと真っ赤な液体で書かれた目玉をモチーフにしたであろう不気味なサインが書かれていた。


確かにものすごく不気味だが、廃墟ってこともあり不良が書いたのだろう。そう思い、改めて2人へと何があったのか聞いてみる。


「お前…、気付いていないのか?」

「このマークは何か分からないけど、この赤い液体は血だぞ。しかも赤いってことは書かれてから時間がそう経ってないってことだ…」


ホラー好きな友人が怯えて声が出せそうにないもう1人に変わって小声でそう説明してくれた。


確かに血だとするならここに到着した時から充満している鉄の香りにも説明ができる。


流石にこれを書いた犯人がいるかもしれない、いや、恐らくこの建物のどこかにいるのだろう。そんな状況の中ならば、さっさと帰ってしまうべきだ。


そう2人へと提案すると、以外にもホラー好きな方は賛成してくれた。いくらホラーが好きといえど自分がその立場になるのは想定外なはず、無理もない。


しかし、ビビりな方は声も出ないほど驚いているというのに階段を登り始めた。

あいつ一人を置いて帰ってしまうのは友人として考えられない、2人でその背中を追いかける。


1階とは違って2階は住居として使う予定だったのだろう。個室が7つ、奥の扉以外つけられてはいなかった。左側に作られていて右側はくすんだガラスが嵌められていた。


黄緑の床にはまだ新しめであろう血の足跡が付いていた。その足跡以外にもおそらく同じ形の茶色の血の足跡もある。あのサインを書いた犯人はなんの目的かは分からないがここに長い時間通っているのだろう。


新しめの足跡は唯一個室の中で扉が付いている奥の部屋へと向かっている。

そして友人は私たちに最も近い部屋の前で立ち止まっている。


急いで友人の元へと向かった私たちは部屋の中を目撃してしまった。


その時、私の目に飛び込んできたのは赤褐色で染まった部屋とその中に唯一置かれている家具である木製の椅子。そこには人だったものが座って手足が固定されていた。


人だった、そう表現したのはその人の目が窪み、鼻、耳は削ぎ落とされ、全身の皮膚を剥がされ、首の頸動脈と心臓にナイフが刺さっていたからだ。


部屋を染めている赤褐色がおそらくこの人から飛び散った血だったということは想像せずとも理解出来、その場で吐いてしまった。ホラー好きな友人は映画でこんな状況を見てきたせいか耐性があり、吐くまではなかったが腰が抜けている。


もう1人のビビりな友人は顔こそ青ざめてるものの、隣の部屋へと移動していく。


さっさとこの場から抜けて帰ろうと声をかけるため隣の部屋へ向かう。


隣の部屋ではさっきよりも残酷な光景が広がっていた。


奥の壁に裸の男性が十字架に吊るされていて、腹部にはいまさっき階段で見たサインが彫られている。

手足は何かに噛まれ食いちぎられた跡が垣間見える。

頭部は皮膚を剥がされ、筋肉が露出しており、頭蓋が叩き割られていた。


軽い気持ちで来た肝試しでこんな残酷な光景を見ることになるなんて思いもしなかった。早くこの場から離れないと…。


死体を見て立ち止まってる友人たちを掴んで出口に向けて引っ張る。幸いにも奥の部屋からは音がしない。見逃しているのか気付いていないのかは分からないが早く帰って通報しないと。


意識を失ったようにボーッとしているふたりをなんとかエントランスまで引っ張ってきて2人の顔を叩いて正気に戻す。


2人とも正気に帰ったようでさっさと帰ろうと言うことで話が纏まった。特にビビりの友人はいまさっきとは打って変わって泣きながら足が震えていた。まるで別人に乗っ取られていたような感じだ。


そこから家に帰るまで記憶が無い。家に着いたのは1時過ぎで家族は全員眠っていた。


通報する気力もわかず、その日はそのまま眠ってしまった。



その後、通報したがイタズラと勘違いされたのかマトモに受け取って貰えず、かといってもう一度あの場所に行くなんてのは考えられない。誰かにこのことを話すなんてもってのほかだ。


そうして悶々とした思いを抱えて半年が過ぎてしまった。



どうしようかと半年たった今でも頭を抱えていると、チャイムがなった。

何が注文してたっけ、なんて思いつつ玄関へと向かい、扉を開ける。


目の前にたっているのはほのかに鉄の香りを漂わせるコートの男だった。








『 S県、T町で高校生3人が失踪するという事件が起こりました。近隣の皆様は情報があれば近くの警察署へお願いします。』






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