プロローグ⑤ 魔法使いの見解
プロローグとだけじゃさみしいので、サブタイトルをつけてみました。特に悪評じゃなければ続けていくと思います。あ、あと感想や評価、ブックマークをいただけると、自分の作品に読者がいてくれいるんだ。とわかって非常にうれしいので、遠慮なしにどんどんください!
戦いの後
お互いお腹も空いたということで、
私たちはショッピングモール内のフードコートで腹を満たそうという話になった。
先程は久しぶりに体を全力で動かしたので、ガッツリしたものが食べたくなり、私の希望で丼物のバリエーションが豊富なそこそこ人気のあるチェーン店を選ぶことにした。
「よく食べますね。それ、乙女の嗜みのつもりですか?」
男の子だというのに私の半分の量も食べていない江島君が何やら若干非難の色が含まれてそうな目でこちらを見てくる。私はむしろ平均的な20代女性よりもスリムなモデル体型だと言うのになんと失礼な。
「む、君こそ今は食べ盛りでしょ?もっと食べないと」
私の前にはすでに椀が2つ、大皿が1つあるというのに彼の前には先ほどまで卵焼きが乗っていた長皿がポツンと孤独にあるだけだ。
「孫と食事に行くおばあちゃんみたいなこと言いますね。まぁ別に俺は単に少食なだけですから。遠慮とかじゃないですよ。」
嘘だ。記録では江島玄意は一般的な高校生らしく2人前ほどの量は完食できる胃袋の持ち主だ。
私の奢りだからと遠慮しているのなら問題ないのだが、
………………
あぁ、1ヶ月ほどでは癒えないとはわかっているが、最近の彼はこちらに来たばかりの時に比べ幾らかマシ、いや、そう見えていたから少し期待してしまったな。
「そっか、なら仕方ない。でもお腹いっぱいってわけじゃないでしょ?ここのシラス丼結構美味しいんだよ、1口食べてみてよ。」
スプーンにたっぷりシラスが乗るようにしてそのまま彼の口に近づける。
「い、いいですよ。…1人で食べてください。」
「まぁまぁ、私もお腹いっぱいでさ、助けると思って」
私がそう詰め寄ると渋々だが、口を開いてくれた。
「どうどう?お味は?」
「…ご飯とあって素材の味はとてもいいですけど、醤油の主張が強すぎる気がします。かけすぎです。」
「えぇー、そうかな?普通じゃない?」
てっきり美味しいって言って貰えるかなと思ってたのに、なんかお説教くらった気がする。
私は醤油好きだから、そんなに多いと思わないんだけどなぁ。
「それと、その袋何が入ってるんです?」
「お肉だけど?」
「その隣の袋です。」
特売の肉が牛、豚、鶏問わずごちゃまぜにたっぷり5日分は入った袋の隣、肉袋と同じかそれより少し小さいかといった程度の大きさの袋を目線で促される。
あぁ、これは
「ホルモン関係のお薬と、帰ったら食べようと思ってたい焼きを少々…」
「…さっきお腹いっぱいとか言ってませんでした?」
「買った時は思ってなかったんです!」
ムキになって語尾を強めてみる。江島君はもう諦めたようにこちらを見つめている。今にもため息が出てきそうだ。
「そういえば、あの時って、やっぱり使ったりしてたんですか?魔法」
食事を終え、次の目的地に向かって歩いている私に、後ろから江島君が変わった質問をしてくる。
あの時とは多分ショッピングモールを疾っていた時のことか。到着するのが遅れた分を取り戻すために魔法を使ったのではないかと、もしや、私ズルい女と思われてる?
彼の真意を勝手に妄想し、私はほんの少しだけ血が上がって、口調がキツくなってしまう。
「使ってません。そもそもあの場で満足に使える魔法なんてせいぜい、身体強化くらいです。それも私は使えませんし。知りませんでした?私、魔法使いのレベルはすごく低いんですよ?」
「えっ。そうなんですか?てっきりすごい魔法使いなのかと思ってました。だって……」
「だって?」
どうやら、彼の中での私の評価はこんな実物以上だったらしい。まぁ、そんな魔法使いがたかがバーゲンセールに自身の修練の結晶を使っていると思われてるのは癪に障るが。
私は彼の話の続きが気になり、その先を促す。けど
「いえ、なんでもありません。」
あっさり、断られてしまった。
なんでもない、なんてことはない気がするけど、
「そう、まぁ、私はそんなにすごい魔法使いじゃあないから、それがわかってくれたらよろしい。」
私はその先の曲がり角を右折する時に、なるべく自然にチラリと彼の方を見る。
江島君は顔を道路の方へ向けていたため、表情は読みづらい。
けど、なんというか、もどかしそうだった。
言いたいことはあるけど、言っちゃいけないとかそんな感じの。
「 」
何も言わずただ私は彼の先を歩く。
彼もまた無言で私の後をついてくる。
道の奥から見ているだけで幸せそうな3人の家族連れが見えた。
父と娘、娘と母はそこにあるのであろう絆のように強く手を握って、仲良く歩いていた。
目が合ったので軽く会釈する。両親も気分がよいのかにこやかに笑って返してくれた。そんな父と母を見習ってか小さな女の子は元気いっぱいに、おはようございます。とその歳に見合った可愛らしい仕草で私に挨拶してくれた。私は笑顔を作って、彼女に手を振る。
それからまた少し歩く。
遠くから、野球と思しき掛け声が聞こえてきた。
どうやら目的地はそう遠くないらしい。
私は彼の先を歩く。彼が迷わないように。
彼は私のあとを歩く。それしか道はないのだと。
彼の手を繋ぐ必要はない。もとより権利もない。
まるで他人のような距離感。
その絶妙な関係こそ、私があるべきところだと思う。