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プロローグ④

投稿が大変遅くなってしまい申し訳ない。

あと今回でプロローグを終える予定でしたが、まだかかりそうです。

ほんと嘘つきでごめんなさい。

なるべく三日に一度投稿できるよう頑張ります。

明見山駅(みょうけんざんえき)は所謂無人駅である。

山という特殊な地形から人の往来が少ないのがその所以たろうが、

古臭い10円玉みたいに変色したトタン屋根。

券売機のボタンだって全て埃にまみれていて、

何も知らないものが見たとしても、それを容易に想像できるくらいだ。

卯ノ花さんはすでに切符を買っていて、俺もそれに続くように切符を買う。

明見山駅から目的の三甲駅までは距離にして20キロ、乗り継ぎの時間を含めるとおよそ30分ほどだ。駅のホームを見るとそこに目的の電車は見当たらなかった。

家を出発したのが8時半ぐらいだったから、もしかすると間に合わなかったのかもしれない。

不安になり隣に目を移す。

卯ノ花さんの顔は日差しが邪魔でよく見えない。

もし間に合わなかっていなかったら怒るだろうか。滅多なことでは声を荒らげたり、はない。

だけど、すごく時間かけて、滅多にしないおめかしなんてしてたから。

きっとこの日を楽しみにしてたんだろうから。


「………………」


行先とは逆の方向、つまり電車がやって来る方向を覗く。流れるのは無音。そよ風だって立ちそうにない。


「大丈夫よ。ほら、間に合った。」


「えっ」


汗を流す俺とは対象的な涼し気な物言い。

卯ノ花さんは切符売り場からやや上の方を指さしている。

長針は11と12の間を指していた。


「へぇ、こんなところにもあるんですね、時計。」


「というか、大抵あるよ。時間を目安にして到着、出発するんだから、その目安を確認する手段はあって当然でしょ?」


「いや、そのくらいは分かりますよ。ただこんなオンボロな駅にもそのくらいはあるのかって思っただけです。」


ほんの1ヶ月前まで陸での本土との交通機関が一切隔たれていた島で暮らしていた俺にとって、電車なんて知識でしか知らないもので、まるっきり縁というものがない、おそらく今の卯ノ花さんはその辺の事情を考慮してのことだったのだろう。


「しかし、危ないねぇ。磯坂さんが長話始めてたら間に合わなかったかもね。ふふん。これも日頃の行いというものか。」


「…日頃の行いが良い人はこんなギリギリを生きてないんじゃないですかね。」


「あっ。…もしかして私が遅れたこと怒ってる?」


「別に」


「謝るよぉ。そんな冷たく言わなくても」


しょぼん、とあざといというか、どこかわざとらしく顔を俯かせている。

彼女は申し訳なく思っているようだが、

実際俺は別に怒っているわけではない。

単によく考えたら間に合わなくても彼女の自己責任なのでは、と思っただけだ。


ゴォォンと猛々しい嘶きが聞こえる。

鉄の馬を思わせるそれは観覧車のごとくゆっくりと目の前に停止した。


車内は冷房が効いていて暑さに敗れていた体が生き返るようだった。時間帯の割に乗客が数名ほどなのはこんな辺鄙な場所へも丁寧に停車するところなのだろう。

俺と卯ノ花さんは適当な場所に腰をかけ、

他愛のない、何を実らせるでもない話をしながら目的地までの時間を潰した。


サンサンと

地を照らす太陽が天を指している。

卯ノ花さんの目的は俺の予想通りで、

三甲駅前の高層のショッピングモール。本日8月29日は肉が大変お買い得らしく、最低でも今日から3日分の豊かな食卓は確約するため、

日頃静かに世を生きる奥様方と、鬼気迫る激しい戦いを繰り広げた。


結果を告げると、銀色の悪魔が戦場を制し、見事戦果を持って帰ってきた。

店の開店時間は午前10時で、なんとかその20分前には着くことができた。

しかし勝ちにくる猛者は1時間は前に列を作るらしく、俺たちが到着した頃にすでに行列は30人を超えていた。

俺は自分が何か大変なものに参加させられようとしていのるのではないか

足は震えて、心臓がバクついてきた。

俺自身はなんだかんだ、せっかくついきたんだし、と仕方なしではあるがやる気は一応あったのだが、


江島君は入口で待ってたらいいよ。


とどうやら俺は戦力として連れてこられた訳ではないらしい。

そして連れてきた当人がこう言うもんだから、俺も素直に彼女の命運を見守るとした。

こうして開店の合図とともに卯ノ花さん1人の戦いが始まったのだが、

何にせよ酷いものだった。

開始直後、彼女は1人飛び抜けて走り出した。

走ること自体は他参加者も行っていたのだが、

彼女はただ1人全力でモールを疾走していた。

恥と外聞を無視して、およそ20代と思われる若さを力にして、他の参加者を嘲笑うように、いや実際に嘲笑いながら1人独壇場をきめていた。

戦いは始まって10秒も経たずに勝者が決せられてしまった。


入口で待っていろと言ったのはせめてもの慈悲だろうか。

俺はそれを見ていただけだというのに、まるで自分のことみたいに恥ずかしかった。



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